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第1章 追放された土の聖女
挿話15 未開の地へ行く第二王子ルーファス
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「な、何だとっ!? ルーファス。もう一度言ってみろ!」
「はい。土の聖女セシリアは、未開の地ジャトランに居ます」
「い、生きているのか!? 土の聖女は生きているのか!?」
「えぇ。生きていますが……もうこの国には戻らないとの事です」
謁見の間で、国王である父が凄い表情で俺を睨んでくる。
だが俺は、セシリアを連れ戻す為に俺自らジャトランへ渡り……地獄を見た。
俺より遥かにデカい熊に殴られ、物凄い衝撃と恐怖と苦痛を受けた直後に、治癒魔法で苦痛だけが消され、再び殴られる。
それが、永遠に続くのではないかと思える程に長く繰り返され、あの衝撃と恐怖が蓄積していき……だ、ダメだ。思い出しただけでも、身体がすくみ上ってしまう。
とにかく、あんな地獄は二度と味わいたくはない。
あの地獄に比べれば、父に睨まれる程度など、何て事はないからな。
「くっ……その生きているという情報は確かなのだな? ならば、騎士団を向かわせて……」
「無理ですよ。その情報は、俺自ら騎士団を連れてジャトランへ行って得て来た情報です。騎士団の団員たちが、現地で聖女に助けられており、力づくで連れて来る事など出来ないと言って、むしろ俺が力づくで船に乗せられて帰って来た程ですから」
「な、何という事だ。あの筋肉バカたちは、この国にとって土の聖女がどれだけ重要な存在か分かっていないのか」
父が頭を抱えていると、隣で佇んでいた兄である第一王子が口を開く。
「父上、蛇の道は蛇。ジャトランに居る聖女を連れ戻すというのであれば、その道のプロに頼むのが良いでしょう。私に考えがあります」
「ほう……妙案があるのか?」
「えぇ。この王都の地下に潜んでいるという、闇ギルドを使いましょう。白金貨でもバラまけば、奴らは死に物狂いで、土の聖女を連れて来るはずです」
「……闇ギルドか。わかった。だが、くれぐれも依頼元が王族だという事がばれぬようにするのだぞ」
「もちろんです」
そう言って、兄がニヤニヤと笑みを浮かべながら、謁見の間を出て行く。
ふん。闇ギルドだか何だか知らないが、ジャトランは地獄だ。上手くいく訳が無い。
「さて、ルーファスよ。ワシがお前に何という指示を出したか覚えているか?」
「土の聖女セシリアを探して来いと……」
「いや、セシリア嬢を連れ戻すまで、王宮に戻るなと言ったのだ。そして国を統べる者は、常に第一の策が失敗に終わってもリカバリ出来るように、第二、第三の策を用意しているものなのだ」
「……父上は、何が言いたいのでしょうか?」
「お前がセシリア嬢を連れ戻せなかった時に、この国に必要な土の聖女の力による鉄の産出を、別の方法で行うという事だ。ルーファス……お前の働きによってな」
な、何だっ!? 一体、父は何を考えているんだ!?
「ここから遥か南に、ジャトランと同じ程度の文明しか持たぬ、巨人族という種族の国があるのだが、そこではかなり鉄が採れるそうだ」
「……俺に、その国を堕とし、資源を奪って来いという事ですか?」
「愚かな。相手は巨人族だ。力では勝てぬ。だから、王族であるお前を巨人族の国へ婿養子として送り出し、友好国として資源を援助してもらうのだ」
「は!? いや、父上。兄上が闇ギルドとやらに依頼して、セシリアを連れ戻すのでしょう!?」
「それとこれとは別問題だ。とにかく、お前を巨人族の国へ送り出すのは決定事項だ。巨人族を怒らせたら、人間など素手で殺されてしまうからな。せいぜい機嫌を損ねぬようにするのだぞ」
その直後、父の指示により、周囲に居た近衛騎士たちが俺の腕を掴み、
「今すぐルーファスを船に乗せよ。巨人族の国へ送り出せ!」
「はっ! 畏まりました」
「な、何を言っているんだ!? 父上っ!? 父上ーっ! くそっ! 放しやがれぇぇぇっ!」
俺は遠い南の……殆ど文明らしき物が存在しない土地へ放り出される。
俺を乗せてきた船がすぐさま引き返していき……こんな場所で生きていくなど無理だ……と、頭が真っ白になってしまった。
「はい。土の聖女セシリアは、未開の地ジャトランに居ます」
「い、生きているのか!? 土の聖女は生きているのか!?」
「えぇ。生きていますが……もうこの国には戻らないとの事です」
謁見の間で、国王である父が凄い表情で俺を睨んでくる。
だが俺は、セシリアを連れ戻す為に俺自らジャトランへ渡り……地獄を見た。
俺より遥かにデカい熊に殴られ、物凄い衝撃と恐怖と苦痛を受けた直後に、治癒魔法で苦痛だけが消され、再び殴られる。
それが、永遠に続くのではないかと思える程に長く繰り返され、あの衝撃と恐怖が蓄積していき……だ、ダメだ。思い出しただけでも、身体がすくみ上ってしまう。
とにかく、あんな地獄は二度と味わいたくはない。
あの地獄に比べれば、父に睨まれる程度など、何て事はないからな。
「くっ……その生きているという情報は確かなのだな? ならば、騎士団を向かわせて……」
「無理ですよ。その情報は、俺自ら騎士団を連れてジャトランへ行って得て来た情報です。騎士団の団員たちが、現地で聖女に助けられており、力づくで連れて来る事など出来ないと言って、むしろ俺が力づくで船に乗せられて帰って来た程ですから」
「な、何という事だ。あの筋肉バカたちは、この国にとって土の聖女がどれだけ重要な存在か分かっていないのか」
父が頭を抱えていると、隣で佇んでいた兄である第一王子が口を開く。
「父上、蛇の道は蛇。ジャトランに居る聖女を連れ戻すというのであれば、その道のプロに頼むのが良いでしょう。私に考えがあります」
「ほう……妙案があるのか?」
「えぇ。この王都の地下に潜んでいるという、闇ギルドを使いましょう。白金貨でもバラまけば、奴らは死に物狂いで、土の聖女を連れて来るはずです」
「……闇ギルドか。わかった。だが、くれぐれも依頼元が王族だという事がばれぬようにするのだぞ」
「もちろんです」
そう言って、兄がニヤニヤと笑みを浮かべながら、謁見の間を出て行く。
ふん。闇ギルドだか何だか知らないが、ジャトランは地獄だ。上手くいく訳が無い。
「さて、ルーファスよ。ワシがお前に何という指示を出したか覚えているか?」
「土の聖女セシリアを探して来いと……」
「いや、セシリア嬢を連れ戻すまで、王宮に戻るなと言ったのだ。そして国を統べる者は、常に第一の策が失敗に終わってもリカバリ出来るように、第二、第三の策を用意しているものなのだ」
「……父上は、何が言いたいのでしょうか?」
「お前がセシリア嬢を連れ戻せなかった時に、この国に必要な土の聖女の力による鉄の産出を、別の方法で行うという事だ。ルーファス……お前の働きによってな」
な、何だっ!? 一体、父は何を考えているんだ!?
「ここから遥か南に、ジャトランと同じ程度の文明しか持たぬ、巨人族という種族の国があるのだが、そこではかなり鉄が採れるそうだ」
「……俺に、その国を堕とし、資源を奪って来いという事ですか?」
「愚かな。相手は巨人族だ。力では勝てぬ。だから、王族であるお前を巨人族の国へ婿養子として送り出し、友好国として資源を援助してもらうのだ」
「は!? いや、父上。兄上が闇ギルドとやらに依頼して、セシリアを連れ戻すのでしょう!?」
「それとこれとは別問題だ。とにかく、お前を巨人族の国へ送り出すのは決定事項だ。巨人族を怒らせたら、人間など素手で殺されてしまうからな。せいぜい機嫌を損ねぬようにするのだぞ」
その直後、父の指示により、周囲に居た近衛騎士たちが俺の腕を掴み、
「今すぐルーファスを船に乗せよ。巨人族の国へ送り出せ!」
「はっ! 畏まりました」
「な、何を言っているんだ!? 父上っ!? 父上ーっ! くそっ! 放しやがれぇぇぇっ!」
俺は遠い南の……殆ど文明らしき物が存在しない土地へ放り出される。
俺を乗せてきた船がすぐさま引き返していき……こんな場所で生きていくなど無理だ……と、頭が真っ白になってしまった。
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