4 / 86
第1章 追放された土の聖女
第4話 ライトニング・ベア
しおりを挟む
「美味しいっ! な、何ですか、このブドウは!?」
「え? 普通のブドウだよ?」
「しかし、中に種が無いから果肉の味をしっかり楽しめますし、皮に渋みが全くない! 今まで食べたブドウの中で、一番美味しいブドウですよっ!」
熊さん……もといヴォーロスさんが、美味しい美味しいと言いながら、凄い勢いでブドウを食べていく。
美味しいのは美味しいけど、ごく普通の皮ごと食べられる種無しブドウなんだけどな。
生やしたブドウの木が一本だけだったからか、ヴォーロスが実を全部食べてしまい、
「……はっ! ぼ、僕は何という事を……本当に申し訳ない!」
我に返った途端に、物凄く謝られてしまう事に。
「あの、大丈夫だから。また生やせば良いし」
「いえ、いくらなんでも、これは何かお返ししないと……」
「あ、じゃあ、この辺りで人間の村とか街があったら教えてほしいな」
何だかヴォーロスが申し訳なさそうにしていたので、だったら……と、道案内を頼んだんだけど、何故か物凄く困っているみたいだ。
「えーっと、村とかの中までは入らなくても良いよ? 近くまで行ければ、十分なんだけど……」
「あの、非常に申し上げ難いのですが……この辺りに人間は住んでないんですよ」
「…………え? じょ、ジョークかな? く、熊ジョーク……」
「だと良かったんですけど、この辺りは見ての通り延々と平地で……あ、この川を上がって行けば、森があるくらいですかね」
おぉぅ……流石未開の地。村どころか、人が住んで無いときたか。
どうしよう。ヴォーロスの話では森があるらしいから、木は手に入るんだよね?
木を使って舟を作って……って、どっちに行けば人が住んで居る場所に辿り着くのっ!?
そもそも、ジャトランっていう場所が何処かも分かっていないのに、あの大きな海へ手作りの舟で人の住んで居る場所を目指すなんて自殺行為でしょ!
そんな事をするくらいなら、いっそここに住んでしまった方が良いんじゃない?
一人だったら、孤独で泣きそうになるけど、幸い喋るモフモフ熊さんが居る事だし。
「……ヴォーロスって、家族とか居るの?」
「僕ですか? いえ、僕の種族は大人になったら家族の元を離れないといけないという習わしなので、一人ですけど?」
「じゃあ、毎日ブドウを食べて良いから、一緒に住まない? というのも、私もここから家に帰る事が出来なくて、独りぼっちなのよ。だから、村を案内する代わりに、一緒に居て欲しいなーなんて」
「僕は良いですけど……というか、お返しがそんなので良いのですか!? 僕が貰ってばっかりですよ!?」
「あはは。気にしない、気にしない。こう見えて私、土の聖女って呼ばれていて、いろんな魔法が使えるし、魔力も沢山あるから」
「魔力……ですか。僕はライトニング・ベアっていう種族で、雷魔法が使えて魔力も沢山あるんですけど……これもお返しにはならなさそうですよね」
雷魔法が使える熊!?
凄い。熊さんなのに魔法が使えるんだ。それなら、日本の――異世界のリンゴを食べて知恵を得たって言っていたけど、元々賢い熊さんだったみたいね。
「……ん? ちょっと待って。ヴォーロスは雷魔法が使えるの?」
「えぇ。この爪の先から、雷を発する事が出来まして、これで川の魚を一網打尽にしたり出来ますけど……魚、お好きですか?」
「うん! あ、待って待って。今食べたいって意味じゃないの。その雷の魔法って、威力を弱くしたり出来るのかな?」
「もちろん。本気を出したら川の魚が全滅しちゃうので、ある程度威力を抑えられますよ。じゃあ、早速……」
「だから、違ーう! お魚は後でいただくとして、ヴォーロスの雷魔法で、私たちがすっごく幸せになる気がしてきたのよ。ちょっとアイディアが浮かんでね」
「はぁ……」
土の聖女である私は、土で壁を作ったり、石を生み出したりと、土に関する物を生み出す事が出来る。
土に関する物……つまり鉱物も生み出す事が出来る訳で。
もしかしたら未開の地の生活が、物凄く快適になるかもっ!
「え? 普通のブドウだよ?」
「しかし、中に種が無いから果肉の味をしっかり楽しめますし、皮に渋みが全くない! 今まで食べたブドウの中で、一番美味しいブドウですよっ!」
熊さん……もといヴォーロスさんが、美味しい美味しいと言いながら、凄い勢いでブドウを食べていく。
美味しいのは美味しいけど、ごく普通の皮ごと食べられる種無しブドウなんだけどな。
生やしたブドウの木が一本だけだったからか、ヴォーロスが実を全部食べてしまい、
「……はっ! ぼ、僕は何という事を……本当に申し訳ない!」
我に返った途端に、物凄く謝られてしまう事に。
「あの、大丈夫だから。また生やせば良いし」
「いえ、いくらなんでも、これは何かお返ししないと……」
「あ、じゃあ、この辺りで人間の村とか街があったら教えてほしいな」
何だかヴォーロスが申し訳なさそうにしていたので、だったら……と、道案内を頼んだんだけど、何故か物凄く困っているみたいだ。
「えーっと、村とかの中までは入らなくても良いよ? 近くまで行ければ、十分なんだけど……」
「あの、非常に申し上げ難いのですが……この辺りに人間は住んでないんですよ」
「…………え? じょ、ジョークかな? く、熊ジョーク……」
「だと良かったんですけど、この辺りは見ての通り延々と平地で……あ、この川を上がって行けば、森があるくらいですかね」
おぉぅ……流石未開の地。村どころか、人が住んで無いときたか。
どうしよう。ヴォーロスの話では森があるらしいから、木は手に入るんだよね?
木を使って舟を作って……って、どっちに行けば人が住んで居る場所に辿り着くのっ!?
そもそも、ジャトランっていう場所が何処かも分かっていないのに、あの大きな海へ手作りの舟で人の住んで居る場所を目指すなんて自殺行為でしょ!
そんな事をするくらいなら、いっそここに住んでしまった方が良いんじゃない?
一人だったら、孤独で泣きそうになるけど、幸い喋るモフモフ熊さんが居る事だし。
「……ヴォーロスって、家族とか居るの?」
「僕ですか? いえ、僕の種族は大人になったら家族の元を離れないといけないという習わしなので、一人ですけど?」
「じゃあ、毎日ブドウを食べて良いから、一緒に住まない? というのも、私もここから家に帰る事が出来なくて、独りぼっちなのよ。だから、村を案内する代わりに、一緒に居て欲しいなーなんて」
「僕は良いですけど……というか、お返しがそんなので良いのですか!? 僕が貰ってばっかりですよ!?」
「あはは。気にしない、気にしない。こう見えて私、土の聖女って呼ばれていて、いろんな魔法が使えるし、魔力も沢山あるから」
「魔力……ですか。僕はライトニング・ベアっていう種族で、雷魔法が使えて魔力も沢山あるんですけど……これもお返しにはならなさそうですよね」
雷魔法が使える熊!?
凄い。熊さんなのに魔法が使えるんだ。それなら、日本の――異世界のリンゴを食べて知恵を得たって言っていたけど、元々賢い熊さんだったみたいね。
「……ん? ちょっと待って。ヴォーロスは雷魔法が使えるの?」
「えぇ。この爪の先から、雷を発する事が出来まして、これで川の魚を一網打尽にしたり出来ますけど……魚、お好きですか?」
「うん! あ、待って待って。今食べたいって意味じゃないの。その雷の魔法って、威力を弱くしたり出来るのかな?」
「もちろん。本気を出したら川の魚が全滅しちゃうので、ある程度威力を抑えられますよ。じゃあ、早速……」
「だから、違ーう! お魚は後でいただくとして、ヴォーロスの雷魔法で、私たちがすっごく幸せになる気がしてきたのよ。ちょっとアイディアが浮かんでね」
「はぁ……」
土の聖女である私は、土で壁を作ったり、石を生み出したりと、土に関する物を生み出す事が出来る。
土に関する物……つまり鉱物も生み出す事が出来る訳で。
もしかしたら未開の地の生活が、物凄く快適になるかもっ!
100
お気に入りに追加
4,171
あなたにおすすめの小説

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる