婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人

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第6章 太陽の聖女と星の聖女

第284話 逃げたトリスタン王子一行

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「首尾は!?」

 国境へ到着すると、早速セルジオさんが兵士さんたちに状況を聞く。

「せっかくお越しいただいたのに、すみません。騎士団へ応援を出した事を悟ったようで、男たちは退いていきました」
「どのような者たちだった!?」
「え? そうですね。リーダー格の男が金髪の剣士風で、他の者たちは黒い服でした」

 トリスタン王子たちだ!
 もちろん直接見た訳ではないので、ただ恰好が似ているだけの人たちという可能性も否定は出来ない。
 だけど、このタイミングを考えると、間違いないはずだ。

「槍は……黒い槍は持っていましたか!?」
「え? うーん。槍を持っていた奴はいました。色は……黒だったと思います」

 やっぱり、間違いなさそうね。
 ただ……今の所、植物が黒く変色したり、枯れたりしている様子はない。
 魔の力が剣と槍で効果が違うのか、そもそも魔の力を持つ武器ではないのか。
 いずれにせよ、トリスタン王子は止めないと!

「そいつらは、どっちへ逃げたんだ!?」
「え!? 南に向かって逃げて行きましたが……」
「やはり賊は海へ出ようとしているな! 手分けして追うぞ! 絶対に捕えろ!」
「賊っ!? 奴ら……そういう事だったのか!」

 驚く兵士さんを他所に、騎士さんたちが数人ずつグループに分かれて馬を走らせていく。

「では我々も参りましょう。海に逃げられてしまうのだけは避けなければ」
「そうですね」

 私たちと行動を共にしてくれるセルジオさんは、国境沿いに真っすぐ南へ下っていく。
 このまま進んで行くと、小さな村が幾つかと、港街があるだけなのだとか。
 さっきの国境を守る兵士さんたちみたく、トリスタン王子の容姿が出回っている訳ではないし、私たちだって黒ずくめの人たちが服を脱いで普通に食料の買い付けをしていたら、見抜く事何手出来ない。
 ただ盗まれた魔槍は私の身長くらいの長さがあるそうなので、長い棒状の何かを持っていれば、ひとまず話を聞くという方針になっているとの事だ。
 暫く馬を走らせ、小さな村で話を聞くと……

「黒い槍を持った黒ずくめの奴ら? ……あぁ、食料を買って南へ行きましたが」
「食料を売ってしまったか」
「はい。あの、騎士様? 何か……」
「いや、気にしないでくれ。情報提供のご協力、感謝する」

 悪い情報が入ってしまった。
 トリスタン王子たちは物資を手に入れたので、あとは海に出るだけのようだ。
 港街には船が沢山停泊しており、小型船を奪われたら、捜索は絶望的だと言われてしまった。

「広い海では、大型の船でも見失えば探すのが困難です。数人乗りの小さな船では、諦めるしかないでしょう」

 魔の力に汚染されていない場所では、イナリの探知魔法が使えそうだけど、まだ確認出来ていない魔槍は無理だという話だった。
 一度イナリが魔槍の魔力を知れば追えるそうなのだけど。
 そんな話をしながら馬車が進んで行くと、次の村で意外な話が聞ける。

「黒い槍を持った黒ずくめ? 槍については分かりませんが、黒服の奴らならついさっきまで……そこにおりますが」

 私たちが村に入ってきたのとは逆の、南側の入り口に黒い服を着た二人組の男性がいた。
 これだけなら何とも言い難いんだけど、私と目が合った途端に……逃げ出したっ!?

「待てっ!」

 セルジオさんが追いかけようとした時には……

「ふむ。ひとまず話を聞こうか」

 既にイナリが二人を捕まえていた。
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