79 / 86
第2章 辺境の地で快適に暮らす土の聖女
挿話19 ダークエルフの斥候マリウス
しおりを挟む
「こ、これは大変だっ! 今すぐ族長へ知らせないと!」
走れっ! 走るんだっ! 力の限りっ!
おそらく、この任務に就いてから……いや、これまで生きてきた中で、最も速く走っているだろう。
とにかく全力で森の中を走り、ようやく目的地である隠れ家へ到着した。
「……こちら、偵察隊のマリウスです。族長! 族長、聞こえますか!?」
声を伝えるマジックアイテムに向かって何度か呼びかけると、少しして返事があった。
「あー、あー、こちらは本部だ。どうした? このマジックアイテムは、緊急時しか使うなと言ったはずだが」
「今がその緊急事態です! エレンさんが……エレンさんが殺されましたっ!」
「はぁっ!? ど、どういう事だ!? エレンは人間族の聖女に、ソースを作れと言いに行っただけだろ!? わかるように、時系列で最初から説明しろっ!」
「は、はいっ! あれは僕が生まれた日……」
「そんな所からは要らんっ! エレンがケンタウロスどもの所へ着いてからを話せっ!」
族長が最初から話せって言ったのに……。
とりあえず、エレンさんがケンタウロスの村へ来て、マヨネーズの美味しさに驚いた事と、鬼人族の村へ寄ってから、川沿いに歩き出した事と、そこが聖女の家だった事を伝えた。
「エレンがその聖女に殺されたというのか!? だが、聖女は人間族だろ!? エレンが人間族に遅れをとるとは思えんぞ!?」
「いえ、それが……どうやら聖女はグリフォンを手懐けているようでして」
「ぐ……グリフォンだと!? 神獣ではないか!」
「はい。どのような手を使ったのかは分かりませんが、聖女の側には常にグリフォンが控えているようです。そして、そのグリフォンがエレンさんを咥えて……」
「え、エレンを咥えてどうしたのだっ!?」
「……天高くへ舞い上がり、遙かに高い位置から地上へ落として……」
「な……なんだとっ!? そ、そんな。エレンが……俺の娘が……」
突然声を伝えるマジックアイテムでの会話が、一方的に遮断された。
族長も親なので、おそらく泣いているのだろう。
それから暫くして、再び族長の声が届いてきた。
「マリウスよ。その聖女の居場所はわかるな?」
「は、はい。しかしながら、エレンさんが何処に落下したかまでは……」
「それはもう良い。エレンが亡くなったのは残念な事だが、それはグリフォンを従えるという聖女の力を見誤ったエレンが未熟だったのだ」
「……え?」
「それより、その聖女が我らダークエルフにケンカを売った事の方が許せぬ! 既に皆へ周知し、戦の準備を整えた。聖女の家は、今から走れば深夜には着く場所か?」
「え? はぁ……一応は」
あれ? 族長はエレンさんの死を全く悲しんで居ない?
いやでも、物凄く怒っているみたいだし……え、エレンさんが亡くなった事に怒っているんですよね!?
「ふっふっふ。聖女め。誇り高き我らダークエルフにケンカを売った事を後悔させてやろう」
「あ、あの。族長……相手はグリフォンですが」
「ふっ! 確かにグリフォンは強敵だ。だが、相手がグリフォンと分かっていれば、幾らでも手の打ちようがある。エレンは、我ら一族の勝利の為に、その身をもって聖女がグリフォンを使役しているという情報を、引き出してくれたのだ」
「はぁ……」
「ふっふっふ。如何にグリフォンであっても、眠っている所に、遠くから弓と魔法で攻撃されれば、ひとたまりも無いだろう。はっはっは。はーっはっはっはーっ!」
えーっと、僕は逃げても良いかな?
グリフォンと戦うなんて、絶対に嫌なんだけど。
走れっ! 走るんだっ! 力の限りっ!
おそらく、この任務に就いてから……いや、これまで生きてきた中で、最も速く走っているだろう。
とにかく全力で森の中を走り、ようやく目的地である隠れ家へ到着した。
「……こちら、偵察隊のマリウスです。族長! 族長、聞こえますか!?」
声を伝えるマジックアイテムに向かって何度か呼びかけると、少しして返事があった。
「あー、あー、こちらは本部だ。どうした? このマジックアイテムは、緊急時しか使うなと言ったはずだが」
「今がその緊急事態です! エレンさんが……エレンさんが殺されましたっ!」
「はぁっ!? ど、どういう事だ!? エレンは人間族の聖女に、ソースを作れと言いに行っただけだろ!? わかるように、時系列で最初から説明しろっ!」
「は、はいっ! あれは僕が生まれた日……」
「そんな所からは要らんっ! エレンがケンタウロスどもの所へ着いてからを話せっ!」
族長が最初から話せって言ったのに……。
とりあえず、エレンさんがケンタウロスの村へ来て、マヨネーズの美味しさに驚いた事と、鬼人族の村へ寄ってから、川沿いに歩き出した事と、そこが聖女の家だった事を伝えた。
「エレンがその聖女に殺されたというのか!? だが、聖女は人間族だろ!? エレンが人間族に遅れをとるとは思えんぞ!?」
「いえ、それが……どうやら聖女はグリフォンを手懐けているようでして」
「ぐ……グリフォンだと!? 神獣ではないか!」
「はい。どのような手を使ったのかは分かりませんが、聖女の側には常にグリフォンが控えているようです。そして、そのグリフォンがエレンさんを咥えて……」
「え、エレンを咥えてどうしたのだっ!?」
「……天高くへ舞い上がり、遙かに高い位置から地上へ落として……」
「な……なんだとっ!? そ、そんな。エレンが……俺の娘が……」
突然声を伝えるマジックアイテムでの会話が、一方的に遮断された。
族長も親なので、おそらく泣いているのだろう。
それから暫くして、再び族長の声が届いてきた。
「マリウスよ。その聖女の居場所はわかるな?」
「は、はい。しかしながら、エレンさんが何処に落下したかまでは……」
「それはもう良い。エレンが亡くなったのは残念な事だが、それはグリフォンを従えるという聖女の力を見誤ったエレンが未熟だったのだ」
「……え?」
「それより、その聖女が我らダークエルフにケンカを売った事の方が許せぬ! 既に皆へ周知し、戦の準備を整えた。聖女の家は、今から走れば深夜には着く場所か?」
「え? はぁ……一応は」
あれ? 族長はエレンさんの死を全く悲しんで居ない?
いやでも、物凄く怒っているみたいだし……え、エレンさんが亡くなった事に怒っているんですよね!?
「ふっふっふ。聖女め。誇り高き我らダークエルフにケンカを売った事を後悔させてやろう」
「あ、あの。族長……相手はグリフォンですが」
「ふっ! 確かにグリフォンは強敵だ。だが、相手がグリフォンと分かっていれば、幾らでも手の打ちようがある。エレンは、我ら一族の勝利の為に、その身をもって聖女がグリフォンを使役しているという情報を、引き出してくれたのだ」
「はぁ……」
「ふっふっふ。如何にグリフォンであっても、眠っている所に、遠くから弓と魔法で攻撃されれば、ひとたまりも無いだろう。はっはっは。はーっはっはっはーっ!」
えーっと、僕は逃げても良いかな?
グリフォンと戦うなんて、絶対に嫌なんだけど。
50
お気に入りに追加
4,150
あなたにおすすめの小説
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
聖獣がなつくのは私だけですよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる