38 / 67
聖剣
しおりを挟む『あ、それキャンセルで☆』
そんな聖剣ちゃんの無配慮の塊と思えるほど明るい声がこの空間を凛と貫き、次の瞬間アリスの腹部に魔角猪の角が強襲した。
「ア、アリスーーーーーー!!!!!」
思わず手を伸ばすが遅い。あまりにも遅すぎた。当然ながらその手が届くことは決してなかった。
その光景は俺をあざ笑うかのようにスローモーションに再生され、彼女が無慈悲にも貫かる様をこれでもないかと明瞭に俺の網膜に刻みつけた。
「……カハッ」
まるでレベルが上昇していないアリスがその一撃に耐えられるわけもない。彼女は盛大に吐血した。
しかし非常に情けないことだが、今ので混沌と化していた頭の中がほんの少しだけ晴れた。とにかく今は足を動かさなければならない。
「魔剣ちゃん!」
『あ、うん!』
魔剣を強引に掴む。そして俺はレベルアップにより向上した身体能力を駆使して強引に魔獣とアリスの間に滑り込んだ。
「ブルルルルッ……!」
うるせぇ。
魔角猪は突然と目の前に現れた俺に敵愾心を露にさせるが知ったことではない。
アリスの腹部に視線を送る。魔角猪の角は彼女の腹部に深々と突き刺さり、周辺の服から血が滲み出ていた。
一度引き剝がすしかないか。
本来であれば血が噴き出る関係で角を引き抜くのは得策ではないのだろう。しかし今は一秒を争う状況だ。そんな事を配慮している場合ではない。
「地の果てまで吹っ飛べっ」
「プギイイイッッッ」
俺は魔角猪を強引に蹴飛ばし、後方へと吹き飛ばした。レベルアップにより向上した身体能力は凄まじく、俺より一回り以上も巨大な魔角猪はまるでゴム玉のように地面を転がっていく。
まだだ。
「行くよ魔剣ちゃん!」
『うん!!』
そのまま地面を蹴破る勢いで疾走し転がる魔角猪を追い抜いた。
ズパンッッッ!!!
「プ……ギィ……ィ……」
そして魔剣にて一刀両断。魔角猪は胴体から横に真っ二つに分断されてそのまま絶命した。
◆
「……」
まだヒクヒクと動く骸を眺めてはみるが、俺の心には何の感慨も浮かんでは来ない。魔獣とはいえ生物を殺したはずなのに、ただただ心臓がゆっくりと冷めていくような感覚だけがあった。
『マスター! なにボーッとしてんのよ!』
魔剣ちゃんの叫びで俺は我に返った。そうだ今はそんなことしている場合ではない。
「一ノ瀬!!」
「あ……う……」
急いでアリスに駆け寄り抱きかかえた。
恐る恐る彼女の腹部に視線を移すが、見れたものではなかった。傷が深い。そしてあまりにも出血が多過ぎた。
「あ、ああ、あああ……また、また僕は……」
絶望する中、辺りに響いたのはやはり能天気と思えるほど明るい声だった。
『ち・ち・ち。絶望するにはまだ早いですよ?』
「お前……」
ギョロリ。
俺の双眸からそんな音が聞こえた気がした。誰の、誰のせいでこうなったと思っている。
しかし当の聖剣はどこ吹く風といった感じだ。まるで自分は何も悪いことはしていないと言わんばかりの態度とすら思えた。
なんだ。なんなんだコイツは。
今、俺にはこの聖剣が言葉は通じるのにまるで話が嚙み合わない存在、人では理解可能な範疇の外に位置するナニカに見えた。
『嫌ですねマスター、そんな目で見ないで下さいよ。いくら超絶美少女天使聖剣ちゃんでも照れちゃいます』
そんなどうしようもない問答をしているうちにアリスの容態は刻一刻と悪化していった。
「……コフッ」
『アリスちゃん!?』
魔剣ちゃんがアリスを見て叫んだ。
不味い。不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い。
どうすれば。どうすればいい。
今から都市に戻って間に合うか。そこまでアリスが持ち堪えるようにはまるで思えなかった。しかし俺に回復手段はロクになく、それ以外の手段は存在しない。
死。
地獄の底とも思える絶望が頭を過ったその時、
『おっと私としたことが失敬失敬。このままじゃアリスちゃんが死んじゃいますね☆』
は?
『聖剣★ヒーリング!』
まるで理解不能だったが聖剣ちゃんがそう叫ぶとその刀身からアリスに向けて淡い光が降り注いだ。
そして光を受けた彼女の傷はみるみると塞がってしまった。
はい?????????????
61
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる