4 / 67
勇者命名・聖剣ちゃん
しおりを挟む翌日、召喚されたクラスメイト全員と王国王女は朝食を共にしていた。
「うふふ、昨日は来てくださいませんでしたね。私、ずっとお待ちしていましたのに」
「あ、あはは。ちょっと疲れちゃいまして……」
俺の隣にわざわざ座する王国王女がにこやかな笑みを浮かべる。まさか爆睡をかまして忘れていたなんて言うわけにもいかず全力で誤魔化した。
クラスメイトの大半は朝食を食べつつもこちらの様子を伺っている感じだった。まぁそうなるよね。予想外にも見下していた陰キャが聖剣を引き抜いちゃったわけだし。心中穏やかではないだろう。
まぁ気にしたところで仕方ないし、そんなことどうでもいいぐらいに料理が旨い。異世界ながら滅茶苦茶おいしい。海外に行くと結構口に合わないとか聞くのでそこは少し安心した。
「もう! いけずなお方ですね。今日こそはぜひお越しください。約束ですよ?」
「あ、はい」
前向きに鋭意検討致します。
童貞的にはあまりにも魅力的なお誘いなんだけど、ハニートラップなのは目に見えている。某首相のように検討に検討を重ね、検討を加速させた上で検討をさせていただきたい。
『マスターそれ絶対に行かないやつじゃないですか』
うるさい。
今日も今日とて俺の心を勝手に読み取り俺だけに聞こえる声で話しかけて来る伝説の武器(笑)は喧しいことこの上ない。
そもそも忠告してきたのは君だろうに。
『マスターは相変わらずそっけないですねぇ。そんなんじゃ女の子にモテませんよ?』
叩き折るぞこの野郎。
『ジョークですよジョーク。聖剣ジョーク』
クソみたいなこと言いやがって。
ほんと産業廃棄物処分したい。試しに朝食前に泉に放り投げたらものっそい勢いで戻ってきたんだよね。そうとうキレられた。
「ところで勇者様、今日はいよいよ実戦訓練ですよ」
朝食を食べ終える頃、王女がそんなことを耳打ちしてきた。
ほほぅ戦闘訓練とな。
基本的に異世界転生には否定的な俺だが、戦闘訓練と聞き心の底から沸き上がった感情はマイナスのものではない。ぶっちゃけほんの少し楽しみだったりするのだ。
あれでしょ。俺は仮にも勇者なわけだから、『エターナルフォースブリザード』とか使えちゃうわけでしょ。相手は死ぬやつ。
『そう上手く行きますかねぇ』
俺は聖剣の意味深な言葉に首を傾げるばかりだった。
◆
「よし。では各々武器を構えよ!!」
王国所有の闘技場にて戦闘の訓練が開始された。
昨日まで腑抜けた日本の高校生でしかなかった俺達に何をさせるつもりだよと思うが、そこは異世界転移。
例に漏れず転移特典なるものがあるらしく、類いまれなる力を得るらしい。聞くところによると一騎当千。ほんまかいな。
「うおすげー! 俺武器なんて初めて見たよ!!」
「ちょっと男子―! 振り回さないでよ。危ないでしょっ!!」
「ほらほら皆。遊んでないでそろそろ真面目に話を聞こう」
闘技場ではクラスメイトの大変が初めて触る武器に大興奮といった感じだ。それをまとめ役である陽キャイケメン天上院天下が諫めている。まさに異世界転移。
そして俺は何故か訓練には参加せず、二階の観覧席に座らせらせていた。なんで???
「勇者様は聖剣の力がありますからね。わざわざそんなことをする必要などありませんよ」
俺の釈然といかなそうな雰囲気を感じ取ったのか、隣に座る王女は微笑みを浮かべた。
そんなことってある?
ていうか勇者様って呼ばれ方が慣れんなぁ。
『いい加減諦めて慣れたほうがいいですよ? しかし王国の連中も露骨ですねー』
あ、やっぱり?
聖剣ちゃんの話を聞いて確信した。
話を聞く限り勇者というのは象徴以上に最大戦力かつ決戦兵器だ。そもそも異世界人を転移召喚するほど戦況は芳しくないと言っていたはず。
それを遊ばせておく以上、どう考えても裏があるでしょ。
「あら勇者様? どこ行かれるのですか?」
「あ、お花を摘みに行ってきます」
もちろん嘘だ。そもそも闘技場に花なんてない。
俺はあまりにもアホらしくなったのでこの場を離れ城内を散歩することにした。
◆
闘技場から離れて少し時間が経った頃。人気がなくなった辺りで聖剣ちゃんが話しかけてきた。
『ところで聖剣ちゃんってなんです?』
「あぁそれね。ほら聖剣ってそのまま呼ぶのもなんかアレかなって」
『うわ、センスねー』
いつもの丁寧口調が崩れるぐらい呆れられた件について。ダメか。ダメな感じですか。
じゃあアレか。アポカリプス・ディザスターとかがいい?
ちなみにこの名前は世界の終末を意味しましてですね(早口)。
『はぁマスターにそういうのを期待した私が馬鹿でした。もういいです聖剣ちゃんでいいです』
なんか想像以上にものっそい長いため息を吐かれた。解せぬ。
91
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる