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絶対龍種を噛ませ扱いする最近の人類は最高にイカれていると思う件について
しおりを挟むアリス達の異様な雰囲気を纏わせた自己紹介が無事終わったところで、依然として俺達は深い森の中だ。王国から追手が来る可能性も考慮すると早々に移動したいところである。
「改めてここってどこなの?」
『王国からかなり離れた場所というのは分かりますがね。うーん一面のクソ緑』
その表現は色々アウトだろ。
しかしよくよく見渡すと今自分達がいるこの空間からして意味不明だ。森の中なのに無駄に開けている。しかも人工的に開拓したという感じでもなく、まるで巨大な何かが通り過ぎた跡と表現したほうがしっくりくる。
なんだかとても嫌な予感がする件について。理由は分からないけど今すぐ可及的速やかにこの場所から離れるべきと直感が叫んでいるんですけど。
しかしそう考えたところでここは異世界。右も左も分からないどころか、そもそも知っていることが存在しない。
聖剣ちゃん達が案内してくれれば助かるが所詮武器だ。怪しいものである。
『酷―い。雑魚雑魚マスターの分際で生意気ぃ!』
「いやいやいや僕の心の中を読むのはやめてよね」
ほんとやめて欲しい。陰キャオタクの心の中は湖の乙女心のようにデリケートなのだ。ええ、邪なことは考えていないです。世界平和とか? 他には……うーん特にないな。
『読んでないですよ? そもそもマスターは顔に出し過ぎなんですよ』
え、マジで?
『マジマジ。本気と書いてマジです』
『うんうん本当にそれな』
聖剣ちゃんの言葉に魔剣ちゃんも同意した。
そっかーそんなに分かりやすかったかー。割とショックだしポーカーフェイスの練習しておくか。そんな機会はないと思うけどいざという時に童貞とバレるのも嫌ですしおすし。
「はぁ、くだらないこと言ってな……あっ」
アリスは呆れたようにため息を吐いたこと思えば急に硬直した。まるで見てはいけないような。偶然に道端で口裂け女みたいな怪異に遭遇してしまったような芸術的な硬直だ。
「どしたん……ってマジか」
硬直したアリスが視線を向ける先に僕も振り向く。そして愕然とした。
成程。だからここ一帯の木々はなぎ倒されていたのか。
何せそこには身の丈にして十数倍の体躯を持つドラゴンが悠然と鎮座していたからだ。
◆
昨今ドラゴンと聞けば過去の八面六臂とも言える活躍は遥か遠く。もはやかませという名の烙印を押された状態だ。もうね、なろう系小説でチーレム主人公に散々と瞬殺されまくっているわけですよ。いっそ哀れなまである。
「グルルルル……」
「わぁお」
しかし実際に目にするとどうだ。山脈の一部と言っても遜色ない体躯にびっしりと赤褐色の鱗で覆われた強固な全身。あまりにも絶対的存在だ。
分厚い鋼板すら易々と貫けそうな重厚で鋭い牙や全てを覆い尽くせそうなほど広大な翼などなど。上げればきりがないがその絶対的とも言えるイメージを確固たるものにしているのが瞳だ。
一目見ただけで理解る。あれは漫画やラノベのように噛ませの雑魚ではなく、人が逆立ちしても敵わない領域に君臨する存在だと。
彼を前に僕は呆然としアリスは息を呑んだ。
バレてはいけない。幸い向こうはその広大すぎる体躯のせいかこちらには気がついていない。
今のうちにさっさとこの場を去るべきだ。
そう考えていた。そう考えていたはずなのに、
『おーおー! 聖剣ちゃん的にドラゴンを見るのは久しぶりですが相も変わらず図体だけでっかくて尊大ですねぇ!』
ちょっおま!?
ここでまさかの行動。なんということでしょうか。聖剣ちゃんが分かりやすいぐらいデカい声でドラゴンをディスり始めたじゃありませんか。まじふざけんな。
当然ドラゴンさんは、
「コノ不遜ナ物言ハダレダ。イイ度胸ダ……死ニタイラシイナ!!」
ほらぁこうなるじゃん。激おこじゃん。
うすうす感じていたけど聖剣ちゃんってアホなの? 死ぬの???
「我ハ大陸龍タンニーン、ガ眷属ナリ。我ガ息吹ニテ灰燼二帰ソウ!!」
やべえ口からフレイムが溢れ出している。こりゃ駄目かもしれんね。アリスに至っては自身の生命活動終了を悟ったのか胸の前で十字を切り始めた。
ていうかそもそも大陸龍ってなんぞ???
『あぁ、この世界の果てにいると言われる大陸程広大な体躯を持つ龍ですね。まさかその眷属がこんなところまで遥々来るとは驚きです』
大陸ぐらい大きいとかマジかよ。更に勢い良く噴き出す炎。
実際、目の前にいる龍ですら小さな山と思うぐらいには巨大だ。それと比べようもならないぐらい更に大きい存在がいるとか異世界ヤバイな。
『まー大陸龍ならまだしも所詮は眷属です。彼らに比べればクソ雑魚もいいところ。マジで雑魚雑魚です』
「ちょっおま!? そろそろいい加減にしろよ!?」
「ソノ不遜ナ物言……コロスッ!!」
「は、はわわわわ」
聖剣ちゃんの煽りで更に激昂するドラゴン。
そんな悠長に会話している場合ではなかった。に、逃げなきゃ。また聖剣ビームで飛んで逃げなきゃっ。
『まーまー落ち着いて下さいマスター』
「は?」
こんな状況なのにこのクソゴミ聖剣はどこまでも気楽そうだった。お前のせいでこうなってんだぞ。少しは焦れよ。
『こうなっては仕方ありませんね。倒しちゃいましょう』
「は?」
『ちょうどいいじゃないですか。ちょっと大きいですけど手頃な魔獣さんですよ』
いやでかくね?
いやでけぇよ。ちょっと大きいとレベルではないし手頃とかいう概念も狂っているだろ。
『この世界の人間には少々手に余る相手です。勇者らしくここで討伐しておきましょう』
一同が目の前の状況に絶望する中、我らが聖剣様はそんなことを大層能天気そうに宣いやがるのであった。
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