料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人

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第3話 人前で白虎の力は使わない事

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「あれが、この世界の人間の村か」

 今まで姉さんと住んで居た山を下り、違う山を二つ程越えた所でようやく村を見つけた。
 姉さんにもらった白虎の力で脚力を強化したからすぐに来られたけど、普通に来ようとおもったら、数日掛かる距離だな。

「昨日の姉さんの話では、人前で白虎の力は使うな……だったな。この辺りからは、普通に歩くか」

『姉さんの教えその一――人間族の前で白虎の力を使うべからず。
 白虎の力は、人間族が使うスキルでも魔法でもない為、見られると未知の力として恐れられてしまう。
 アルが人間族から恐れられず、普通に暮らしていきたいのであれば、白虎の力は誰も居ない場所でしか使わないようにする事』

 昨日、思い出話をした後に、姉さんから厳しく言いつけられた事だ。
 おそらく、俺が眠った後も耳元で言い続けていたんだろう。睡眠学習……かどうかは分からないが、姉さんの教えがその一から始まり、延々と頭の中に残っている。
 しかし、白虎の力での身体強化を解除すると、荷物が重いんだな。
 姉さんが予め用意してくれていた着替えと、換金用の魔物の素材くらいしか入っていないはずなのに。
 そんな事を考えながら、重いズタ袋を背負って町に向かっていると、

「きゃあぁぁぁっ!」

 女性の悲鳴が聞こえて来た。
 周囲を見渡すと……馬車がドラゴンに襲われているっ!?
 姉さんには、人前で力を使うなって言われたけど、流石にこれを無視する方がダメだろ!
 白虎の力で身体能力を強化し、一気に馬車まで走って行く。
 ドラゴンとは戦った事がないけど、地面に降りている今なら拳が届くから……

「おらぁぁぁっ!」

 白虎の力を足と拳に集め、猛ダッシュからの右ストレート!
 殴ったのは大きな身体だけど、その巨体が吹き飛んで行き、ゴロゴロと草むらを転がり、岩にぶつかって止まる。
 その巨体を追いかけ、追撃を放とうとして……あれ? 動かないぞ?
 まさか、たった一撃で!? いや、これなら姉さんの山に居た巨大な熊とかの方が強いんだが。
 しかも、その身体が弱く光ったかと思うと、

「えっ!? 消えた!?」

 その姿が掻き消え、代わりに拳大の緑色の綺麗な石が落ちていた。
 うーん。姉さんの山で魔物を倒しても消えたりしなかったし、普通に肉を調理してたべていたんだけど、ドラゴンは特殊なのか?
 とりあえず綺麗な石を拾って、馬車の所へ戻ると、女の子がドラゴンにやられたであろう男たちに手をかざして居た。

「ヒール!」
「おぉっ! これが噂の魔法なのか」
「あっ! 貴方は……もしかして、ドラゴンを倒してくださった方ですか!?」

 おぉぉ、金髪の……女子高生くらいの女の子だ!
 どうしよう。姉ちゃん以外の人と話すのは初めてだし、日本でも女の子となんて、殆ど話した事が無いんだけど。

「え、えっと、はい……そう、です」
「あ、ありがとうございますっ! 護衛の方々も怪我はされていますが、誰も命を落とさずに済みました。怪我なら私の治癒魔法で治せますし、本当に感謝いたします」
「い、いえ。大したことはしていないので。えっと、とりあえず護衛は、もう少し強い人を選んだ方が良いんじゃないかな」
「……え? 皆さん、A級ランクの冒険者さんたちなんですけど……」

 女の子が小声で何か呟いて……しまった。何て言っているか聞こえなかったけど、もしかして俺、余計な事を言った!?
 そういえば俺は、日本でも弟たちから一言多いって言われる事があったよな。
 あぁぁ……この世界で初めて出会った人間なのに、嫌われてしまうっ!
 何か、話題を変えるんだっ!

「あ、そうだ。その……さっきのドラゴンが消えて、代わりにこんなのが落ちていたんだけど」
「こ、これは……こんなに大きな魔石が使われていたなんて。やはりかなり強力な召喚魔法が……あ、あの。貴方様は、どうやってあのドラゴンを倒されたのですか?」

 あ、しまった!
 ドラゴンの話を振ったら、あきらかに女の子の表情が曇った。
 俺が白虎の力でドラゴンを倒したから、恐れられているんだ。
 やっぱり姉さんの教えは正しい。白虎の力は、人前で使っちゃいけないんだ!

「あ、えっと、用事を思い出した! 倒れている人たちは大丈夫っていう事だし、じゃあ俺はこれで」
「えっ!? 待ってください! お礼を……」

 せっかくこの世界の人間と知り合いになれそうだったけど、怯えた目で見られたりするのは嫌なので、大慌てで逃げる事になってしまった。
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