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第9章 ドワーフ婚姻試練
第266話 幼女保護
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街の通りに誰も居ないという事は、その辺でテレポートを使っても誰にも見られないし、これはこれで好都合かも。
一瞬だけそう思ったが、建物の中に沢山人の気配ががある。
そこかしこから視線も感じるし、おそらく何らかの理由で家の中に居なければならない人たちが、俺たちの事を見ているのだろう。
これじゃあ、テレポートを使えないじゃないか。
最悪、夜中まで待てば良いけれど、そろそろ家に帰りたいというのが本音だ。
「にーに。どうかしたのー?」
「ん? んー、いや、ちょっと考え事をな」
良く考えたら、俺一人ならどうにでもなるが、可愛いユーリヤがお腹を空かせるのは避けたい。
うむ。ユーリヤのためにも、とっとと帰ろう。
食事の事とかを抜きにしても、この街はまともな状態ではないのは明らかだし、どこか視線を感じない場所を探そう。
そう思った直後、街の反対側から砂埃を巻きあげながら、何かが向かって来るのが見えた。
「……あれは、なんだ?」
まだはっきりとは見えないが、馬車……を鉄の板などで補強したもの――戦車と呼ばれる物のように思える。
実物は初めて見るので定かではないが、確か歴史の教科書に載っていた気がする。
――戦車とは、古代の国々で発案され、正式に採用されていた戦闘用馬車である。
荷台を鉄板などで補強し、物理攻撃に対する防御力を高めている。
ただし、一方で魔法攻撃に対する防御力は低く、また突進力はあるものの小回りがきかないという問題もあるため、現代では騎兵に代わっている――
そうそう。確か、大昔に使われていたって書いてあったよな……って、この国では現役で使われているのか!?
まさか……だがしかし、徐々に近づいてくるにつれて、戦車のイメージ通りの姿が目に映る。
ある意味、古代遺産だよな。
そんな事を考えていると、
「ちょっと、何してんのっ!? 早く隠れてっ!」
「え? 誰だ?」
突然どこかから声が聞こえるが、周囲を見渡しても姿が見えない。
気配を探ると、背後に誰かが居るみたいだが……
「もぉーっ! こっちよ、こっち! 早く入って!」
民家の壁――腰くらいまでの高さしかない、小さな隠し扉みたいな所から出て来た人影に手を引かれ、ユーリヤと共に家屋の中へ。
害意は無いので問題ないと判断したが、改めて声の主を見てみると、ルミやラウラくらいの……十歳くらいの幼女だった。
「えっと、ここは?」
「私の家よ。それより、帝国軍が来てんのに、どうして隠れなかったの!?」
「帝国軍? あの、砂埃を上げながら近づいていた奴らの事か?」
「そうよ……って、ちょっと静かにして。もうすぐ、近くを通りそうだから」
幼女に言われるがままに、静かにしていると、家の外から「ヒャッハー!」という声が聞こえ、そして遠ざかって行った。
「……行ったみたいね。もう大丈夫よ」
「……えっと、あいつらは一体何なんだ? すまない。実は、今日この街へ着いたばかりで、よく知らないんだ」
「え? 他の街から来たの!? どうやって!?」
「いや、普通に来ただけだが。街の入口に居た兵士も、普通に通してくれたぞ?」
「ま、街を出られるの!? 教えて! 他の街と、この街……どっちがマシ!?」
「待った。とりあえず落ち着いてくれ。さっきも言ったが、この街の事、この国の事を良く知らないんだよ」
「え!? まさか、他の街じゃなくて、他の国から来たの!?」
幼女の問いに頷くと、目を白黒させて驚きながらも、何が起こっているのかを説明してくれた。
曰く、一月程前から国内で紛争が発生し、一週間に三回、帝国軍が若い男性を探しに来ては、無理矢理兵士にしてしまう。
幼女はもっと幼い頃に母を亡くしており、唯一の肉親である父親も帝国軍に連れて行かれ、先日戦死したという知らせを受けた。
なので、この街から離れ、別の街に逃げたいと考えている……と。
「だが、いいのか? この家は、その……お父さんと暮らした思い出があったりするんじゃないのか?」
「そんなの無い。父さんが亡くなったって連絡と同時に、不要だろうからって家を没収されて、この小さなボロ家に無理矢理住まわされたから」
「……それは、酷過ぎないか?」
「もう、いいの。逆に未練も無くなったし。ねぇ、おにーちゃんは他の国から来たんでしょ? 連れて行ってよ」
幼女の話を聞いてしまったので、助けてあげたいという気持ちもある。
だが、家を没収されたと言っても、まだ家自体は残っているはずだから、力づくで取り戻して……いや、ダメか。
そんな事をしても、後々理不尽過ぎる報復をされかねない。
本人が望むように、この街というか、国から亡命させてあげるべきだろうか。
「まぁ出来なくはないんだが……」
「ホントっ!? お願い、連れて行って! 家事でも何でもするし、何ならエッチな事でもするから!」
「あのな……子供がそういう事を言うなって。ただな、連れて行っても良いけど、その方法は絶対に喋っちゃいけないのと、もうこの国には戻れなくなる。それでも良いか?」
「もちろん! 絶対に喋らないし、戻れなくても良いわ!」
「わかった。じゃあ、連れて行ってやるから、絶対に持って行きたい物を集めておいで」
「……おにーちゃん、ありがとっ!」
それから暫くして、幼女が小さな箱を持って戻ってきた。
一応確認はしたが、家を追い出された時に大半の物を失っており、これが全てらしい。
「じゃあ、行くか。……テレポート」
……屋敷にまた一人、幼女が増えてしまった。
一瞬だけそう思ったが、建物の中に沢山人の気配ががある。
そこかしこから視線も感じるし、おそらく何らかの理由で家の中に居なければならない人たちが、俺たちの事を見ているのだろう。
これじゃあ、テレポートを使えないじゃないか。
最悪、夜中まで待てば良いけれど、そろそろ家に帰りたいというのが本音だ。
「にーに。どうかしたのー?」
「ん? んー、いや、ちょっと考え事をな」
良く考えたら、俺一人ならどうにでもなるが、可愛いユーリヤがお腹を空かせるのは避けたい。
うむ。ユーリヤのためにも、とっとと帰ろう。
食事の事とかを抜きにしても、この街はまともな状態ではないのは明らかだし、どこか視線を感じない場所を探そう。
そう思った直後、街の反対側から砂埃を巻きあげながら、何かが向かって来るのが見えた。
「……あれは、なんだ?」
まだはっきりとは見えないが、馬車……を鉄の板などで補強したもの――戦車と呼ばれる物のように思える。
実物は初めて見るので定かではないが、確か歴史の教科書に載っていた気がする。
――戦車とは、古代の国々で発案され、正式に採用されていた戦闘用馬車である。
荷台を鉄板などで補強し、物理攻撃に対する防御力を高めている。
ただし、一方で魔法攻撃に対する防御力は低く、また突進力はあるものの小回りがきかないという問題もあるため、現代では騎兵に代わっている――
そうそう。確か、大昔に使われていたって書いてあったよな……って、この国では現役で使われているのか!?
まさか……だがしかし、徐々に近づいてくるにつれて、戦車のイメージ通りの姿が目に映る。
ある意味、古代遺産だよな。
そんな事を考えていると、
「ちょっと、何してんのっ!? 早く隠れてっ!」
「え? 誰だ?」
突然どこかから声が聞こえるが、周囲を見渡しても姿が見えない。
気配を探ると、背後に誰かが居るみたいだが……
「もぉーっ! こっちよ、こっち! 早く入って!」
民家の壁――腰くらいまでの高さしかない、小さな隠し扉みたいな所から出て来た人影に手を引かれ、ユーリヤと共に家屋の中へ。
害意は無いので問題ないと判断したが、改めて声の主を見てみると、ルミやラウラくらいの……十歳くらいの幼女だった。
「えっと、ここは?」
「私の家よ。それより、帝国軍が来てんのに、どうして隠れなかったの!?」
「帝国軍? あの、砂埃を上げながら近づいていた奴らの事か?」
「そうよ……って、ちょっと静かにして。もうすぐ、近くを通りそうだから」
幼女に言われるがままに、静かにしていると、家の外から「ヒャッハー!」という声が聞こえ、そして遠ざかって行った。
「……行ったみたいね。もう大丈夫よ」
「……えっと、あいつらは一体何なんだ? すまない。実は、今日この街へ着いたばかりで、よく知らないんだ」
「え? 他の街から来たの!? どうやって!?」
「いや、普通に来ただけだが。街の入口に居た兵士も、普通に通してくれたぞ?」
「ま、街を出られるの!? 教えて! 他の街と、この街……どっちがマシ!?」
「待った。とりあえず落ち着いてくれ。さっきも言ったが、この街の事、この国の事を良く知らないんだよ」
「え!? まさか、他の街じゃなくて、他の国から来たの!?」
幼女の問いに頷くと、目を白黒させて驚きながらも、何が起こっているのかを説明してくれた。
曰く、一月程前から国内で紛争が発生し、一週間に三回、帝国軍が若い男性を探しに来ては、無理矢理兵士にしてしまう。
幼女はもっと幼い頃に母を亡くしており、唯一の肉親である父親も帝国軍に連れて行かれ、先日戦死したという知らせを受けた。
なので、この街から離れ、別の街に逃げたいと考えている……と。
「だが、いいのか? この家は、その……お父さんと暮らした思い出があったりするんじゃないのか?」
「そんなの無い。父さんが亡くなったって連絡と同時に、不要だろうからって家を没収されて、この小さなボロ家に無理矢理住まわされたから」
「……それは、酷過ぎないか?」
「もう、いいの。逆に未練も無くなったし。ねぇ、おにーちゃんは他の国から来たんでしょ? 連れて行ってよ」
幼女の話を聞いてしまったので、助けてあげたいという気持ちもある。
だが、家を没収されたと言っても、まだ家自体は残っているはずだから、力づくで取り戻して……いや、ダメか。
そんな事をしても、後々理不尽過ぎる報復をされかねない。
本人が望むように、この街というか、国から亡命させてあげるべきだろうか。
「まぁ出来なくはないんだが……」
「ホントっ!? お願い、連れて行って! 家事でも何でもするし、何ならエッチな事でもするから!」
「あのな……子供がそういう事を言うなって。ただな、連れて行っても良いけど、その方法は絶対に喋っちゃいけないのと、もうこの国には戻れなくなる。それでも良いか?」
「もちろん! 絶対に喋らないし、戻れなくても良いわ!」
「わかった。じゃあ、連れて行ってやるから、絶対に持って行きたい物を集めておいで」
「……おにーちゃん、ありがとっ!」
それから暫くして、幼女が小さな箱を持って戻ってきた。
一応確認はしたが、家を追い出された時に大半の物を失っており、これが全てらしい。
「じゃあ、行くか。……テレポート」
……屋敷にまた一人、幼女が増えてしまった。
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