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第2章 辺境の地で快適に暮らす土の聖女

挿話18 聖女の家に向かうダークエルフのエレン

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「失礼。デューク殿は在宅だろうか」
「はい。主人は居りますので、中へどうぞ」

 鬼人族の村へ行き、教えてもらったデュークという商人の家へ。
 通された先に居たのは……あぁ、こいつか。
 ロクに味も分からないのにわ我々のミソやソイソースを吐き捨てた奴じゃないか。

「おや、エレンさん。お久しぶりですね」
「……私のことを覚えているのか? 一度しか会っていないのに」
「えぇ、もちろん。仕事柄、人と会った事は忘れませんので。それで、今日はどうされたのですか? ダークエルフの方が我々の村へ来るなんて、かなり珍しいと思うのですが」
「あぁ、人間族の聖女に会わせて欲しい。ケンタウロスたちから、貴方に聞くと良いと言われたんだ」
「……まったく。聖女様の事は口外禁止だと言っておいたのに」

 そう言って、デュークが溜息を吐く。
 なるほど。聖女の力を、自分たちだけの物にしたいという事か。

「聖女は人間族だと聞いている。鬼人族が独占するのはおかしいと思うのだが」
「独占だなんて考えていませんし、そもそも我々がどうこう出来る方ではありませんよ。何か勘違いなさっているようですが、聖女様が自ら口外して欲しくないと仰っているのです」

 ふむ。それっぽい事を口にしているが、果たしてどこまでが真実だろうか。
 まぁ何と言われようとも、私の行動に変わりはないが。

「ひとまず、それは置いておいて、聖女は何処に居るのだ?」
「残念ですが、先ほど言った通り、お教えする訳にはいきません」
「やはり、聖女を独占しようとしているのではないか!」
「違うと言っているでしょう」

 デュークと真っ向から睨み合い……向こうが深い溜息を吐く。

「はぁ……わかりました。お話ししましょう。ここでゴネて、ダークエルフの族長が出て来るような事になったら、聖女様に申し訳がないですからね」
「……私が言うのも何だが、そうしてくれると助かる。父は見境がないからな」
「ここから南へ行くと、地面に二本の鉄の棒が敷かれて居ます。その棒に沿って南西へ行くと、聖女様の家があります」
「……感謝する」
「一つ言っておきますが、くれぐれも聖女様に失礼の無いように。貴女のためにも」

 そんな事、言われなくても分かっている。
 こちらは、聖女にお願いしに行くのだからな。立場は弁えている。
 それに、そもそも聖女がミソやソイソースに価値を見出せない場合、逃げてもらわなければならないからな。
 父は村の事になると周りが見えなくなるが、闇魔法の力は本物だ。
 ケンタウロスの村で作ったマヨネーズの旨さは本物だったが、だからと言って、全く知らない我々の食べ物に、即対応出来るとは限らない。
 父が暴走する前に、上手く収めなければ。
 そんな事を考えながら暫く歩くと、変わった形の棒があった。

「デュークの言っていた棒はこれか。延々と続いているが……何なのだ?」

 道に迷わないようにする為の道標……か?
 だが、これでは自分の家を周囲に教えているようなものだが。
 言われた通り、棒に沿ってあるくと、かの有名な死の川が見えて来た。
 流石に、この川の向こうという事はないだろう、
 そう思っていたのだが、こちら側で棒が途切れ、向こう岸に家? らしきものがある。

「し、死の川を渡れという事か!? ふざけるなっ! デュークめ、騙したのかっ!」

 家は確かにあるが、これでは行けない。
 かなり上流まで遡り、川を渡らなければと思っていると、

「ん? セシリアのお客さんかな?」

 誰かの声が聞こえ……ら、ライトニング・ベアっ!?
 マズい! 死ぬっ!

「どうしたのだ? セシリアの友人か?」

 ぐ、グリフォンっ!? あ、無理。逃げる事すら出来ない事が確定した。
 デュークめ……化けて出てやるからなーっ!
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