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第9章 ドワーフ婚姻試練

第280話 不可解な行動

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「親が幼い子供を放って放浪なんてしないだろ。仮に居たとしても、少数であって、多くの親がそんな事をする訳ない!」
「いえいえ。ですが、それがこの国の現実なんです。どうでしょう。私と一緒に最高の国を作りませんか? 可愛い幼女を愛で放題ですよ?」

 ロリコン魔族が敵意のない事を示すかのように、穏やかな表情で両手を広げる。
 きっとコイツの頭の中は、大量の幼女で埋め尽くされているのだろう。
 だがな。俺はロリコンでは無い!
 子供を作る方の行為には興味があるものの、それを幼女生産工場などと表現する奴と手が組めるかっ!

「お断りだなっ! 幼女は何をしても許され、暖かい目で見守る? 違うっ! 子供には親の愛情が必要なんだっ! 親が愛情をたっぷり注ぐ事によって、ユーリヤのように可愛く素直に育つんだっ!」

『ヘンリーさん。途中までは良かったのに、どうしてそこでユーリヤちゃんにスリスリするんですか?』
(決まっているだろ! あのロリコン魔族に見せつけるためだっ!)
『そ、そうですか……』

 アオイが若干引いているのはさて置いて、ロリコン魔族が小さく溜息を吐き、

「では、こちらの提案は受け入れないという事ですね」
「当然だっ!」
「そうですか。それはとても残念です」

 突然ロリコン魔族が俺から距離を置くかの様に、高く飛ぶ。

「逃げるのか?」
「……兄たん、大変。街に魔物の大群が入ってきてる」
「この為の時間稼ぎだったのか!? 姑息な真似をっ!」

 大通りの両側から、雪崩の様に魔物が流れ込んでくる。
 纏めて吹き飛ばしたい所だが、

(アオイ。街を壊さず、魔物だけを倒す魔法で頼む)
『分かりましたっ! 今度こそ任せてくださいっ!』
(参考までに、どんな魔法を使うつもりなんだ?)
『巨大な炎で、一気に燃やし尽くします。こんな魔物群れなんて楽勝ですよ』
(いやそれ、家まで燃えるんじゃないのか?)
『多少の犠牲は仕方ありません! それにらこれだけ大量の魔物が居るんです。どのみち、家の二つや三つ壊れますって』
(最悪家は壊れても良いけど、中に居る人まで燃えるだろっ! 氷だ! 氷の魔法でいこう)

 暴走気味のアオイを止めて、氷の魔法を放つ。

「アブソリュート・ゼロ」

 俺が手を向けた方向に向かって、ゆっくりと街が白色に変わっていく……って、やっぱり家の壁まで凍ってるじゃないか。
 とりあえず炎を止めさせて良かったと考えていると、その様子を見た魔物たちが、わらわらと後ろへ逃げて行く。
 ……って、逃げるのかよ! どうも魔物の動きが変なんだよな。

(アオイ。遅い攻撃だと、魔物が逃げる。反対方向から来ている魔物には、広範囲に攻撃出来なくても良いから、速い魔法で頼む)

 アオイから教えて貰った魔法を使うと、

「ソニック・ブーム」

 突風が巻き起こり、魔物たちと、通りに面する家を吹き飛ばして行く。

(だ、か、ら、周りの家に被害を出すなって言っただろっ!)
『言ってませんよっ! 広範囲じゃなくても良いから速い魔法って言いましたよっ!』
(その前に前提条件で言っただろっ!)

 とりあえず、突風を放った側の通りは、猪型やオオカミ型といった、重心が低い魔物以外はあらかた吹き飛ばした。
 ……家も飛んだけど。
 一先ずこっち側に残った魔物が突っ込んで来ているので、返り討ちにしようとした所で、

「ダメっ! マリアッ! 戻ってきてっ!」

 半壊した家から、幼い子供がフラフラと飛びだしてきた。
 その後ろから、母親と思われる女性が駆け寄り、幼女を抱きしめる。

「マズいっ! テレポ……」

 瞬間移動が誰かに見られるとか、そんな事を言っている場合では無く、突進してくる魔物たちから母子を助けようとした所で、ピタッと魔物たちが止まった。
 そのまま母子を避けるようにして、ゆっくりと慎重に横を通ると、再び俺たちに突撃してくる。

「今のは……なんだ!?」

 余りにも不可解な行動だったので、思わずテレポートの魔法を中断して、魔物たちの動きを観察していると、

「にーに! うえっ!」

 不意にユーリヤから警告の声が届く。
 見上げてみれば、空から――ロリコン魔族から黒い剣の雨が降り、俺たちに……というより、俺たちと母子の間に居た魔物たちへ黒い剣が次々と刺さり、息絶えて塵となる。
 ……魔法のコントロールを誤ったのか?
 一応、俺たちにも剣が降ってきたが、アオイの防御魔法によって防いだ事と、明らかに俺たちよりも魔物に降った剣の方が多い。
 一瞬、ロリコン魔族のミスかと思ったのだが、母子や周囲の建物には、アオイの魔法と違って一切被害が出て居ないので、違うと思われる。
 そこでふと、ずっと引っ掛かっていた、ある嫌な可能性について、ユーリヤに尋ねてみると、

「ユーリヤ。さっき居た魔物って変だと思わないか? 死んだ途端に死体が残らず塵になってしまうんだが」
「にーに。あれ、まものじゃない。にんげんだよ……もともとは」

 あの魔物たちが、元々は人間だという答えが返ってきた。
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