51 / 67
ニャルメア・ナイトメア
しおりを挟む「アタシの名前はニャルメア・ナイトメア――いざ推して参るニャッ」
瞬間、ニャルメアの姿が消えた。そしていきなり目と鼻の先の距離に出現した。
「死ねニャ」
ギイイインッ
咄嗟に影魔術:影刃を発動させ、首筋目掛けて一直線に迫る刃を間一髪で受け止めた。
あ。あぶねぇ。一応、念のため咄嗟に影装甲で全身を覆ったが気が気じゃねぇよ。
ニャルメアは刀を切り下がるように振り、その反動を利用して俺から距離をとった。
「アタシの初撃を受け切る奴なんて久しぶりニャ。これは中々楽しめそうだニャッ!」
ニャルメアはそう言いながら瞳を爛々と輝かせた。なんというか夏休みに半そで短パン格好で虫取り網を片手に駆け出す少年ばりの目の輝かせ方である。バーサーカーかよ。
「明星君っ!」
「一ノ瀬は下がってて!!」
今にも俺の方に駆け出そうとしていたアリスに手をかざして静止させた。
この相手は先程のゴロツキ達とはまるで違う。アリス自体の魔術能力は凄まじいものだが、如何せんニャルメアとの相性が悪い。そもそもまだレベルにも不安が残るし、彼女が光るのは一対大勢だ。
彼女には悪いが引き続きここは俺がやるしかない。非常に気が進まないことこの上ないがやるしかない。
「行くニャッ!」
「こっちくんな! 影縛!」
その言葉を起動音に発動された影魔術。俺の影から這い出るように四本の影巨腕が出現した。
そして巨影腕達はニャルメアに殺到した。その勢いたるやアイドルの追っかけの如き凄まじいもので彼女の華奢な体など簡単にへし折ることが出来るだろう。
「ふ~んふふ~んふふ~」
しかしニャルメアどこ吹く風といった感じだ。まるで危機など感じていない。しかも鼻歌まで口ずさむ始末だ。
「うーん、こうも多いとしゃらくさいですニャ――三ノ太刀:黒死線」
次の瞬間、ニャルメアの刀が空間を縦横無尽に駆け回った。
計五連斬。
その刀より放たれた斬撃はまるで隈なく張り巡らされた蜘蛛の糸のようだった。
「へ……?」
そして影縛により生成された四本の巨影腕はその尽くが細切れにされてしまった。んな馬鹿な。
「さてさて次はこっちの番ニャ」
ニャルメアはそう言いつつも何故か刀を鞘に納めた。しかし戦闘を終了したという雰囲気でもない。むしろ逆。彼女は依然として刀の柄に手を掛けたままだ。
これは……居合か!
「覚悟するニャ。一にして奥義」
ニャルメアはその考えが正しかったと言わんばかりに、右手を刀の柄に添えて左手で鞘を掴んだ。そして足を肩幅程度に開いて前傾姿勢をとった――来る。
「一ノ太刀:重雷」
次の瞬間、ニャルメアは剛弓より放たれた矢のように俺目掛けて飛び出した。
しかし俺はそんな状況にも関わらず不可解な感覚に陥った。景色がとてもゆっくりなのだ。まるでスロー再生した映像のようだ。アリスやニャルメア、もちろん俺も。迫り来る抜刀された刀。その視界に映る全てがゆっくりと、そして確実に動いていた。刀が向かう先はもちろん俺の首。
これってもしかして走馬灯か……?
不味い。慌てて影刃を発動させるが、やはり遅い。直感的に理解した。これはニャルメアの刀が俺の首に到達するまでには間に合わない。
そうなると俺はもう天に身を任せるしかない。レベルアップにより向上した耐久性能と影装甲による防御性能が刀になんとか耐えることを祈る他ないのだ。
南無三。
ギイイイイイイイッ
耳をつんざくような擦れ合う金属音。
恐る恐る首元に視線をずらすと、どういうわけか俺の首は無傷であり、刀が俺の首に到達していなかった。
「ははーんアタシのこの一撃を受け止めるとか、その剣は中々の業物と見たニャ」
理由は簡単。聖剣ちゃんが俺とニャルメアの間に滑り込んでくれたからだ。今回は素直に助かった。
「その剣はさっきまでアリスちゃんの近くにあったと記憶しているニャ。しかも誰の手も借りずにひとりでに、あたかも意志があるようにその剣は勝手に動いたニャ」
そんな奇奇怪怪な状況に恐れるわけでも驚くわけでもなく、ニャルメアはまた爛々と瞳を輝かせた。
「そんな武器は聞いたことがないニャ。仮に存在したとして神話級の武具――例えば聖剣とかニャ」
そして確信めいた口調でそう断言した。
まじか。色々とバレテーラ。
「その反応、半信半疑だったけどまさかカゲトが勇者だったとは驚いたニャ。勇者ってもっとキラキラしていると思っていたニャ!」
「うるせいやい。余計かつ巨大過ぎる御世話だっての」
なんだとこの野郎、陰キャが勇者していたらおかしいってか。陰キャだからか陰キャだからなのか。
もう色々諦めたけど俺だってなんで勇者しているか皆目見当もつかないよ。あ、でも王国から逃亡しているしもう勇者扱いじゃないのかな。なんか元勇者とかの肩書の方が格好良く見えるから不思議だよね。
「一応終わったと考えていいのかしら」
「みたいだね……」
アリスが恐る恐る俺に尋ねた。
件のニャルメアはもう戦闘を継続するつもりがないらしく、おもむろに刀を鞘に納めた。そして呆然とする俺達に満面の笑みでこう告げた。
「さてさてお遊びはここまでニャ。我らがギルドマスターがカゲト達をお呼びニャ!!」
55
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる