婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人

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第6章 太陽の聖女と星の聖女

第233話 謎の黒い珠

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「えっと、イナリ……」
「さぁ、アニエス。神水を掛けるのだ」

 えぇ……このよく分からない物に神水を掛けて本当に大丈夫なの?
 けど、イナリは食べ物が絡まなければ変な事は言わないはずだし……し、信じるからね!?

「え、えーい!」

 イナリから言われた通り、水魔法を使って謎の黒い珠に水を掛けると……え? 消えたっ!?

「おぉ! アニエス様の神水を受けたら、消えてしまいましたぞ!」
「ご老人。これはあくまで推測だが、先程の黒い物は水の聖女の力でしか浄化出来ない何かだったのではないだろうか」
「な、なるほど! 曾祖父は何かしらの悪しき物を水の聖女様に浄化してもらう為に、それを墓へと持ち込み、アニエス様が近くを通りかかったので、呼び掛けた……という事ですか」
「おそらく。ご老人の曾祖父は使命感が強く、そして見事にそれを成し遂げたのだ」
「あぁ……アニエス様。私の曾祖父の使命をまっとうさせてくださり、ありがとうございます。これで、曾祖父も安らかに眠りに就く事が出来るでしょう」

 えーっと、これは一体どういう事なのだろうか。
 ただ、長老さんから凄く感謝されているし、イナリが壊した箱の中身も綺麗に解決した事になっているみたいだし……うん。ここは空気を読んで、そっとしておこう。

「そ、そうですね。わ、私も水の聖女としての務めが果たせて良かったです」
「おぉ、アニエス様……」
「で、では私たちはそろそろ参りますね」
「畏まりました。では、街までお送り致します」

 そう言って、長老さんが街まで案内してくれた。
 長老さんと別れた私たちは、馬車の中で食べられる軽食を買って貸切馬車に戻り、再びフランセーズへ向かう。

「ところでイナリ。あの神水を掛けたら消えた黒い珠は何だったの?」
「む? あぁ、あれか。あれは我が具現化魔法で作り出した、ただの黒い球体だ。アニエスが神水を掛けたタイミングで消したにすぎん」
「あ……あれって、イナリが出していたんだ」
「うむ。あのご老人を納得させる為だ。そうでなければ、既に存在しない箱の中身を無駄に探させる事になってしまうからな」

 やっぱりイナリも私と同じ事を思ったみたい。
 私たちは無いと分かっているけど、それを教えたらどうして知っているのか……という話になってしまうから、確かにイナリの方法が良かったのかも。
 まぁその、ちょーっとばかし、長老さんを騙しているような気にもなってしまうけどさ。

「ところで、あの長老さんのご先祖様である、前の水の聖女の従者さんのお墓に、どうしてイナリの力を封じた珠があったのかしらね?」
「流石にそこまではわからぬが、我が力を分割した際に、この花の国の王族がそれを持て余し、ひとまず水の聖女の従者の墓に押し付けたのかもしれぬな」
「そ、そんな事するのかな?」
「さぁな。だがアニエスは、もうあの街に居ても変な感じにはならなかったのであろう?」
「まぁそうね。少なくともお墓から馬車に乗って出発する間までに、変な感じはしなかったわ」

 ひとまず、ドートレックの街の変な感じはないから、やはりイナリの封じたられた力がある事を私に伝えたかったんだろうな。
 でも、どうして私……というか、水の聖女なんだろう。
 浄化なら、モニカちゃん――火の聖女の方が適していそうなのに。
 まぁ火の聖女は、今も昔も火の国に居たみたいだし、遠いから近場で済ませたって可能性もあるけどね。

「あ! そういえば、イナリもドートレックの街を見ている事が多かったけど、それって自分の力がある事が分かっていたから?」
「むぅ……まぁその通りだ」
「だったら、言えば良かったのに! ねぇ、コリン?」

 コリンもコクコクと頷いてくれたし、これからは私たちの間でお互い変に遠慮なんてしないように……という話をして、無事にフランセーズへと戻ってきた。
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