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EX6 冒険者ギルド
しおりを挟む一ノ瀬アリスが魔角猪に腹を貫かれた頃、彼女達が拠点としている都市の冒険者ギルドマスター室内ではとあることが話題に上がっていた。
「ニャははは~まさかこんなことになるとは驚きましたニャ」
「ふむニャルか。ここに来たということは例の件に関する報告かな?」
随分気さくな態度で報告に来た猫耳受付嬢に対し、ギルドマスターは特に目くじらを立てるわけでもなく優雅に対応した。
ギルドマスターは大人の女性という感じだった。見た目年齢は恐らく二〇代半ばから後半といったところだろう。本来ギルドマスターという冒険者の中でも高位の立場であればもっと高齢の存在がつくはずだが、それだけに彼女の実力の高さが伺えた。
「相変わらずギルマスは話が早くて助かるニャー」
「なに、君の八面六臂の活躍ぶりには負けるさ」
「ニャハハハ、そこまでハッキリ言われると照れますニャ~」
何を隠そうこの猫耳受付嬢は受付業務の片割れに密偵・調査、戦闘までなんでもござれの活躍具合だ。
ではそんな彼女がわざわざギルドマスターに何を報告に来たかと言えば、先日の山脈龍種消失事件についてだ。
「では改めて例の件について報告を頼むよ」
「はいですニャ。魔の森をくまなく調査しましたが山脈龍種はやはり存在していませんでした。現場に残った大量の血痕から討伐されたと見て間違いないですニャ」
「ふむやはりそうか。死体等の残骸はなかったのかい?」
「それが奇妙なことに欠片も鱗の一枚も無かったのですニャ」
ギルドマスターは猫耳受付嬢の報告に首を傾げた。
最高位に迫るSランクの冒険者ですら手をこまねく山脈龍種が討伐されたこと自体も驚きだが、その山脈にも迫る体躯の全てが忽然と消えてしまったのはどうにも腑に落ちない。
「アーティファクトの類と考えるべきかな?」
アーティファクトとは神が天から授けたと言われる頂上の力を振るう魔導神具の一種だ。今回のように人知を超えるような出来事の際には、その背景に必ずと言っていい程その存在が確認される。
「そう考えるのが妥当でしょうニャ。血痕が残っているのはやや不自然ですが転移もしくは空間そのものが切り取られたと言っても過言ではないですニャ」
「心苦しいが一度放置する他なさそうだな」
もし本当にこの予想通りなら、それは都市すら簡単に飲み込むことすら可能な神具だ。本来であれば安全管理上、徹底的に調査を行い原因を究明すべきだ。
しかし如何せん何の痕跡も存在しない。ギルド的にも歯痒いところだが、これ以上調査する手段がないためそうする他なかった。
「それともう一つ報告ですニャ。本日、冒険者登録したカゲトという者が龍種の鱗らしき素材を買取依頼してきたニャ。買取は一枚だけで本人は拾ったと言っていたニャ」
「ほぅそれはまた随分と幸運な冒険者だな」
龍の鱗は高額でやりとりされる。なにせその材質は軽い上に鋼より強靭でしなやかさを併せ持つのだ。鍛冶屋からしたら喉から手が出るほど欲しい素材なこともあり、駆け出しの冒険者としては破格の金銭を手にすることが出来るだろう。
「しかし君がそれをわざわざ私に報告するということは、もちろんそれだけじゃないんだろう?」
「ハイですニャ。まず件の素材ですがやはり山脈龍種のものと判明しました」
「ほぅ」
「更にこの冒険者、アチシもこの目で見ましたがかなり奇妙な力を使うみたいなのですニャ」
「奇妙な力とは具体的に?」
「はいニャ。この冒険者が依頼書を吟味しているところカマセ氏に絡まれたの二ャ」
「またカマセ君か。彼には今度私から直接厳重注意することにしよう。それで?」
「カマセ氏が脅しのつもりで魔術をチラつかせたのですが、それが突然と消滅しましたニャ」
「は?」
ギルドマスターの表情が凍り付いた。
「それは本当かい? たかが駆け出しの冒険者が魔術を無効化したと?」
この世界において魔術無効化は高等技術に該当する。そんなことが出来れば王国の宮廷魔術師になることも出来るほど希少だったりするのだ。
「つまり君はこの冒険者が山脈龍種の件に深く関わっていると言いたいわけだ」
「ま、現段階だとあくまで可能性レベルですけどニャ」
ギルドマスターは猫耳受付嬢の言葉を聞いて深い溜息を吐いた。
あながち間違っていない推論だと思ったからだ。偶然に龍の鱗を拾った新規冒険者が、龍の火炎息吹を無効化することが出来る希少な魔術無効化能力保持者だったのだ。現時点ではやはり推論の域は出ないが、可能性としては捨て置けないレベルだろう。
「……勇者」
「はいニャ?」
「あ、いやなんでもないよ。忘れてくれ」
ギルドマスターは思わず零れた言葉に首を振った。
伝説によればかの勇者が扱う聖剣は世界を覆い尽くす炎すら切り裂いたという。多少強引だが、それはつまり魔術無効化能力とも解釈できるわけだ。
そして先日、王家により見出された勇者が逃亡したという噂がある。
もしかしたらその冒険者は……。
彼女はそこまで考えて、また首を振った。いささかこじつけが過ぎると考えたからだ。そんことを妄想するよりもまずするべきことがある。
ギルドマスターは改めて猫耳受付嬢を見据えた。
「しかしその冒険者、カゲトといったか? いずれにせよ調査をする必要があるようだな」
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