婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人

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第6章 太陽の聖女と星の聖女

挿話63 頑張ったコリン

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「このクソガキっ! 死にやがれっ!」

 戻ってきた見張りの男が、僕に向かって剣を振り下ろしてきた。
 僕が持っているのは弓矢だけなので、これでは剣を防げない。
 だけど防げないのであれば、避ければ良いんだ!

「コリン君っ!?」
「なっ!? 消えた……だとっ!?」

 ロレッタお姉さんが心配そうに声を上げるけど、説明は後にして、まずはこの男を何とかしなきゃ!
 キョロキョロと周囲を見渡して僕を探す男の背後へ回り込むと、後ろから剣を持つ手を思いっきり蹴り飛ばす。

「えいっ!」
「ぐっ! このガキ……いつの間に背後へ!? 一体、どうなってやがる!」

 一人目と同じで、思いっきり蹴り飛ばしたのに男が武器を手放さない。
 だったら、落とすまで繰り返すまでだっ!

「ま、また消えたっ!?」
「とぉっ!」
「チッ……だが、お前の動きは見切った! ここだっ!」

 男が半回転しながら剣を横に払い、背後にいる僕を斬りつけようとする。
 だけど、僕の頭の遥か上を剣が素通りしただけで、あれでは絶対に当たらない。
 実際、僕の姿を完全に見失って困惑している。
 姿を見せるタイミングを伺い、今度こそ武器を手放させようとしていると……

「たぁっ!」
「ぐげっ! ……こ、こんな女子供にやられるなんて」

 ロレッタお姉さんが投石で見張りの男を倒してくれた。

「ロレッタお姉さん! 凄いよ!」
「ううん。コリン君があの男の注意を引き付けてくれたからよ。それより、姿が見えなかったけど、一体何処に……きゃぁぁぁっ!」
「ど、どうしたの!? 新手が来たの!?」

 お姉さんが悲鳴を上げたので、慌てて振り返ってみたけれど、最初の見張りも倒れたままだし、誰かが現れた様子はない。
 どうしたのかなと思っていると、お姉さんが慌てて両手で顔を隠す。

「こ、コリン君……どうして裸なのっ!?」
「あ……ごめんね。僕、獣人族でハムスターの姿になれるんだよー。ハムスターの姿になって剣を避けたり、背後に回って元の姿に戻ったりしていたんだー」
「そ、そうなのね……って、それより服を着てっ!」

 ロレッタお姉さんに言われ、ハムスターの姿になった際に脱げてしまった服を着て、近くに落ちていたロープで見張りの二人を縛っていると、何かが走って来る音が聞こえてきた。
 お姉さんと共に物陰に隠れようとして……それが不要だとすぐに気付く。

「お姉ちゃん!」
「コリン! ロレッタさん! 大丈夫!?」
「うん! それより、見てよ。黒ずくめの人たちが見張りをしていたんだ。トリスタン王子はきっとこの中だよ」
「えっ!? 剣が落ちているけど……どこか怪我とかしてない?」
「もちろん! 僕だってやる時はやるんだからね!」

 やって来たのがお姉ちゃんとイナリだったので、何があったのかを説明すると、頑張ったね……と、お姉ちゃんか頭を撫でてくれた。

「ふむ。童もやるではないか」
「うん! それより、早く中へ行こう! トリスタン王子を止めなきゃ!」
「えぇ、そうね。ファイアー・ドレイクの封印は何とも無かったし誰も居なかったから、きっとこっちにいるはずよ。みんな、気をつけて行きましょう」

 お姉ちゃんたちと合流して、宝物庫の中へ入る事にした。
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