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第1章 神聖魔法を極めた聖女。魔法学校へ入学する
第40話 アルフレッドに教わる、完璧な休日?
しおりを挟む「パンで満足しますかねえ 」
そう言って引きつった笑いを浮かべる伊藤。中庭の捕虜達を眺めている二人の隣に黒い棍棒のような腕があった。
「やあ、無事みたいだな 」
ハワードはそう言うと一緒になって庭の捕虜達に目を降ろした。
「ここから南は大変らしいじゃないか。まあゲリラの方が強いから逃亡する共和軍の兵士も無茶はしないだろうがな 」
そう言って窓を開けたハワードが庭の捕虜達をカメラに納める。捕虜達ははじめは何が起きたのかわからないと言う顔をしていたが、それがカメラと知ると笑顔で手を振り始めた。
「あーあ。同じ遼南人としては恥ずかしいですねえ 」
「ああ、まあ遼南でも北都と央都じゃあ気質が違いますから 」
そう言って肩を叩くクリスに伊藤は死んだような目をしてつぶやいた。
「私は先祖代々央都の育ちですよ。大学に行く時に北都物理大に入っただけですから 」
そう言う言葉にクリスは笑うしかなかった。
「まあ仕方ないですね。それとハワードさん。三派の兵士が居る間は自重して下さいよ。彼らとの関係は実にデリケートなものですから 」
そう言うと捕虜から目を離して、伊藤は廊下を歩き始めた。先ほどまで目立っていた黄土色の三派の軍服を着た兵士の姿が消え、緑色の人民軍の兵士が荷物を抱えて三人の横を通り過ぎていく。
「これからが大変そうですねえ 」
伊藤はそう言うとクリス達を階下へ降りる階段へと導いた。
「伊藤中尉! 」
一階の踊り場でたむろしている女性兵士に声をかけられた伊藤。そこにはセニア達が自動販売機でコーヒーを買ってくつろいでいた。彼等の中から御子神が缶コーヒーを三つ持って近づいてくる。
「大変だそうじゃないですか、南部は 」
そう言う御子神の表情はセニアやレム達と違って悲壮感に満ちていた。
「そう言えば御子神さんも央都の出身だったね 」
コーヒーを受け取った隼はすぐさまプルタブを開けてコーヒーを飲み始めた。
「特に信念を持たない兵士の圧力に屈したんでしょうね。彼らにとっては支配者が誰であろうが変わりないですし。力の恐怖に怯える政府と密告の危険に震える政府。どっちであろうと生きていることがその恐怖に耐え忍ぶ前提条件ですから 」
そう言う御子神にクリスは驚いた。
「御子神さん。あなたも学生運動家出身と聞いていたんですけど…… 」
クリスの言葉に一瞬戸惑ったような顔をしていた御子神だが、一口コーヒーを口に含むと話し始めた。
「確かにそうですよ。いつか時代を変えられる、そう思っていましたから。でも現実はそれほど甘くないのを知るのには3年と言う時間は十分すぎますね。なんなら隣の北都山脈を越えている人民軍の部隊を取材に行ったらどうですか? 」
そう言うと引きつった笑いを浮かべる御子神。
「手段を目的と勘違いしている連中だ。何を言おうが無駄なんだよ 」
宥めるようにセニアが言った。一瞬で空気が重く滞留することになる。
「それじゃあやはり降伏した部隊は北兼の本隊に引き渡されるんですか? 」
そう尋ねたがパイロットの表情は変わらなかった。クリスは悟った。降伏した共和軍の兵士達に与えられる試練。武装解除された彼等は人民軍中央軍団に送られる。そこで脱走兵や他の降伏した部隊と一緒に遼南中央縦貫鉄道の貨車に詰め込まれる。送られる先は最前線。手榴弾を二、三個渡された彼等は督戦隊の掃射を受けながら共和軍との交戦している人民軍正規部隊の最前線に回される。地雷や共和軍の掃射を避けて立ち止まれば督戦隊の砲火に倒れ、突撃すれば共和軍の弾幕に挽肉にされる。
クリスもパイロット達も彼らの運命を変えることができない自分を恥じていた。
「なーに、しけた面してるんだよ! 」
その声の主に全員が視線を向けた。熊がいた。熊太郎、そしてシャム。
「伊藤。お前さんがしっかりしてねえと本当に降伏した連中は督戦隊の餌食になるぜ 」
熊の後ろから出てきたのは楠木だった。そのまま彼は若いパイロット達の前を通り、悠然と自動販売機でオレンジジュースを買う。
「楠木さん。そうまで言うならなにか策でもあるんですか? 」
そう言う伊藤を、プルタブを空けながらぼんやりと眺める楠木。周りの視線が彼に集まってもまるで気にする様子もなく、そのままジュースを口に含んだ。
「知らないのか? ついに遼北でクーデターだ。うちの魔女軍団の女大将の親父さんが政権を取ったぞ。情報関連の連中は大忙しだ。東和でも今はそのニュースで持ちきりだぜ 」
そう言うと残ったジュースを一気に飲み干す楠木。北兼人民共和国、周治勲首相。北兼軍の主力軍といえる女性パイロット兵士ばかりで構成された嵯峨惟基中佐の従妹周麗華大佐の『魔女軍団 』の亡命劇の立役者でもある遼北革命の闘士。教条派と呼ばれる人民党の急進勢力に押さえつけられてきた彼の決起が近いと言うことは多くの隊員も感じていた。嵯峨が北都の遼南人民軍に参加した理由も、その時期が近いと言う証明だった。
「あの人が動く。そうなれば無駄に兵士を損失する作戦はクライアントのイメージに関わることになると言う話ですか 」
伊藤は納得がいったというように頷いた。
「ねえ、魔女軍団って魔女がいるんだから魔法を使えるの? 」
まったく何もわからないと言うように首を左右に向けるシャム。そんなシャムをレムが抱きしめた。
「違うわよ。そうね、あなたももう立派な人民軍の英雄なんだから周麗華大佐も会ってくれるわよ。ねえ、クリスさん! 」
急に話題を振られたクリスは動揺した。意外にまめなところのある嵯峨である。クリスが周大佐と会話をしたことくらい伊藤を通じてここにいる全員が知っているのは明らかだった。
「まあ見た感じ気さくな人でしたね 」
「そう、それで紅茶おばさん 」
そう言ったルーラをセニアがにらみつけた。失言に思わず手を当てるルーラ。パイロット達はそれまでの重い空気を追い払う為というように笑っていた。
「そんなに楽観できるんですか? 」
ハワードの言葉に顔を上げたセニア。笑顔を消し去ると彼女はハワードを見つめた。
「遼南の弱兵は銀河の常識よ。もし自分たちのところに魔女軍団の銃の筒先が向けばどう言うことになるかと言うことをわからないほど北都の連中も馬鹿じゃないわ。しかも今度は支援元の遼北さえ地球との関係を不味くする人権問題を起こしかねないと踏めば人民軍の人事刷新を名目に中央山脈越えで攻めてくるかもしれないとなれば勝手に兵士を使い捨てるわけには行かないわね 」
ハワードは頭を掻きながらセニアの言葉に聞き入っていた。
そのままパイロット達の雑談が続く。さすがにクリスとハワードにはいづらい雰囲気になった。
「ホプキンスさんとバスさん。こっちに 」
そう言って気を利かせる楠木。クリスとハワードはそのまま司令部の外へと招きだされた。ついてくるのは会話についていけないシャムと熊太郎。そのまま楠木は司令部の前に止められていた装甲車両のドアを開いた。そこにくくりつけられた空き缶の灰皿を確認すると、タバコを取り出した。
「楠木大尉も吸うんですか? 」
そう言ったクリスに苦笑いを浮かべる楠木。
「まあね、隊長みたいなチェーンスモーカーじゃないけど、作戦が終わった時とかはコイツで気分転換をするのが習慣でね 」
楠木はゆっくりと使い捨てライターを取り出してタバコをつける。
「どうですか? 踏ん切りはつきましたか? 」
クリスはその質問に戸惑った。
「間違っていたなら訂正してください。あなたはここに取材をしに来たわけじゃない。あることに、しかも個人的なことに決着をつけるために来た。そうじゃないですか? 」
楠木の言葉にクリスは金縛りにあったように感じた。
「どう言う意味ですか? 」
興味深そうにクリスの顔を覗き込んでくるハワードの顔を見ながらクリスは額ににじみ出る汗を拭った。
「言ったとおりの意味ですよ。あなたの記事はこれまでなんども読ませていただきましたよ。だがその流れ、その意図するところ、言おうとしている思想みたいなものが今回のうちの取材とはどうしても繋がらなかった。それが気になって、俺なりにあなたを見ていたんですよ 」
タバコの煙がゆっくりと楠木の口から空へ上がる。クリスは逃げ道が無いことを悟った。
「確かにそう思われても仕方ないかも知れませんね。どちらかと言えば特だねを物にすることがメインの仕事にはもう飽きていましたから。東海の花山院軍の虐殺の取材を始めた頃は、地球人以外は悪である。そう言う記事を書いて喜んでいた、だけど何かが違うと思い始めた…… 」
そこまで言ったところでハワードの視線がきつくなっているのを見つけた。クリスはそれでも言葉を続けた。
「悪というものが存在して、それを公衆の面前に暴き立てるのがジャーナリストの務めだと思っていました。どこに行ってもいかに敵が残忍な作戦を展開していて自分達がそれを正す正義の使者だと本気で信じている馬鹿に出会う。それが10人も出会えばあきらめのようなものが生まれてくる 」
そんなクリスの言葉をタバコを口にくわえながら楠木は表情も変えずに聞いていた。その隣のシャムと熊太郎もじっと言葉をつむぐクリスを眺めていた。
「それは違うよ! 」
突然のシャムの言葉にクリスは戸惑った。
「正義とか悪とか、アタシにはよくわからないけど守りたいものがあるから戦う。アタシが知っている戦いはそれだけ。もし、それが無いのに戦うなら、それが悪なんだよ 」
熊太郎を撫でながら言ったシャムの言葉。楠木はそれを目をつぶって聞くと口からタバコの煙を吐いた。
「結構いいこと言うじゃないか、シャム。ただ大人になるといろいろ事情があるんだよ。まあ、ホプキンスさんは結論を出したということで。俺達はこの戦いに結論をつけねえとな 」
そう言うと楠木は手を上げた。彼の視線の先で三派の基地へと帰還しようとするシンの指揮下のアサルト・モジュールが目に入った。
「あいつ等も自分のいるべき場所に戻るわけか 」
再びタバコをふかす楠木。クリスはシャムを眺めていた。
そう言って引きつった笑いを浮かべる伊藤。中庭の捕虜達を眺めている二人の隣に黒い棍棒のような腕があった。
「やあ、無事みたいだな 」
ハワードはそう言うと一緒になって庭の捕虜達に目を降ろした。
「ここから南は大変らしいじゃないか。まあゲリラの方が強いから逃亡する共和軍の兵士も無茶はしないだろうがな 」
そう言って窓を開けたハワードが庭の捕虜達をカメラに納める。捕虜達ははじめは何が起きたのかわからないと言う顔をしていたが、それがカメラと知ると笑顔で手を振り始めた。
「あーあ。同じ遼南人としては恥ずかしいですねえ 」
「ああ、まあ遼南でも北都と央都じゃあ気質が違いますから 」
そう言って肩を叩くクリスに伊藤は死んだような目をしてつぶやいた。
「私は先祖代々央都の育ちですよ。大学に行く時に北都物理大に入っただけですから 」
そう言う言葉にクリスは笑うしかなかった。
「まあ仕方ないですね。それとハワードさん。三派の兵士が居る間は自重して下さいよ。彼らとの関係は実にデリケートなものですから 」
そう言うと捕虜から目を離して、伊藤は廊下を歩き始めた。先ほどまで目立っていた黄土色の三派の軍服を着た兵士の姿が消え、緑色の人民軍の兵士が荷物を抱えて三人の横を通り過ぎていく。
「これからが大変そうですねえ 」
伊藤はそう言うとクリス達を階下へ降りる階段へと導いた。
「伊藤中尉! 」
一階の踊り場でたむろしている女性兵士に声をかけられた伊藤。そこにはセニア達が自動販売機でコーヒーを買ってくつろいでいた。彼等の中から御子神が缶コーヒーを三つ持って近づいてくる。
「大変だそうじゃないですか、南部は 」
そう言う御子神の表情はセニアやレム達と違って悲壮感に満ちていた。
「そう言えば御子神さんも央都の出身だったね 」
コーヒーを受け取った隼はすぐさまプルタブを開けてコーヒーを飲み始めた。
「特に信念を持たない兵士の圧力に屈したんでしょうね。彼らにとっては支配者が誰であろうが変わりないですし。力の恐怖に怯える政府と密告の危険に震える政府。どっちであろうと生きていることがその恐怖に耐え忍ぶ前提条件ですから 」
そう言う御子神にクリスは驚いた。
「御子神さん。あなたも学生運動家出身と聞いていたんですけど…… 」
クリスの言葉に一瞬戸惑ったような顔をしていた御子神だが、一口コーヒーを口に含むと話し始めた。
「確かにそうですよ。いつか時代を変えられる、そう思っていましたから。でも現実はそれほど甘くないのを知るのには3年と言う時間は十分すぎますね。なんなら隣の北都山脈を越えている人民軍の部隊を取材に行ったらどうですか? 」
そう言うと引きつった笑いを浮かべる御子神。
「手段を目的と勘違いしている連中だ。何を言おうが無駄なんだよ 」
宥めるようにセニアが言った。一瞬で空気が重く滞留することになる。
「それじゃあやはり降伏した部隊は北兼の本隊に引き渡されるんですか? 」
そう尋ねたがパイロットの表情は変わらなかった。クリスは悟った。降伏した共和軍の兵士達に与えられる試練。武装解除された彼等は人民軍中央軍団に送られる。そこで脱走兵や他の降伏した部隊と一緒に遼南中央縦貫鉄道の貨車に詰め込まれる。送られる先は最前線。手榴弾を二、三個渡された彼等は督戦隊の掃射を受けながら共和軍との交戦している人民軍正規部隊の最前線に回される。地雷や共和軍の掃射を避けて立ち止まれば督戦隊の砲火に倒れ、突撃すれば共和軍の弾幕に挽肉にされる。
クリスもパイロット達も彼らの運命を変えることができない自分を恥じていた。
「なーに、しけた面してるんだよ! 」
その声の主に全員が視線を向けた。熊がいた。熊太郎、そしてシャム。
「伊藤。お前さんがしっかりしてねえと本当に降伏した連中は督戦隊の餌食になるぜ 」
熊の後ろから出てきたのは楠木だった。そのまま彼は若いパイロット達の前を通り、悠然と自動販売機でオレンジジュースを買う。
「楠木さん。そうまで言うならなにか策でもあるんですか? 」
そう言う伊藤を、プルタブを空けながらぼんやりと眺める楠木。周りの視線が彼に集まってもまるで気にする様子もなく、そのままジュースを口に含んだ。
「知らないのか? ついに遼北でクーデターだ。うちの魔女軍団の女大将の親父さんが政権を取ったぞ。情報関連の連中は大忙しだ。東和でも今はそのニュースで持ちきりだぜ 」
そう言うと残ったジュースを一気に飲み干す楠木。北兼人民共和国、周治勲首相。北兼軍の主力軍といえる女性パイロット兵士ばかりで構成された嵯峨惟基中佐の従妹周麗華大佐の『魔女軍団 』の亡命劇の立役者でもある遼北革命の闘士。教条派と呼ばれる人民党の急進勢力に押さえつけられてきた彼の決起が近いと言うことは多くの隊員も感じていた。嵯峨が北都の遼南人民軍に参加した理由も、その時期が近いと言う証明だった。
「あの人が動く。そうなれば無駄に兵士を損失する作戦はクライアントのイメージに関わることになると言う話ですか 」
伊藤は納得がいったというように頷いた。
「ねえ、魔女軍団って魔女がいるんだから魔法を使えるの? 」
まったく何もわからないと言うように首を左右に向けるシャム。そんなシャムをレムが抱きしめた。
「違うわよ。そうね、あなたももう立派な人民軍の英雄なんだから周麗華大佐も会ってくれるわよ。ねえ、クリスさん! 」
急に話題を振られたクリスは動揺した。意外にまめなところのある嵯峨である。クリスが周大佐と会話をしたことくらい伊藤を通じてここにいる全員が知っているのは明らかだった。
「まあ見た感じ気さくな人でしたね 」
「そう、それで紅茶おばさん 」
そう言ったルーラをセニアがにらみつけた。失言に思わず手を当てるルーラ。パイロット達はそれまでの重い空気を追い払う為というように笑っていた。
「そんなに楽観できるんですか? 」
ハワードの言葉に顔を上げたセニア。笑顔を消し去ると彼女はハワードを見つめた。
「遼南の弱兵は銀河の常識よ。もし自分たちのところに魔女軍団の銃の筒先が向けばどう言うことになるかと言うことをわからないほど北都の連中も馬鹿じゃないわ。しかも今度は支援元の遼北さえ地球との関係を不味くする人権問題を起こしかねないと踏めば人民軍の人事刷新を名目に中央山脈越えで攻めてくるかもしれないとなれば勝手に兵士を使い捨てるわけには行かないわね 」
ハワードは頭を掻きながらセニアの言葉に聞き入っていた。
そのままパイロット達の雑談が続く。さすがにクリスとハワードにはいづらい雰囲気になった。
「ホプキンスさんとバスさん。こっちに 」
そう言って気を利かせる楠木。クリスとハワードはそのまま司令部の外へと招きだされた。ついてくるのは会話についていけないシャムと熊太郎。そのまま楠木は司令部の前に止められていた装甲車両のドアを開いた。そこにくくりつけられた空き缶の灰皿を確認すると、タバコを取り出した。
「楠木大尉も吸うんですか? 」
そう言ったクリスに苦笑いを浮かべる楠木。
「まあね、隊長みたいなチェーンスモーカーじゃないけど、作戦が終わった時とかはコイツで気分転換をするのが習慣でね 」
楠木はゆっくりと使い捨てライターを取り出してタバコをつける。
「どうですか? 踏ん切りはつきましたか? 」
クリスはその質問に戸惑った。
「間違っていたなら訂正してください。あなたはここに取材をしに来たわけじゃない。あることに、しかも個人的なことに決着をつけるために来た。そうじゃないですか? 」
楠木の言葉にクリスは金縛りにあったように感じた。
「どう言う意味ですか? 」
興味深そうにクリスの顔を覗き込んでくるハワードの顔を見ながらクリスは額ににじみ出る汗を拭った。
「言ったとおりの意味ですよ。あなたの記事はこれまでなんども読ませていただきましたよ。だがその流れ、その意図するところ、言おうとしている思想みたいなものが今回のうちの取材とはどうしても繋がらなかった。それが気になって、俺なりにあなたを見ていたんですよ 」
タバコの煙がゆっくりと楠木の口から空へ上がる。クリスは逃げ道が無いことを悟った。
「確かにそう思われても仕方ないかも知れませんね。どちらかと言えば特だねを物にすることがメインの仕事にはもう飽きていましたから。東海の花山院軍の虐殺の取材を始めた頃は、地球人以外は悪である。そう言う記事を書いて喜んでいた、だけど何かが違うと思い始めた…… 」
そこまで言ったところでハワードの視線がきつくなっているのを見つけた。クリスはそれでも言葉を続けた。
「悪というものが存在して、それを公衆の面前に暴き立てるのがジャーナリストの務めだと思っていました。どこに行ってもいかに敵が残忍な作戦を展開していて自分達がそれを正す正義の使者だと本気で信じている馬鹿に出会う。それが10人も出会えばあきらめのようなものが生まれてくる 」
そんなクリスの言葉をタバコを口にくわえながら楠木は表情も変えずに聞いていた。その隣のシャムと熊太郎もじっと言葉をつむぐクリスを眺めていた。
「それは違うよ! 」
突然のシャムの言葉にクリスは戸惑った。
「正義とか悪とか、アタシにはよくわからないけど守りたいものがあるから戦う。アタシが知っている戦いはそれだけ。もし、それが無いのに戦うなら、それが悪なんだよ 」
熊太郎を撫でながら言ったシャムの言葉。楠木はそれを目をつぶって聞くと口からタバコの煙を吐いた。
「結構いいこと言うじゃないか、シャム。ただ大人になるといろいろ事情があるんだよ。まあ、ホプキンスさんは結論を出したということで。俺達はこの戦いに結論をつけねえとな 」
そう言うと楠木は手を上げた。彼の視線の先で三派の基地へと帰還しようとするシンの指揮下のアサルト・モジュールが目に入った。
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再びタバコをふかす楠木。クリスはシャムを眺めていた。
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