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2巻

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    プロローグ 水の聖女?


 私、アニエス・デュボアは、フランセーズ王国のバカ王子――もとい、トリスタン王子の婚約者として行動を共にしていた。
 だけど、水魔法しか使えないからとパーティを追放され、婚約破棄される事に。
 水の巫女だった私は、古いしきたりで無理矢理婚約させられていた。だから、むしろ嬉々として王子の許を去り、久々の自由の身を満喫していた。
 せっかくだからいろんな国を回ってみようかと思いながら野営の準備をしていた私の目の前に、出会ったら即死間違いなしと言われる九尾の狐――最上位S級の魔物「妖狐」が現れる。
 絶体絶命のピンチ! と思いきや、妖狐は私の作ったスープを所望する。
 私の分まで全てを食べ終えると妖狐は、私が水魔法で生み出した水が、飲むだけで一定時間能力を向上させ、万能薬の効果まである神水で、おまけに私が世界に一人しか居ない水の聖女だと言い、私と行動を共にすると一方的に宣言してくる。
 というのも、妖狐は過去に人間と戦って、その力を封印されていたのだとか。
 私の神水を定期的に飲んでいれば、本来の姿で居続けられるらしい。この本当の姿っていうのが、ものすごく中性的で綺麗な人だった。彼の名前は、イナリというそうだ。
 イナリは出会った時の大きな狐の姿になったり、可愛い小さな狐の姿になったりできる。
 また、異空間収納魔法っていうのを使って重い荷物を簡単に運んでくれたりするので、かなり助かる。
 でもイナリはお肉に目がなくて、サンダードラゴンのひなやブルードラゴン……要は、人間が食べたら死んじゃうようなすごい魔物のお肉を持ってくる。
 それを知らずに私も食べてしまい、神水のおかげで無事だったのだけど、雷魔法や氷魔法が使えるようになってしまった。普通は、使える魔法って生まれた時から変わらないものなのに。
 それから、冒険者ギルドで出会った、ハムスターの獣人の可愛い男の子コリンとパーティを組むことになった。
 そして、フランセーズ王国随一のすごい薬師で、樹の精霊ドリアードであるソフィアさんのお仕事を手伝うという仕事を請ける。
 そこでポーションの作り方を教わり、神水を使ってすごいポーションを作れるようになった。それで街の人たちにも喜ばれ、充実した日々を過ごしていたんだけど――一体どうやったのかは分からないけど、封印されていたイナリの力の一部を得たトリスタン王子と再会してしまう。
 トリスタン王子からイナリの力を取り戻し、お隣にある太陽の国イスパナにもイナリの力の一部があると分かったので、早速向かった。
 その道中に立ち寄った街や村で、日照りによって干上がってしまった田畑を回復させてほしいという依頼を請ける。
 神水を使うと、枯れていた植物を復活させる事ができたんだけど、どういう訳かその様子を見たイスパナの人たちから土の聖女と呼ばれてしまう事に。……一応、私は水の聖女らしいんだけどね。
 イナリの力の一部が封じられている場所に着くまで、助けてほしいという人たちを見捨てる事もできず手を貸し続け、大勢の人に土の聖女だと誤解されたまま目的地である街に着いたんだけど、そこにファイアー・ドレイクという炎の魔物が現れ、街が壊滅状態に。
 魔物を街に放ったのは、なんとイスバナで国民に崇められる太陽の聖女だった。でも、彼女は偽物の聖女だったのだ。
 イナリに協力してもらい、神水を使ってファイアー・ドレイクを封印する事ができ、本物の太陽の聖女ビアンカさんの力で大勢の怪我人を治した。
 そして、イナリの力の一部も回収したところで、私たちは一旦フランセーズ王国へ戻ってきたのだった。



   第一章 鉄の国からの招待状


 イスパナの国ではいろんな事があったけど、無事にフランセーズ王国の王都へ戻ってきた。
 そのままソフィアさんの家に直行し、門の前で立ち止まる。

「お土産も用意したし、イナリも一緒だし……怒られないよね?」
「はっはっは……何かある度に、ソフィアのポーションのせいにしていたからな。……正直、分からん」

 イナリなら大丈夫だと言って笑い飛ばしてくれると思ったのに、遠い目をされてしまった。
 というのも、私があまり目立ちたくなくて、イスパナの国で神水を使って田畑を復活させたり、怪我人を治したりする度に、ソフィアさんのすごいポーションのおかげだという事にしてきたんだよね。
 だから、ソフィアさんの許にポーションを売ってほしいという人がイスパナから来ていてもおかしくないんだけど、そういう面倒な事って嫌がりそうなのよね。

「うぅ……イナリ。できれば庇ってね。流石にソフィアさんも、イナリには強く言わないだろうし」
「まぁ大丈夫であろう……たぶん」

 イナリと話しながら覚悟を決め、家の中のソフィアさんと会話するマジックアイテムのボタンを押す。

「誰だい!? よく分からない、奇跡を起こすポーションなんて物なら、ここにはないよっ!」

 マジックアイテム越しに、ソフィアさんの声を久しぶりに聞いたけど、ちょっと不機嫌な気がする。今の言葉からすると、やっぱりイスパナからソフィアさんのところへポーションの問い合わせがあったのかな?

「ソフィアさん、お久しぶりです。アニエスです。お話ししたい事があるんです」
「アニエス! とりあえず中へお入り」

 ソフィアさんの声と共に大きな門がゆっくりと開き始めたんだけど、怒ってない……よね?
 久しぶりにソフィアさんの家へ入る。ソフィアさんはいつもの場所に座っていた。

「よく来たね。とりあえず、座りな」

 そう言って、ソフィアさんが三人分のお茶を淹れてくれる。

「えっと、いろいろあるんですけど、まずは……ソフィアさん。ごめんなさいっ! これ、お詫びを兼ねた、お土産です」
「……ん? 一体、何の話だい?」
「いえ、実は……」

 不思議そうにするソフィアさんに、イスパナで神水を使って畑を蘇らせまくった事と、それをソフィアさんのポーションの効果だという事にした話を説明する。

「あっはっは。そんな事を気にしていたのかい? 別にそれくらいで怒ったりしないよ。まぁ確かに変なポーションを売ってくれっていう人が来たり、土の聖女について教えてほしいっていう人が来たりはしたけどね」

 ソフィアさんは大した事じゃないとあっさり笑い飛ばしてくれたけど、それって結構面倒だったんじゃないかな?

「そんな事より、アニエス。ポーションを作ってくれないかい? アニエスが作ってくれた超級ポーションなんだけどね、普通の治療では治せないような怪我や病気も治せるから、どんどん数が減ってしまうんだよ。材料は用意してあるし、報酬も支払うからさ」
「はい、もちろん大丈夫ですよ」

 お詫びの言葉と共に、買ってきたお土産――陶器でできたティーセットを渡すと、ソフィアさんに作業場へ連れて行かれ、久々にポーション作りをする事に。
 私は神水を材料とした超級ポーションを作り、コリンはソフィアさんと一緒に違うお仕事をして、イナリは子狐の姿でウトウトする。
 太陽の国イスパナでは、大変な事が起こってしまったので、この平穏な日常がすごく嬉しい。
 数日が過ぎたところで、ソフィアさんの家に、私を訪ねてきたという人が現れた。

「アニエス。客が来ているけど、心当たりはあるかい?」
「私に……ですか? 冒険者ギルドの人ではないですよね? オリアンヌさんなら、ちょくちょく来ていますし、そもそもソフィアさん宛に来られますし」
「ギルドではなさそうだね。鉄の国ゲーマから来たって言っているしね」
「鉄の国!? それって、北東にある大きな国ですよね? どうして、そんなところから!?」

 鉄の国ゲーマは、その名の通り鉄を使って、いろんな仕掛けを作るのに長けている……って事くらいしか知らないんだけど、このフランセーズと同じくらい大きな国だ。

「わざわざそんなところから来ている訳ですし、とりあえず話は聞いてみます」
「そうかい。まぁ私やイナリ様も居るし、大丈夫だとは思うけどね」

 まずは用件を聞くため中に入ってもらう事にすると、親子……かな? 男性と小さな女の子が入ってきて、お父さんが口を開く。

「失礼する。我々はゲーマから来た者である」
「あの、どういったご用件でしょう?」
「うむ。まずは確認だが、貴女が土の聖女アニエス殿で間違いないだろうか」
「……まぁ、アニエスは私ですね」

 残念ながら、土の聖女かと聞かれれば、すごく微妙だけど。
 私自身は土の聖女だなんて名乗っていないんだけど、イスパナの人たちが勝手に土の聖女だって誤解して、どんどん広まっていっちゃったのよね。
 そんな背景もあって、曖昧な返事をしちゃったのだけど、お父さんはなぜか満足そうに頷いた。

「なるほど。では、本題に入るのである」
「お姉さん! 土の聖女じゃないよね!? どうして、土の聖女だなんて名乗っているのっ!?」

 お父さんの言葉をさえぎって、娘さんと思われる十二歳くらいの女の子が口を尖らせる。

「待って。突然どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよっ! だって、私が――ミアが本物の土の聖女なんだもんっ! お姉さんのせいで大変な事になっちゃったんだから、助けてよーっ!」
「えっ!? 貴女が土の聖女!?」
「そうだよっ! 本当だもん!」

 そう言って、ミアと名乗る目の前の女の子が事情を説明しはじめた。

「あのね、かなり前の事になるんだけど、ミアが土の聖女だよって、お告げがあったの。それを聞いてから、ミアは土の聖女として、一人で皆のために頑張ってきたの」
「お告げ?」
「そうっ! ウトウトしていたら、聞いた事がない声で話し掛けられたの。土の聖女として頑張りなさいって。だから、土に関する事――畑を耕すお手伝いをしたり、舗装されていない道を綺麗にしたり、街に落ちているゴミを拾ったり……地道に頑張って、少しずつミアを助けてくれる人たちも増えてきたの」
「すごい。ミアちゃんは偉いのね」
「えっへん! そう、ミアはより良い世界のために頑張ろう! って、頑張っているの! それなのに、お姉さんが土の聖女だって名乗って派手な事をするから、お姉さんが本物で、ミアが偽者だって言われているんだからねっ!」


 ミアちゃんが怒ったり、嬉しそうにしたり、涙目になったり……小さな顔がころころと表情を変えているけど、すごく迷惑を掛けたという事は伝わってくる。

「ねぇ、お姉さん。ゲーマには……ミアたちが住む国には、嘘みたいな情報しか伝わってこなくて、尾ひれや背びれの付いたすごい話ばかり流れてきているんだけど、何をしたの?」
「何だか迷惑を掛けているみたいだけど、一つ言わせてもらうと、私は自分で土の聖女とは言ってないのよ。街の人たちが勝手に私の事を土の聖女って呼び始めて……」
「そんなのどっちだって良いよっ! ミアがピンチな事に変わりはないもん! それより、さっきの質問に答えてよーっ!」

 ミアちゃんの問いにどこまで答えて良いものか困ってしまい、子狐の振りをしているイナリにチラッと目をやる。

『おそらく、この童女は本物の土の聖女であろう。未熟ではあるが、強い魔力を宿しておる』

 イナリが念話で、ミアちゃんが本物の聖女だと伝えてきた。
 だったら、本当の事を話しても大丈夫だろう。
 私が水の聖女らしい事。
 太陽の国イスパナが日照りで困っていたので、神水で畑や池を蘇らせてきた事。
 封印が解かれたファイアー・ドレイクを再び封じてきた事。
 などなど、ここ数日にあった事を伝えると、ジッと私の話を聞いていたミアちゃんが、突然大きな声をあげる。

「お姉さんっ! こっちは困っているんだから、真面目に話してよっ!」
「あの、全部事実だけど」
「そんなの嘘でしょ!? 土と水が違うだけで同じ聖女のはずなのに、どうしてそんな奇跡みたいな事ができるの!? ずるいよっ!」
「そう言われても困るんだけど、イスパナで会った太陽の聖女ビアンカさんは、天候の操作なんていう、私よりももっとすごい事をしていたわよ?」
「うぅ……じゃあ、今ゲーマ中で噂になっている話は全て本当って事なの!? こんなのどうすれば良いのっ!?」

 ミアちゃんが今にも泣きだしそうになってしまった。

「あの、そもそもの話だけど、どうしてイスパナでの話がゲーマに伝わっているの? それと、この家に私が居る事も、どうして分かったの?」

 ソフィアさんの家に戻ってきてからこの数日の間、ギルドから来るオリアンヌさんにさりげなく聞いてみたけど、この国ではイスパナの聖都が壊滅したらしい……という断片的な情報だけで、土の聖女の話なんて全く出てこなかった。
 南西にあるイスパナと、北東にあるゲーマは隣接もしていないのに、どうしてだろうかと考えていると、ミアちゃんのお父さん――ではなく、土の聖女の協力者らしい――が口を開く。

「簡単な話である。我がゲーマは技術の国。魔法とは異なる独自の技術があり、各国に配置された調査要員から、常に周辺国の動向が伝わってくるのである。またその周辺国の動向は、新聞に載っており、購入すれば誰でも知る事ができるのである」
「えっ!? 私がどこに居るかっていう事まで、ゲーマの人は皆知っているの!?」
「それは、別途依頼して調べてもらっただけであり、個人の話は載っていないので、安心するのである」

 いや、安心しろって言われても、依頼すれば分かっちゃうんだよね?
 ちょっと怖いんだけど。

「とにかく、お姉さんのせいでミアが大変だから、助けてほしいのっ!」
「助けるって言っても、具体的にどうしてほしいの?」
「それも含めて助けてっ! ね、お願いっ! 同じ聖女どうし、協力してよーっ!」
「そう言われると、断り辛いんだけど……ただ、今はポーションを作る依頼を請けているのよ」
「じゃあ、それが終わってからで良いから! 一生のお願いっ! ねっ、いいよね? これ……ミアの活動拠点の地図なの。待ってるから、お仕事が終わったら来てね? ミアの事、見捨てないでね?」

 ミアちゃんに懇願され、一応助ける事になって、二人は帰っていった。

「鉄の国に土の聖女……なんだか大変な事になっちゃったわね」

 まさか土の聖女が近くの国に居て、しかも太陽の聖女みたいにみんなに崇められている訳じゃなくて、自分で信者を増やそうと頑張っていたところだったなんて。
 まぁ私も水の聖女だけど、信者なんて一人も居ないし、そもそも増やそうともしていないけど。
 ……そう考えると、太陽の聖女っていうのが特殊なのかな? あんなに大きな神殿があって、国の中心になっているし。一口に聖女と言っても、住んでいる国の文化によって扱いが全然違うみたいね。

「イナリ、ごめんね。なりゆきで鉄の国へいく事になっちゃって」
「む? 我は全く構わんが、何故謝るのだ?」
「イナリは、自分の封印された力を探したいんじゃないの?」
「その事か。我はアニエスのおかげで、すでに二つも力を取り戻す事ができたのだ。それに加え、神水のおかげで以前を上回る程の力を得ている。だから、気にする必要などないぞ。それに元々、我はアニエスが行きたい場所へついていくだけだ。アニエスの行動を邪魔したり、行き先を変えたりするような事はせんよ」

 イナリがそう言って、気にするなとでも言いたげに、子狐姿のまま尻尾を振る。

「何だか大変そうな事に巻き込まれているけれど、アニエスはまた他の国へ行ってしまうんだね。すまないが、その前にもう少しだけ超級ポーションを作ってくれないかい? できれば……これくらいの数を」

 ソフィアさんが眉をひそめながら、改めてポーション作りをお願いしてきた。目標個数を聞いたのだけど……うん、ちょーっと多いかな。
 とりあえず、ポーションをたくさん作らないといけない事が分かったのと、ミアちゃんが待っているのでできるだけ早く……という事で、ちょっとだけ無理してポーションを作る。
 それから、三日掛かってようやく目標の数に達したので、ゲーマへ出発する事に。

「ソフィアさん。行ってきますね」
「行ってきます……って、今の今まで急ピッチで超級ポーションを作っていたというのに、大丈夫なのかい?」
「私は平気ですよ。その……疲れて集中力が落ちてきたら、神水を飲んでいたので」
「そうかい。じゃあ、冒険者ギルドへ寄って、報酬を受け取ってから行くんだよ」

 ソフィアさんに見送られて、イナリとコリンと三人で家を出る。言われた通りにギルドでオリアンヌさんからポーション作りの報酬を受け取ったのだけど、前回同様にソフィアさんから多過ぎる額が支払われていた。

「……って、またこんなに多いし」
「うーん。確かに上級ポーションの作成報酬としては破格な感じがするね。だけど、ソフィアさんだし、良いんじゃないかなー?」

 さらっとそう言うオリアンヌさん。神水を使って作っているから、普通のポーションではない超級ポーションらしいので、ソフィアさん的には適正な報酬だと考えているのかもしれないけど。必要な材料は提供してもらっているし、やっている作業も上級ポーション作りと同じなんだけどね。

「それよりアニエスは、またどこかへ行っちゃうの? せっかくフランセーズに帰ってきたんだから、もうちょっとゆっくりしようよー」
「いろいろと訳ありで、困っている女の子を助けに行かなくちゃいけなくて……」
「アニエスがソフィアさんの家から離れたら、私たちも困っちゃうよー! 私を助けるためだと思って、次に戻ってきたら長く滞在してよね。もちろん、ソフィアさんのお手伝いをしながら」
「……あの、私がイスパナへ行っている間に、ソフィアさんの助手は見つからなかったんですか?」
「見つかる訳ないよ! C級の依頼としては報酬が高いし、魔物と戦ったりする訳でもないから希望者はちょくちょく現れるんだけど……だいたい、一時間くらいかな」
「何が……ですか?」
「ギブアップというか、もう来なくて良いってソフィアさんに告げられるまでの時間だよ。という訳で、アニエスくらいしかこの依頼はこなせないんだ。早く……早く帰ってきておくれよー!」

 フランセーズに……というか、ソフィアさんの家に残ってほしいとオリアンヌさんに懇願されながらギルドを出て、鉄の国ゲーマ行きの貸切馬車へ。
 コトコトと数日馬車に揺られ、ミアちゃんが活動拠点としている街、ベーリンにやってきた。

「お客さん、着いたよ。ここがゲーマの帝都、ベーリンの街だ」

 イスパナへ行った時は、特に急いでいた訳ではないので、いろんな街で依頼を受けていたけど、今回は一気に目的地へ。

「お姉ちゃん。フランセーズやイスパナと、街並みが全然違うね」
「そうね。通りが整然としているのと、高い建物が多いのかな?」

 鉄の国と呼ばれているだけあって、フランセーズでは一般的なレンガ造りの家よりも、鉄で造られている建物の方が多いように思える。
 お店で売られている服や食材も全然違うので、ちょっと気になりながらも、ミアちゃんの居る活動拠点へ。

「えっと、ミアちゃんからもらった地図によると、どうやらこのあたりらしいんだけど……見当たらないわね」
「アニエス。もしや、ここではないか? この地下から、先日の土の聖女の魔力を感じるぞ」
「え? ……ここ?」

 街に入って、本来の姿に戻ったイナリが指し示すのは、建物と建物の隙間にある謎の階段だった。
 扉すらない、人が一人通れる程の階段が、地面の下へ向かっている。
 こんな場所にミアちゃんが居るのかと疑念を抱きつつも、地図に該当しそうな場所はここしかない。恐る恐る薄暗い明かりに照らされた階段を下っていくと、元気なミアちゃんの声が響いた。

「あ、お姉さん! 来てくれたんだねっ!」
「えぇ。何とかお仕事を終わらせたわ」
「ありがとう! えっと、こっちはコリンちゃんと……そっちの人は?」
「そっか。前は子ぎ……こほん。家に居なかったよね。イナリっていう、とっても頼りになる人よ」
「そうなんだー。イナリさん、よろしくねー!」

 そう言って、ミアちゃんが頭を下げているシルエットが見えるけど、とにかく部屋が暗い。
 地下なので当然なのかもしれないけれど、窓なんてないし、部屋を照らす照明もかなり抑えられている。
 その薄暗い部屋の中を見渡してみると、中に居るのはミアちゃんを除いて二人……かな。
 何を話しているのかは分からないけれど、何やら真剣に話し合っているようだ。

「とりあえず、これからの行動の再確認だけど、この鉄の国でミアちゃんの――土の聖女の知名度を上げる、それが目的って事で良いのかな?」
「うん!」
「でも、そのために何をするかは、特に決まっていないと」
「うんっ! だからまずは、どうやったらミアの事を皆に知ってもらえるのかを教えてほしいの」

 教えてほしいって言われても、私も知名度の上げ方なんて分からないんだけどね。

「ミアちゃんたちは、これまでに土に関する活動をしてきたんだよね? これからさらに知名度を上げるために何をしようと思っているの?」
「えっとねー、まずビラを作って、本物の土の聖女が居るよっていう事を街の皆に周知してー、それから土の大切さを街頭で語ったりー、採掘場で石を運ぶお手伝いとかかなー?」
「なるほど。ミアちゃんは、土の魔法でどんな事ができるの?」
「どのあたりに鉱石が埋まっているかが、何となく分かるの」
「うんうん。他には?」
「えっ? それだけ……だよ?」

 鉱石の位置が分かるっていうのは、すごい……よね? よく分からないけど。
 あ、そういえばイナリが、強い魔力を秘めているけど未熟だって言っていたっけ。すごい魔力はあるけど、使いこなせていないって。
 けど、一通り話を聞いたものの、どうすれば良いのかわからない。イナリに意見を求めようと目を向けると、任せろ! といった感じで、大きく頷く。

「うむ。地味だな」
「うわっ! この人、綺麗な顔して毒舌だよっ! 気にしている事を、ハッキリ本人に言ってきたーっ!」
「ちょ、ちょっとイナリ。もう少しオブラートに包もうよ」

 直球で言っちゃったよ。まぁイナリに気を遣えっていうのも、難しい話かもしれないけど。

「待つのだ。我の見立てでは、この童女は魔力の使い方を知らぬだけだ。ならば、使える魔法を増やせば良いのだ」
「えっ!? そんな事ができるのっ!? 教えてっ!」
「うむ。水の聖女であるアニエスの力を借りれば、それくらい朝飯前であろう」

 そう言って、暗い部屋の中でイナリが私を見つめているようなのだけど……まさかイナリは、ミアちゃんにアレをさせるつもりなのっ!?


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