料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人

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第37話 緊急移動手段

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「とりあえず、クララたちは一旦王宮へ戻ろうか」
「その言い方だと……アルフレッドは来てくれないのか?」
「いや、もちろん一緒に行くぞ。クララたち三人を王宮へ連れて行く。その後、俺は国境を見て来るよ」

 一先ず、三人を連れて王宮へ戻ろうとして、

「む? アルよ。まさか歩いて戻る気なのか?」

 肩に乗った姉さんに止められる。
 その言葉の意味を少し考え、

「え? ……あ! なるほど。こういう事か!」

 近くにあった手頃な木を蹴り倒す。

「よし! みんな、この木に乗って一気に滑り降り……痛い痛い痛い! 姉さん!? 甘噛みでじゃれるにしては痛いよ」
「じゃれている訳ではないわ! まったく。そんな危険な乗り物で滑り降りる事が出来るのは、アルと我くらいであろう。普通の人間族の少女三人を、そのような物に乗せようとするでない」
「あれ? 違ったのか? てっきり俺は、こういう事かと思ったんだが」
「違う。まったく……我が授けた力の使い方を思い出してみるのだ。こういう時にうってつけな力があるであろう」

 ん? こういう時……皆で何処かへ移動するっていう話だよな?
 かつ姉さんの力を使えっていう事だから……こういう事かっ!

「フレイアっ! 来てくれ!」
「えっ!? あ、あぁ……ちょ、アルフレッド! 抱きしめてくれるのは嬉しいが、皆の前でなくとも……」

 フレイアがよく分からない事を言っているが、一旦スルーして抱きかかえると、

「次はソフィア!」
「は、はいっ! 私もよろしいのですか? えっと、フレイアさんと一緒に抱きかかえられるというのは、一体どういうプレ……げふんげふん」

 続いてソフィアを抱きかかえる。
 そして、

「最後にクララ。フレイアとソフィアでクララをしっかり抱きかかえて……痛い痛い痛い! 姉さん、これも違うのか?」
「違うわっ! その状態でアルが走って山を越える気だったのであろう。アルに抱きかかえられている二人はともかく、途中で三人目の女性が振り落とされるのが目に見えているわっ!」
「そうか。なら、クララとソフィアを抱きかかえて、一番体力のありそうなフレイアには俺の背中に捕まってもらうというのが正解か」
「はぁ……アルよ。時間も勿体ないし、答えを言おう。今の我の姿を見てみよ。これが答えだ」

 子虎の姿の姉さんが溜息を吐き、答えだと言ってくる。
 どういう事だ? 俺は子供の姿になったりする事なんて出来ないぞ?

「あの……私だけ、アルフレッド様に抱きしめていただいていないのですが」

 クララの声が聞こえて来たけど……一旦これは無視しよう。
 子虎姿の姉さんが俺の上に乗って……あ、もしかして、こっちか!?

「つまり、姉さんは俺に白虎の姿に変化しろって言っているんだな?」
「そういう事だ。それなら、三人がその背に乗れって移動出来るであろう」
「あのさ……俺、白虎の姿に変身なんて出来ないんだけど」
「あれ? ……教えていなかったか?」
「教えていなかったか……って、俺は全部姉さんから見よう見真似で覚えただけで、教わった事って殆ど無いんだけど」

 強いて言うなら、この山を出る直前の格言みたいな事くらいだろうか。
 だから俺は、基本である身体強化した状態で、相手を殴るっていう近接戦闘しか出来ないんだけど。

「えーっと……じゃあ、さっきの案で行くか。一番体力があるのは、この者だと言っておったな。……アルの背中から落ちないように頑張ってくれ」

 こうして俺の右腕にクララ、左腕にソフィアを抱きかかえ、背中にフレイアがしがみつき、肩に姉さんが乗った状態で山をダッシュで駆け降りる。

「……」
「アルフレッドさぁぁぁーんっ! クララさんが気絶していますぅぅぅっ!」
「あぁぁぁぁっ! アル……アルフレッドぉぉぉっ! 腕がっ、腕がもげるぅぅぅっ!」

 姉さんの判断で、途中で休憩しない方が良いだろうと、ノンストップでラスカフリャの村まで到着した。
 ……何故かクララだけでなく、ソフィアまで気を失っていて、

「わ、私も気を失って居たかったぞ。落ちずにしがみ付いていた私を褒めて欲しい」

 フレイアが涙目になっていたが。
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