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2巻

2-2

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「イナリ。もしかして……」
「善は急げだ! アニエスと童女は同行必須として、コリンはどうする?」
「お姉ちゃんたちがするのって、アレだよね? もちろんボクも行くよー!」

 イナリとコリンが顔を見合わせ、嬉しそうにしている……ような気がする。
 たぶんだけど、二人共お腹が空いているだけじゃないのかな? ここへ来る馬車の中で、ちゃんとご飯を食べていたのに。


「あの……どこまで行くのー? 結構な距離を歩いたよー?」
「うむ。もう少しだな。近くに反応はある」

 土の聖女たる魔力を秘めるミアちゃんに、新たな魔法を授けるためだと言って、イナリはベーリンの街を出て、見知らぬ山の中へ。私たちもその後に続く。
 ちなみに、私が水の聖女だという事はミアちゃんに話したけど、イナリが妖狐だとは言えず、狐の獣人という事にしている。街を出る時は子狐の姿になり、今は再び本来の姿だ。

「ミアちゃん、疲れちゃった? お水飲む?」
「うん。少し休憩したい」
「イナリ、少しだけ休んで良い?」

 先頭を歩くイナリに声を掛け、全員――土の聖女の信者さんは、活動があるので不参加――に、水の入ったコップを配る。

「あれ? お姉さんは水を出せるとは聞いていたけど、こんなコップを持っていたっけ?」
「コ、コリンが運んでくれていたのよ」
「そうなんだ。四つも運ぶの重くない? ミアも運ぼっか?」
「だ、大丈夫よ。コリンは男の子だからね」
「でも、まだ幼いよね?」

 ミアちゃんが気を遣ってくれているけど……。コリンは見た目こそ八歳くらいだけど、実際は十三歳でミアちゃんより年上だからね?
 イナリの異空間収納魔法の話もできないので、一旦コリンと手分けしてコップを持って、後でイナリに渡そう。そう思っていると、神水を飲んだミアちゃんが驚きの声と共に立ち上がる。

「えぇっ!? 何これっ!? このお水を飲んだら身体が軽くなったし、疲れが吹き飛んだよっ!?」
「フランセーズで話した、水の聖女の力だよ。体力が回復するのと、能力が倍増するの」
「うぅ……こんなのズルい! でも、能力が上がるって事はもしかして!」

 何かを思いついたらしいミアちゃんが、お祈りするかのように目を閉じると、突然カッと目を見開く。

「すごっ! ここから西に半日くらい行ったところには大量の鉱石が眠っているし、南東に二日くらい行ったところには銅がある! 範囲も広がっている上に、すごく詳細に分かるんだけど!」
「あ、ミアちゃんの鉱石の位置が分かるっていう、土の聖女の力ね?」
「うん! 普段はもっと近いところじゃないと分からないし、もっと大まかにしか分からないのに! ……お姉さん、すごい! 今からミアも、こんなすごい力が使えるよーになるんだよね?」
「えーっと、どんな力が使えるようになるかは、運次第というか、正直私たちにも分からないんだけど、何らかの力は得られるんじゃないかな……たぶん」

 これから私たちがしようとしている事……何をするかイナリが口にした訳ではないけど、すでに私も察している。
 おそらく、何か土系の魔物の料理を食べるのだろうけど、土系の魔物って何かな? あんまりイメージが湧かないんだけど。
 ミアちゃんが土の聖女の力を試しているので、こっそりイナリに聞いてみる。

「ねぇ、イナリ。ミアちゃんに何かの魔物を食べさせようとしているのよね?」
「もちろん、その通りだが?」
「まぁそうよね。ところで、今はどんな魔物を目指して移動しているの?」
「うむ。この先に、アース・ウォームという、土の中にむ巨大なイモムシの魔物が……」
「却下! 絶対に嫌っ!」
「むっ……しかし、栄養豊富で意外に味も悪くないのだが」
「そんなの関係ないわよっ! 見た目がダメ! そんなの私、料理できないよっ!」

 イナリの想定外の答えに思わず叫んでしまったけど、流石にこれは仕方がないと思う。

「ならば、ジャイアント・アントはどうだ?」
「巨大な蟻とか無理よっ!」
「では、キング・グラスホッパーなど……」
「バッタの王も無理ぃぃぃっ! というか、虫はやめましょう。本当に無理だから」

 調理するのも無理だけど、それをミアちゃんに食べさせるのも、気が引ける……というか、そんなものを食べさせるのは酷過ぎる。
 もしも私だったら……いや、無理っ! 想像するのも嫌だ。

「うーむ。アースドラゴンでも居れば良かったのだが、近くに居ないのだ」

 何故だろうか。さっき挙げられていた魔物と比べると、ドラゴンのお肉が遥かに良いと思えてしまう。
 まぁドラゴンのお肉は、実際に美味しいんだけどね。

「さっきから、イナリさんとお姉さんはどうしたの? ケンカはダメだよ?」
「違うの、ケンカとかじゃないからね」
「もしかして痴話喧嘩? 男女間のいろんなもつれ?」
「ミアちゃんは何を言っているのよっ!」

 十二歳くらいのミアちゃんは、そういう事は知らなくて良いのよっ!
 ……私もほとんど知らないんだけどね。
 しかし、土系の魔物を食べてミアちゃんの使える魔法を増やそう作戦! は、周辺に居る魔物が虫系の魔物ばかりで、暗礁に乗り上げてしまった。
 作戦的には、最初にイナリが目をつけたアース・ウォームっていうのが良いのかもしれないけど、巨大なイモムシなんて絶対に無理だし、食べさせられるミアちゃんにトラウマを植えつけてしまう。

「むっ! これなら絶対にアニエスも大丈夫だという魔物が居たぞ! そして、確実にうまい!」
「……一応、先に聞いても良い? なんて魔物なの?」
「ブラック・ブルという、黒い毛の牛だ。もちろん黒いのは毛だけで、肉はジューシーなのに脂身は少なく、煮ても焼いても、生でもうまい」
「さ、採用っ!」
「ただし……いや、まぁいいか」

 最後にイナリが何か言いかけたのが気になるけど、虫やドラゴンに比べれば……いや、比べるまでもなく、これが良い。

「ブラック・ブル? お姉さん。それって確か、気性が荒い牛の魔物だよね? それがどうかしたの?」
「うーん。一応先に言っておくと、今からそのブラック・ブルのお肉を食べようかっていう話をしているの」
「なるほど。お昼ご飯の話だったんだねー! わーい、お肉なんて食べられるの久しぶりーっ!」

 ……どうしよう。なんだかすごく不憫な気がしてきた。
 いやまぁ、イナリがすごく美味しいって言っているし、神水を使って調理するから身体に悪い影響とかはないんだけど……魔物のお肉だよ? 喜んでいるけど、良いのかな?

「お姉さん! 早く行こうよー! お肉っ! お肉っ!」
「え……うん。そ、そうね。イナリ、ブラック・ブルは近くに居るの?」
「うむ。そこまで遠くはない。だが、アニエスたち三人は隠れていた方が良いであろう」

 隠れる? イナリが居るのに?
 どういう事だろうと思いながらもイナリについていく。樹々の生い茂る山の中から、なだらかな草原が見えたところで、さっきの言葉の意味が分かった。

「めちゃくちゃたくさん居るのね」
「そうだな。三十体くらいか。倒すだけなら簡単なのだが、極力肉を傷付けぬように……となると、一体ずつ倒さねばならんので面倒だ。ここで待っているのだ」

 そう言って、イナリが飛び出していったんだけど、あっという間に戻ってきた。

「終わったぞ」 
「え? ほんの数秒しか経ってないんだけど」
「うむ。この程度の相手に、数秒も要してしまった」
「あ、そういう感覚なのね」

 おそらく、イナリは倒したそばから異空間収納に格納したのだろう。先程までは大きな黒い牛ばかりだったのに、今はのどかな草原が広がっている。

「アニエス。では、早速調理を頼む」
「……それは良いんだけど、私は牛をさばいた事なんてないわよ?」
「ふむ……では、これでどうだ?」

 イナリの手が一瞬ブレたように見えたかと思うと、いつの間にかお肉屋さんで売られているようなお肉が、その手の上に乗っていた。
 きっと、今の一瞬で異空間収納からブラック・ブルを取り出して、私が扱えそうな大きさ――それでも、十二分に大きいけど――に切り分けて、残りをまた格納した……って、それを血の一滴もこぼさずにやってのけるのね。

「すごーい! いつの間にかイナリさんが大きなお肉を持ってる! これも魔法なの?」
「あ……うん。まぁそんな感じね。じゃあ、このお肉を料理するから、ミアちゃんはコリンと一緒に木の枝とかを集めてきてくれるかしら」
「はーい! コリンちゃん、行こっ!」

 コリンは優しいから何も言わないけど、ミアちゃんより年上だからね?
 そんな事を思いながらも石でかまどを作り、イナリに異空間収納から調理器具や食器、野菜やパンなどを取り出してもらい、どう調理するか考える。
 魔物とはいえ、どう見ても牛肉だし、イナリが美味しいお肉だって言っていたし、シンプルに焼こうかな。
 一口大に切ったお肉を神水で洗い、軽く下味を付けたら、かまどの上に置いた鉄網に野菜と一緒にのせていく。
 少しして火が通ったら、お皿にのせてできあがりっ!

「お待たせー! できたよーっ!」

 別の小皿に入れた、タレか塩をつけていただく。

「うむ。やはりアニエスの作る料理はうまいな!」
「お姉ちゃん。すっごく美味しいよ!」
「お姉さん……お、おかわり。おかわりがほしい!」

 ものすごく簡単だったんだけど、皆がすごい勢いでお肉を食べていく。
 あっという間にお肉がなくなると、イナリが追加のお肉を出してきた。

「アニエス。頼む」

 さっきのも結構、大きな塊だったんだけど、同じものがもう一つ……でも、部位が違うのかな?
 追加されたお肉も焼いて……同じ魔物なのに、部位が違うと味や食感も違うのね。
 どちらも甲乙つけがたいくらいに美味しくて、気づけば三回くらい大きなお肉が追加されていた。

「お姉さん、おかわり!」
「ミアちゃん。流石に食べ過ぎじゃない? ちょっと心配なんだけど」
「お姉さんが少食なんだよー。イナリさんなんて、細いのにミアの三倍以上は食べてるよ?」
「イナリは……その、たくさん食べる人だから」
「じゃあ、ミアもたくさん食べる人ー!」
「……これで最後にしましょうね。イナリも」

 なぬっ!? と、イナリが驚いてこっちを見てくるけど、どこかで止めないと、永遠に食べ続けそうな勢いなんだもん。
 それから、皆が食べ終えたので後片付けをしていると、早速頭が痛くなってきた。

「あー、いつもの頭痛だ。ミアちゃんは大丈夫?」
「うー、お腹が苦しいよー」
「だから食べ過ぎだって言ったのに。頭は痛くないの?」
「頭? 頭は痛くないよー。お腹だよー」

 私には頭痛が来たけど、ミアちゃんは来ないらしい。とはいえ、お腹が痛いと言っているので、二人で神水を飲む。

「すごい。お腹が痛くなくなった! ……どうなってるのー?」

 私の頭痛だけでなく、ミアちゃんの食べ過ぎの状態異常? まで治ったみたい。
 ミアちゃんの言葉じゃないけど、ホントどうなっているんだろう?
 それからイナリを呼んで、魔物を食べた事で何か変化が起こったか見てもらう。

「うむ。アニエスは突撃時強化が付いておるぞ」
「突撃時強化? 何なの、それ」
「どうやら、走って勢いをつけて攻撃すると、その威力が微増するらしい」
「……えっと、よく分からないけど、それってすごく微妙じゃない?」

 勢いをつけて攻撃したら威力が増す……って、普通の事よね?
 何とも言い難い微妙な力だと思っていると、イナリが苦笑いしながら説明してくれた。

「あー、最初に言うか迷ったのだが、あのブラック・ブルはすごくうまいものの、弱いのだ。攻撃方法も、走ってきて体当たりしてくるだけだしな」
「えーっと、弱いから得られる魔法……いえ、魔法ですらなかったんだけど、その能力も微妙って事?」
「おそらくな」

 これまで食べた魔物の事を思い返してみると、ブルードラゴンの成竜は氷魔法が使えるようになり、氷のオブジェが生み出せるようになった。
 サンダードラゴンのひなは小さな雷を発する事ができるようになり、コカトリスは石化耐性……って、やっぱり強い魔物であればある程、得られた能力もすごい気がする。

「ミアちゃん。ブラック・ブルっていう魔物のランクって分かるかな?」
「んーとね、確かC級じゃなかったかなー? そんな事を誰かが言っていた気がするよー」
「つまり、使える魔法を増やそうとするなら、強い魔物をターゲットにしないとダメって事なの!?」

 ちなみに、一応ミアちゃんもイナリに見てもらったんだけど、何も能力を得られていないらしい。
 やっぱり、C級の弱い魔物だったからかな?

「ふむ……やはりここは、アース・ウォームにするしかないか」
「それはいやぁぁぁっ!」
「ミアとやら。アース・ウォームという魔物のランクは知っておるか?」

 私は全力拒否したんだけど、イナリがミアちゃんに話を振る。

「アース・ウォーム? 確か、B級かA級だったような……」
「なるほど。では、行くか」
「行かないわよっ!」

 ブラック・ブルのお肉をたくさん食べたのに、残念ながら、どの魔物をターゲットにするかという話に戻ってしまった。
 だけど、どうやらこのあたりにいる強い土系の魔物は虫系の食べたくない魔物ばかり。
 虫系の魔物を断固拒否した結果、弱くても良いから普通に食べられそうな魔物を、魔法を得るまで食べるという案が採用された。主に私の意見で。
 まぁ食べられそうも何も、一般的に魔物は食べられないんだけど……それはさておき、あちこち歩き回って、三種類くらいの魔物を食べた。

「もう無理。私、これ以上食べられないんだけど」
「ボクもギブアップだよ」
「流石にミアもやめておこうかな」

 私だけでなく、コリンとミアちゃんもやめておくと言うくらいだから、やっぱり相当な量を食べたのよね。たくさん歩いているからまだマシだけど、こんなにいっぱい食べたら身体に悪いかも。

「えっと、結局身についたのは、突撃時強化、くつれ耐性、対植物耐性、方角察知……って、どれも微妙ね」
「でもくつれ耐性は、新しい靴を買った時に良いんじゃないかなー? ボク、新しい靴だとすぐにくつれができちゃうから」
「方角察知も良いんじゃないかなー? 東西南北が分かるんだよね? ミア、よく迷子になるもん」

 うん。コリンとミアちゃんの言う通り、どちらも、あればちょっと幸せな感じがするよね。
 だけど、どれも土の聖女に……というか、魔法に全く関係ないよね?
 対植物耐性も、神水を使えば植物系の魔物ってすぐに倒せるし。

「まぁ結論としては、やはり弱い魔物では、微妙な能力しか得られないという事だな」
「うぅ……でも、虫だけは嫌ぁぁぁっ!」
「ふむ。おっ! 虫ではない土系の魔物で、そこそこ強く、かつそれなりにうまい奴の存在を感知したぞ!」
「本当っ!? じゃあ、それにしましょう!」

 イナリの案内で、今度は森の中へ。
 日がかなり傾いてきているし、時間的にも今日はこれが最後になるだろう。
 あとお腹的に、食べるのは明日の朝ご飯かしらね。
 満腹で辛いけど、少し早歩きで森の中を歩いていると、突然イナリが足を止める。

「ここまでだな。これ以上は奴の攻撃範囲に入ってしまう。ここでしばし待っていてくれ」

 そう言ってイナリが姿を消したけど、攻撃範囲って言いながら、魔物らしき姿は全く見えない。

「あ……何か木が折れる音とかが聞こえてくるよ!」
「そうなの? 私には全然聞こえないわ」
「コリンちゃんは耳が良いんだねー」

 コリンから、イナリが戦っているみたいだという話を聞いたけど、今までは音もなく、文字通り瞬殺って感じだった。今回は少し時間が掛かっているように思えるのは、相当に強い魔物だという事なのだろう。
 ……まぁそもそも、これまでの時間が早過ぎるっていうのもあるんだけどね。
 それから少し待つと、イナリが戻ってきた。

「すまぬ。待たせたな。久しぶりに奴と戦ったが、少々手こずってしまったな」
「そんなに強い魔物だったの?」
「そうだな。今日の中ではダントツだな。とはいえ、我の敵ではないが」
「そうなんだ。ちなみに、何ていう魔物なの?」
「ふっふっふ……今回はあえて黙っておこう」
「え? ど、どうしてっ!?」
「その方が面白……こほん。何を食べたか当ててみるというのも一興であろう」

 今、面白いって言いかけたよね!? つまり、変な魔物なの!?

「イナリ。もしも虫だったら……」
「虫ではない事は約束しよう。もちろん、元のサイズのままでは調理できぬであろうから、程よいサイズにしてアニエスに渡そう」
「……それって、調理前に見た目で何の肉なのか、私にバレるのを避けたいだけなんじゃないの?」
「むっ!? 気づけば、日が傾いておるな。早くしないと夜になってしまうぞ。急いで街へ戻るのだ」

 怪しいっ! 怪し過ぎるんだけどっ!
 食材については一切教えてくれず、そのまま街へ戻り、ミアちゃんの活動拠点に泊まらせてもらう事に。
 今日は食べないけど、明日の朝……謎の食材を調理する事になってしまった。


「おはよう……」
「お姉さん、おはよーっ! ……どうしたの? 何だか元気がないみたいだけど」
「あー、朝ご飯が謎のお肉だから、ちょっと心配でね」

 ミアちゃんが拠点としている地下室は、薄暗いという難点はあるものの、ひんやりとしていて涼しいし、何か仕組みがあるのか、空気もちゃんと入れ替わっているように思える。
 そのため、しっかり安眠できたんだけど、朝ご飯の事を思い出して少しげんなりしてしまった。

「あはは。でも、昆虫のお肉ではないってイナリさんが言ってくれているんだよね? だったら大丈夫じゃないかなー?」
「でも食べ終わるまで何の肉か教えないって言っているんだよ? まともなお肉じゃない気がするのよね」
「だけどミアは、ご飯が食べられるだけで感謝だよー。たとえ魔物でも、その命をもらう訳だしねー」

 ミアちゃんがすごい事を言っている。
 まるで聖女みたい……って、聖女なんだけどさ。

「そうね。命をいただく訳だし、私もこんな事を言ってはいけないよね」
「うん! とはいえ、ミアも虫は嫌だけどねー」

 やっぱりそこは同意見だよね……と話しつつ、普段着に着替えて部屋から出ると、ミアちゃんが作戦本部と呼んでいる部屋にイナリとコリンが居た。
 ちなみに土の聖女の協力者さんたちはここに住んでおらず、毎日自分の家へ帰っているそうだ。

「さて、アニエス。早速この肉を調理してもらえるか?」
「えぇ。美味しい料理にして、しっかりいただくわ」
「む……何やら昨日とは感じが違うな」

 ミアちゃんに言われちゃったからね。
 この大きなお肉が何かは知らないけど、美味しく調理して……って、これは本当に何の肉なの!?
 調理をするため明かりを灯して確認してみたんだけど、イナリがカットしてくれていて、皮も取ってくれているから、見た目からは全く分からない。そのため、どう調理して良いかも分からないので、とりあえず小さく切って、野菜スープに入れてみた。

「できたわよー!」

 私の声を聞いた途端に、三人が一斉に寄ってきて、ちゅうちょなく謎の肉料理を食べていく。

「うむ。良い匂いがするな」
「お姉ちゃん。ありがとう! いただきまーす!」
「お姉さん……これ、美味しいっ!」

 皆普通に食べているし、私も食べよう。未だに何のお肉かは分からないけど。

「あ、美味しい。なんとなくだけど、鶏のササミみたいな感じね」

 パンとスープの簡単な朝食を済ませると、少しがっかりした様子のイナリが口を開く。

「では、あの肉が何だったかを話そうと思うのだが……アニエスの様子を見る限り、別に言わなくても良さそうだな」
「そこは教えてよ! 気になるじゃない!」
「む? そうなのか? 何であろうと食べる……といった意気込みを感じたのだが。まぁいい。あれはヴリトラという魔物の肉だ」
「ヴリトラ! ……って何?」

 フランセーズには居ない魔物なのか、聞いた事のない名前だ。
 ミアちゃんなら知っているかな? と思って見てみると、腰を抜かして床に座り込んでいた。

「ミアちゃん、どうしたの?」
「どうした……って、さっきのスープに入っていたお肉がヴリトラだって言うから、ビックリしちゃったんだもん」
「そうみたいね。ところで、ヴリトラってどんな魔物なの?」
「どんな……って、一言で表すと、大きな蛇だよ。S級の」

 ミアちゃんによると、もっと南東の方に現れる魔物らしくて、こんなところに出現するのはかなり珍しいのだとか。
 それにしても、あれは蛇のお肉だったのね。意外に美味しかったのと、虫ではないから別に平気かな。
 虫ではなかった事に安堵していると頭痛がしてきたので、神水を飲んでイナリに見てもらう。

「おぉ、アニエス。やったぞ。土の魔法が使えるようになっているぞ」

 強い魔物を食べた甲斐があって、ようやく当初の目的を達する事ができたようだ。

「とりあえず、イナリが使えるって言ってくれたから使えるんだろうけど、試すのはもっと広い場所の方が良いわよね?」
「そうだな。ヴリトラもドラゴンに匹敵する程の強さはあるからな。ブルードラゴンであの魔法だったのだ。街中で試すのはやめておいた方が良いだろう」


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