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第1章 追放された土の聖女
挿話4 初めて酒場へ行く第二王子ルーファス
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魔法学校でセシリアの代わりとなる土魔法使いを探そうとしたが、聖女になれる人物は十年に一人のの逸材だから無理だと断られた。
冒険者ギルドへ、セシリアを探すように依頼しようとしたら、危険な地へ死んでいる可能性が高い人物を探しに行かせるような依頼は請けられないと断られた。
騎士団に俺が命じれば、未開の地だろうと、地の果てだろうとセシリアを捜しに行くだろうが、その場合は理由の説明が必要となる。
そして騎士団に説明すれば必ず父の耳に入り、俺がセシリアをジャトラン送りにしてしまった事がバレてしまう。
「くそっ! 俺様は、一体どうすれば良いのだっ!」
思い付いた策がどれも使えなかったので、それなりに高級感が漂う店に入って夕食をとっていると、
「ルーファス様。本日は、我々共の店へ起こしくださり、誠にありがとうございます。あの、お口にはあいましたでしょうか」
店のオーナーと料理長が挨拶にやって来た。
「うむ。悪くはなかったぞ。また足を運んでやろう」
「誠でございますか! それは、ありがとうございます!」
「……そうだ。一つ教えて欲しいのだが、冒険者ギルドに仕事を依頼しようとしたのだが、難易度が高すぎると断られてしまったのだ。金に糸目は付けないという前提で、そういう場合……市井の者たちはどうするのだ?」
「なんと……ルーファス様のご依頼を断るだなんて。冒険者ギルドは何と愚かなのでしょうな。しかし、冒険者ギルド以外で……となると、そうだ! 僭越ながら、私に妙案がございます」
「ふむ。何だ?」
「はい。何でも、報酬は高額ですが、どんな依頼でも必ず成し遂げるという凄腕の短剣使いが居るそうでして。その者が毎晩夜が更けた頃に、どこかの酒場に現れるという噂を聞いた事があります」
「ほう。そんな者が居るのか。わかった、行ってみよう。これはチップだ。少ないが取っておけ」
「こ、これは白金貨っ!? あ、ありがとうございますっ!」
ただの思い付きで聞いてみたのだが、思いがけず良い情報が得られたな。
だが、今の話が本当であれば、現れるのは真夜中か。まだ暗くなったばかりだから、それなりに時間があるな。
とりあえず、酒場の場所を確認しておくか。
酒場という存在は知っているが、実際に行った事は無い。
若い騎士たちから聞いた話では、俺が嗜んでいるような葡萄酒などは置いておらず、麦や芋から作った酒を飲む店なのだとか。
店によっては椅子が無く、立ち飲みというスタイルの所もあるらしい。
だが、事態が事態なので、仕方がないだろう。
とりあえず、人が多く集まっている店の方が良いだろうと、大通りを見渡し……
「なるほど。確か酒場というのは庶民が酒を飲む店だったな。そのような程度の低い店が、大通りにある訳がないか」
場所を誤ったという事に気付く。
今の大通りから、二つほど離れた小さな通りへ行くと……あった。
夜だというのに、店の明かりが煌々と輝いており、騒がしい声が聞こえて来るので、あれが酒場で間違いないだろう。
早速店に入ってみると、
「いらっしゃいませー! 一名様ですかぁー?」
「う、うむ」
「では、こちらのお席へどうぞ。ご注文が決まりましたら、声を掛けてくださいねー!」
一体何がどうなっているのか、店の女性店員がウサギの格好をしているだと!?
こ、これが酒場という場所なのか!
「お兄さん。何を飲まれますかぁー?」
「で、では一番高い酒をもらおう」
「はーい! こちらのお兄さんが、ラビット・スペシャルをご注文でーす!」
気付けばウサギの店員たちに囲まれ、安くて飲めたものでは無い酒を飲まされ……いや? 意外に悪く無い? 慣れれば結構……それに、女性に囲まれるというのも悪く無いな。
「またまた、お兄さんからラビット・スペシャルをご注文いただきましたぁー!」
「はっはっは。酒場というのも悪く無いではないか。今日は無礼講だ。酒を持って来い!」
……
「お客さん、起きてくれよ。閉店だよ」
「ん……? ウサギちゃんは……?」
「そんなの、もうとっくに帰ったよ。それよりアンタ……めちゃくちゃ飲んだけど、金はあるんだろうな?」
「当たり前だろう。俺は……っと、んん!? な、無いっ! 俺様の財布が……」
「お兄さん。冗談だよな? とりあえず、奥へ来てもらおうか」
「待て! これくらいのはした金など、幾らでも……おい、話を聞けぇぇぇっ! 俺はこの国の第二王子ルーファス様だぞっ!」
「うるせぇ! だったら俺は国王だよ! いいから来いっ!」
クソが……。
大柄な男たちが寄ってたかって、俺様の身に着けていた装飾品や愛剣どころか、服まで奪いやがって……チクショォォォッ!
冒険者ギルドへ、セシリアを探すように依頼しようとしたら、危険な地へ死んでいる可能性が高い人物を探しに行かせるような依頼は請けられないと断られた。
騎士団に俺が命じれば、未開の地だろうと、地の果てだろうとセシリアを捜しに行くだろうが、その場合は理由の説明が必要となる。
そして騎士団に説明すれば必ず父の耳に入り、俺がセシリアをジャトラン送りにしてしまった事がバレてしまう。
「くそっ! 俺様は、一体どうすれば良いのだっ!」
思い付いた策がどれも使えなかったので、それなりに高級感が漂う店に入って夕食をとっていると、
「ルーファス様。本日は、我々共の店へ起こしくださり、誠にありがとうございます。あの、お口にはあいましたでしょうか」
店のオーナーと料理長が挨拶にやって来た。
「うむ。悪くはなかったぞ。また足を運んでやろう」
「誠でございますか! それは、ありがとうございます!」
「……そうだ。一つ教えて欲しいのだが、冒険者ギルドに仕事を依頼しようとしたのだが、難易度が高すぎると断られてしまったのだ。金に糸目は付けないという前提で、そういう場合……市井の者たちはどうするのだ?」
「なんと……ルーファス様のご依頼を断るだなんて。冒険者ギルドは何と愚かなのでしょうな。しかし、冒険者ギルド以外で……となると、そうだ! 僭越ながら、私に妙案がございます」
「ふむ。何だ?」
「はい。何でも、報酬は高額ですが、どんな依頼でも必ず成し遂げるという凄腕の短剣使いが居るそうでして。その者が毎晩夜が更けた頃に、どこかの酒場に現れるという噂を聞いた事があります」
「ほう。そんな者が居るのか。わかった、行ってみよう。これはチップだ。少ないが取っておけ」
「こ、これは白金貨っ!? あ、ありがとうございますっ!」
ただの思い付きで聞いてみたのだが、思いがけず良い情報が得られたな。
だが、今の話が本当であれば、現れるのは真夜中か。まだ暗くなったばかりだから、それなりに時間があるな。
とりあえず、酒場の場所を確認しておくか。
酒場という存在は知っているが、実際に行った事は無い。
若い騎士たちから聞いた話では、俺が嗜んでいるような葡萄酒などは置いておらず、麦や芋から作った酒を飲む店なのだとか。
店によっては椅子が無く、立ち飲みというスタイルの所もあるらしい。
だが、事態が事態なので、仕方がないだろう。
とりあえず、人が多く集まっている店の方が良いだろうと、大通りを見渡し……
「なるほど。確か酒場というのは庶民が酒を飲む店だったな。そのような程度の低い店が、大通りにある訳がないか」
場所を誤ったという事に気付く。
今の大通りから、二つほど離れた小さな通りへ行くと……あった。
夜だというのに、店の明かりが煌々と輝いており、騒がしい声が聞こえて来るので、あれが酒場で間違いないだろう。
早速店に入ってみると、
「いらっしゃいませー! 一名様ですかぁー?」
「う、うむ」
「では、こちらのお席へどうぞ。ご注文が決まりましたら、声を掛けてくださいねー!」
一体何がどうなっているのか、店の女性店員がウサギの格好をしているだと!?
こ、これが酒場という場所なのか!
「お兄さん。何を飲まれますかぁー?」
「で、では一番高い酒をもらおう」
「はーい! こちらのお兄さんが、ラビット・スペシャルをご注文でーす!」
気付けばウサギの店員たちに囲まれ、安くて飲めたものでは無い酒を飲まされ……いや? 意外に悪く無い? 慣れれば結構……それに、女性に囲まれるというのも悪く無いな。
「またまた、お兄さんからラビット・スペシャルをご注文いただきましたぁー!」
「はっはっは。酒場というのも悪く無いではないか。今日は無礼講だ。酒を持って来い!」
……
「お客さん、起きてくれよ。閉店だよ」
「ん……? ウサギちゃんは……?」
「そんなの、もうとっくに帰ったよ。それよりアンタ……めちゃくちゃ飲んだけど、金はあるんだろうな?」
「当たり前だろう。俺は……っと、んん!? な、無いっ! 俺様の財布が……」
「お兄さん。冗談だよな? とりあえず、奥へ来てもらおうか」
「待て! これくらいのはした金など、幾らでも……おい、話を聞けぇぇぇっ! 俺はこの国の第二王子ルーファス様だぞっ!」
「うるせぇ! だったら俺は国王だよ! いいから来いっ!」
クソが……。
大柄な男たちが寄ってたかって、俺様の身に着けていた装飾品や愛剣どころか、服まで奪いやがって……チクショォォォッ!
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