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第1話 ハードモードな異世界転生

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 気付いたら、見知らぬ山の中に居た。
 おかしい。ついさっきまで、弟たちの好きなオムライスを作ってやろうと、少し遠くのスーパーへ特売の卵を買いに行ったはずなのに、何一つ荷物を持っていないし、財布やスマホすらない。

「あっ! もしかして薬か何かで眠らされ、財布とかを奪われた上に、山へ捨てられたとか? ……いや、仮にそうだとしても、あからさまに金を持ってい無さそうな俺を狙うか?」

 我が家は早くに母親を亡くし、父親と男だらけの五人兄弟という家庭だ。
 長男の俺は、母に代わって家事全般を任されている為、自分の事なんて後回しで、父親に渡される毎月の生活費を全て弟たち優先で使っている。
 なので、着ているTシャツはヨレヨレだし、バイトで必要だからと、仕方なしに買ったスマホだって何世代も前の安いやつ……って、ちょっと待った!
 俺の身体……小さいんだけど! 手や足の大きさが一番下の弟と同じくらいじゃないか?

「これはまさか、異世界転生ってやつなのか!? ……だとしても、この状況は酷くないか?」

 おそらく五歳くらいの年齢で、山の中腹で独りぼっち。持ち物も薄汚い服だけで、何処へ行けばよいかも分からない……いや、ハードモードが過ぎるだろ。
 自分の事を調べてみて、とりあえず分かった事は、服に書いてあったアルフレッドというのが、俺の名前っぽいという事だけだ。
 おそらく、親に捨てられた子供に転生したのだろうが……いきなり殺されてたまるかっ!

「確か、山で遭難したら上に登れって言っているのをテレビで見た気がする。とりあえず登ってみるか」

 日本での遭難時の対応方法が異世界に通じるかは分からないが、草をかき分け、小さな足で道なき道を頑張って登っていると、

――GRURURURU……

 横から動物の唸り声のような低い音が聞こえてきた。
 嫌な予感がしながらも顔を横に向けてみると、少し離れた場所にどう見ても俺より大きな狼がいる。
 あ、これは絶対にヤバい!
 本能で察して全力で逃げたけど、当然五歳児の身体で逃げ切れる訳もなく、狼の足音がすぐ後ろまで近付いて来た。
 やられるっ! そう思った所で前から違う何かが現れ……狼が逃げて行く!?
 一瞬助かったのかとも思ったが、狼よりもヤバい奴に遭遇したのではないかと、恐る恐る見上げてみると、

「――っ!?」

 さっきの狼よりも、更に大きな白い虎が居た。
 これ、俺の身体を丸飲み出来るサイズなんだが。
 既に全力で逃げた後で、もう脚に力が入らないものの、何とか力を振り絞って逃げようと思った所で、

「ふむ。神託に従って来てみれば……この人間族の子供を助けろという事なのか? 確かに、普通の人間族とは違うようだが……」

 白い虎から、流暢な日本語が聞こえてきた。

「しゃ……喋った!?」
「ん? 人間族の言葉くらいは話せるぞ。それより、小僧。名は何というのだ?」
「え? 田中……じゃなくて、アルフレッドです」
「アルフレッド。我が名は白虎だ。我について来るならば、水と食べ物、そして安全な寝床を提供してやろう。どうする?」
「い、行きます! ついて行きます!」

 白い虎が喋る理由なんてどうでも良い。
 見知らぬ地で、生きる為に必要な住と食を提供してくれると言っているんだ。
 迷う事なく返事をすると、

「ふふ……良い返事だ。ついて来るが良い。我の棲家に案内してやろう」

 そう言って、白い虎――白虎が音も無く歩いて行く。
 置いて行かれないようにと、その後ろをついて行こうとして……脚がもつれて倒れる。
 どうやら既に体力が底を尽いていたようで、せっかく生きるチャンスだったのに、意識が遠のいていく。

「むっ!? これは……まったく。人間族の身体は脆いな。仕方が無い。我の力を少し分けてやろう」

 薄れゆく意識の中で、先程の白虎の声が何かを言っているのは聞こえていたが、その言葉の意味を理解する事は出来ず……そのまま意識を失ってしまった。
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