54 / 67
ギルドマスター③
しおりを挟む「じゃあ俺も単刀直入に聞くけどさ。この世界って本当に戦争しているの?」
俺は冒険者ギルドマスターであるアルマテア・ガラハッドに単刀直入に問うた。
「明星君、唐突過ぎやしないかしら」
「いや一ノ瀬、君だってこの世界の歪さはどこか感じていただろ?」
「それは……」
アリスが言葉を詰まらせた。察するにやはり彼女も俺と同様の疑問は抱いていたらしい。
ずっと疑問だったことだ。
そもそも勇者と魔王という前提が可笑しい。元いた世界にもそういう話は数多く存在したが、あくまでも神話や創作でしかない。
魔王軍という国に匹敵する規模の脅威に対して、勇者という個人で対抗すること自体がナンセンスなのだ。
勇者が弱かったら? 勇者がしくじったら? 勇者が反逆したら?
簡単に思いつくだけでもこれだけの不安要素があり、あまりにもリスクや運要素が高い。そんな存在に世界の命運を託すなど正気の沙汰ではない。
しかしそう疑問を抱いたところでこの世界に対する情報が少ない現状、俺の中に明確な答えもましてや仮設すらない。
しかしギルドマスターという決して低くはない立場にいる彼女であれば何か知っているかもしれない。
「どうしてそう思ったのかな?」
流石と言うべきか、こんな突飛な問いにもギルドマスターの表情は崩れない。
「まぁもうご存じかもしれないけど、異世界人である俺達からしたら勇者や魔王なんて話は創作物でしか聞いたことがないんだよね。だから当然の疑問なんだよ。それに王国の態度がどうにも引っかかる」
更に極めつけが王国側の態度だった。どこの馬の骨かも分からないような異世界人に頼ること自体が意味不明なことはもちろん、国の存亡を懸けた戦争中にも関わらずその態度はあまりにも余裕に溢れていた。
なんだったら戦争の核とも言える聖剣を持つ勇者、つまり俺に訓練をさせないぐらいの舐めプ具合だ。そう疑問に思うのは当然と言えた。
「その疑問を私にぶつけてきたのは、君で二人目だよ」
またか。ニャルメアの時もそうだったが恐らく異世界人かつ俺と似たような考えを持った存在がこの世界にいるようだ。
「マーリンというなんとも不思議な雰囲気を纏った少女だったよ。まぁそれは一度置いておくとして」
アルマテアはどこか遠い目で懐かしむように呟いた。俺にはあずかり知れぬことだが、色々とあったらしい。
「まず君の疑問に答えようか。まずこの世界には魔王軍という明確な脅威は存在し戦争しているのは確固たる事実だ。ただ――」
一拍。
「魔王軍はどうか知らないが、人類側の戦争による死傷率が有り得ないと思えるほど少ないのだ」
「それって――」
しかし残念なことに俺が次の言葉を発しようとしたその時、遮るようにギルドマスター室にギルド職員が飛び込んできた。
「そんな慌ててどうしたんだい? 一応私達は大事な会議をしていたのだが」
「そんなことを言っている場合ではありませんギルドマスター! 王国兵達がこのギルドを取り囲んでいます!!」
まさかの展開。俺の問いなどもはや遥か彼方。事態は新たな局面へと突入しようとしていた。
53
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる