料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人

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第2話 異世界での生活

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「姉さん。晩ご飯出来たよー!」
「おぉ、今日もアルの作った食事は旨そうだな。これは、何という料理だったかな?」
「オムライスだよ。それより、冷めない内に食べてね」

 アルフレッドという、異世界の子供に転生した日。
 狼に襲われていた俺は、白虎という大きな獣に助けられ……そのまま、約十年が過ぎた。
 というのも、飲まず食わずで歩き続け、狼から逃げる為に僅かな力を振り絞った俺は、死に掛けていたらしい。
 それを見かねた白虎が、俺に力を分けて助けてくれたそうで、『我の力の何割かを体内に持って居るのだから、いわば弟も同然。我の事を姉と呼ぶように!』と、育ててくれたんだ。

「ふふっ、やはりアルの料理は旨いな。もっと沢山食べたかったぞ」
「ん? いつもと同じ量だけど、足りない? コカトリスの卵も肉もまだあるし、作ろうか?」
「いや、そういう事ではないのだ。アルと一緒に暮らす為に変身している、この人間の姿では十分な量だ。そうではなくて……明日の朝になったら、アルにはこの山を下りてもらおうと思ってな」
「えっ!? ど、どうして!? 家事や食事には自信があるし、姉さんの力は全て使いこなせていないけど、その辺の魔物くらいなら倒せるようになったよ!?」

 俺自身には戦う力なんて全くないけど、姉さんに分けて貰った白虎の力を使えば、それなりに戦える。
 時折現れる魔物を倒したり、コカトリスの巣から巨大な卵を持ち帰るくらい訳はないのに。

「アル。お前は十年間、よくやってくれた。特にアルの作る料理は本当に美味しくて、このまま我の弟として一生傍に居て欲しいくらいだ」
「だったら……」
「だが、お前は人間族だ。永い寿命を持つ我にとっては、十年など一瞬の事だが、アルにとっての十年間はとても永いはずだ。だからアルよ……この山を下り、人間族の社会で暮らすのだ。今なら、まだ間に合う。だが、これ以上ここに居ては、人間族の社会に戻る事が出来なくなってしまうだろう」

 そう言って、姉さんがこの世界の人間の事を教えてくれた。
 いわゆる剣と魔法の世界で、王族や貴族が居たり、冒険者ギルドや魔法学院があったりするらしい。
 そう言われると、元日本人で、ずっとこの山で暮らしてきた俺にとっては、この世界の常識がなさ過ぎる。

「分かったか? 我の力で調べると、お前は明日で十六歳。人間族として、成人と扱われる年齢になるから、我が助けなくとも生きていく事が出来るだろう」
「姉さん……」
「とりあえず、冒険者ギルドへ行き、冒険者になるのが良いであろう。冒険者は、身元不明でも就ける仕事らしいからな」

 最近、時々姉さんが留守にする事があったのだが、どうやらこの女性の姿で、人間の仕事について調べに行ってくれていたらしい。
 ここまでしてくれたのだから、恩を仇で返す事の無いように、山を下り、街で暮らすべきなのだろう。

「……わかった。じゃあ、明日の朝に山を下りる。だけど、今晩くらいは……」
「あぁ、最後の夜だ。我と一緒に寝ようじゃないか」

 食事の後片付けをして、川で身体を洗い、寝床へ。
 十年間の感謝の気持ちを伝えると共に、思い出話に花を咲かせる。

「ふふっ、こうしていると、アルに出会った頃の事を思い出すな。あの頃は、日が沈むと怯えだし、我から離れなかったからな」
「いや、だってあれは、まだ魔物の事とかがよく分かっていなかったから……」
「あの時、余りにもアルが怯えるから、こうして人の姿になってやったのだぞ?」

 うぅ。前世の記憶を持って転生しているから、見た目は子供でも、中身は違ったのに……一生の不覚だ。
 それから、恩を返したいと言って料理を始めた話や、初めての狩の話といった話をしたり、この世界の人間社会で暮らしていく上で、守らなければならない話などを教えてもらい……いつの間に眠ってしまったのか、気付けば朝になっていた。
 最後の食事という事で、ベーコンエッグを作って、纏めた荷物を背負う。

「じゃあ、姉さん! 行ってくるよ! 今まで本当にありがとうっ!」
「うぅ……その、何だ。本当にどうしようもなくなったら、戻って来ても良いのだからな? 我は、ずっとこの山に居るのだから」
「わかった。姉さん、ありがとうっ!」

 異世界へ転生して十年間過ごした山を、初めて下り……俺は小さな村、ラスカフリャへ辿り着いた。
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