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第6章 太陽の聖女と星の聖女

第269話 逃げるイナリ

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 翌朝。
 イナリによると、トリスタン王子たちは宝物庫に戻ってくる事なく、本当にそのまま何処かへ行ってしまったらしい。

「我は一晩くらい寝ずとも全く問題はないからな。離れた所で宝物庫を見張っていたが、誰も来ておらぬな」
「私たちが居たから、お昼に戻ってくるとか……」
「それは分からぬが、あのバカ王子はともかく、光魔法を使う奴らは来れば分かるぞ」
「そうなんだ。じゃあ、この街の復興のお手伝いも兼ねて、ちょっと様子を見ましょうか」

 トリスタン王子はここへ立ち寄っただけたと言っていたけれど、本当に偶然なのだろうか。
 そんな事を考えながら、今日も薬を求める人たちの長い列に対応する。

「あの、昨日の作業中に怪我をしてしまいまして……」
「ちょっと見せてください。そうですね……これなら、この薬を塗って、包帯を巻いておけば良くなりますよ」
「ありがとうございます!」
「お大事にしてください。では、次の方は……」

 傷薬を出したり、ポーションを出したり、時々神水をこっそり出したりしながら、薬を求める人たちの対応をしていく。
 昨日頑張ったからか、お昼頃には列がすっかりなくなったのだけど、終盤に幼い女の子が一人で並んでいた。

「お嬢ちゃんは、どうしたのかな? どこか痛いの?」
「ううん。サラじゃなくて、ママが……ママがずっとねてるの。つらくて、おきられないって……」
「大変! じゃあ、おうちに行って診てみるから、少しだけ待っていてね」

 流石に症状もわからずに薬を渡す事も出来ず、並んでいる人も少ないので、サラちゃんと名乗った女の子に少しだけ待っていてもらう。
 五歳か六歳くらい……かな? 一人で来て、心細いのだろう。今にも泣きだしそうな顔をしているので、こっそりイナリを連れて物陰へ。

「イナリ。その、悪いんだけど、子狐の姿になれないかな?」
「……火の聖女の時と同じ予感がするのだが」
「いやー、でもまだ少し人が残っているし、少しでもサラちゃんの気が紛れればなーって思って」
「……後で、何か狩ってくるから、アニエスの料理を頼む」
「うぐ……わかったけど、虫系はダメだからね!? あの手のは、絶対にダメだからっ!」

 イナリに子狐の姿になってもらい、抱きかかえてサラちゃんの元へ。

「サラちゃん。他の人のお薬を出す間、この狐さんと一緒に待てるかな?」
「わぁ! かぁいいー!」

 そう言って、サラちゃんがイナリをギュッと抱きしめる。
 うーん。モニカちゃんの時よりも思い切りが良いというか、遠慮がないというか。
 まぁモニカちゃんよりも幼い子だし、力も弱いだろから、きっと大丈夫だろう……たぶん。

 大急ぎで残りの人の対応を済ませると……サラちゃんに抱きしめらたイナリが、無言で助けを求めてくる。
 えっと、元々サラちゃんの髪の毛を纏めていた水色のリボンが尻尾に巻かれ……か、可愛くて良いと思うよ?

「お待たせ! サラちゃん。お家に案内してもらえるかな?」
「……あっ! そうだった! おねーちゃん! ママはこっちなの!」

 暫くイナリに遊んでもらっていた……というか、イナリで遊ぶのに夢中でお母さんの事を忘れていたみたいだけど、私の言葉で我に返ったみたい。
 サラちゃんの小さな手を握り、イナリは……いやあの、そんな露骨にサラちゃんから離れなくても。
 ひとまず、サラちゃんに案内してもらい、崩れかけた小さな家にやってきた。
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