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第9章 ドワーフ婚姻試練

第262話 酒の味

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「火酒とは、火を近づけると燃やてしまうくらいに、アルコール分が多い蒸留酒の事です」
「へぇー」
「そうなんですねー」

 店主が火酒の事について話をしてくれているのだが、俺もメリッサも、もちろんユーリヤも酒を飲まないので、特にこれと言って感想が出て来ない。
 そのため、店主が若干しょんぼりしている。
 ……少しだけでも酒の事が分かるパメラを連れてくるべきだったか?

「で、その火酒の最上級品を探しているんだが、どこへ行けば入手出来るだ? 実はかなり急いでいるんだ」
「普段ですと、産地であるハザーラー帝国から毎週売りに来るんですが、ここ最近は何故か売りに来ないんです」
「ハザーラー帝国っていうと、ヴァロン王国の更に東か」
「えぇ、そうです。火酒の産地でしたら、この辺りでは間違いなくハザーラー帝国ですね。発祥の地となると、いくつか説がありますが……」
「あ、いや。発祥の地は別にどうでも……あ、いや。せっかくだから話してくれ」

 ここまで火酒について説明してくれていた店主が、あまりにも寂しそうな表情を浮かべたので、とりあえず喋らせてあげる事にした。
 店主が悦に浸りながら喋っている間に、暇なのでユーリヤを抱っこからおんぶに変えてみたり、同じく暇そうにしているメリッサを意味もなくお姫様抱っこしてみたり……あ、店主が止まったから、話は終わりかな?

「で、美味い火酒を探しているのだが、ハザーラー帝国のどこへ行けば最高級の火酒が手に入るんだ?」
「……あの、私の話を聞いておられましたか?」
「うん、聞いてた聞いてた。で、どこに行けば手に入る?」
「……レーヴェリーの街です」
「分かった。ありがとう。あと、そうだな……前に買った酒をまた箱で購入させてもらおう」
「……ど、どうも」

 情報料として、以前パメラ用に買った酒を再び購入したのだが、何故か店主が微妙な顔をしている。
 ……もしかして、火酒の発祥の地の話をしている時に、レーヴェリーの街の事を話していたとか?
 まぁ、そういう事もあるよな。

「店主。とりあえず、そのレーヴェリーの街へ行くとして、どの火酒が高級品なんだ?」
「それはちょっと難しいですね。年によって出来も違いますし。直接買い付けに行くのでしたら、その場で試飲して、美味いかどうか確認するのが一番良いとは思いますが」
「なるほど。分かった。確認方法については検討するよ。助かったよ」

 酒屋の店主に礼を言い、店を出てから酒の入った木箱を空間収納に放り込むと、テレポートで屋敷へ。
 店主の話が思っていたよりも長かったが、大丈夫だろうか。

「すまん、遅くなった」

 抱きかかえていたメリッサを床に降ろし、皆で話をしていた時の席へ戻ると、

「貴方、おかえりなさい」
「ヘンリー殿。おかえり」

 早速両脇から、おっぱいホールド――もとい、がっちりと両腕に抱きつかれる。
 その心地良さに一瞬我を忘れそうになるものの、プリシラの冷たい視線に射抜かれ、職務を思い出す。

「メリッサのおかげで目的地が分かった。これより、ハザーラー帝国のレーヴェリーの街へ向かう」

 先ずは次の予定を皆に告げたのだが、

「ヘンリー殿。ハザーラー帝国は、流石に厳しいと思うのだが」
「その通りなのです。ヘンリー隊長、今この近辺の国々で、最も危険な国なのです」
「隊長さん。ボクもハザーラー帝国には、良い話を聞かないよー?」

 ヴィクトリーヌ、プリシラ、ニーナと立て続けに危険だという言葉が出てきた。
 三人共騎士だし、やはり国際情勢に詳しいのだろう。
 それどころか、

「ヘンリー君。いくら美味しいお酒が飲めると言っても、先生は危険を冒してまで飲まなくても良いと思うわよ?」
「そうだぞ、ヘンリー。ハザーラー帝国と言えば、今現在紛争が起こっており、国内で何が起こっているか情報が得られない国だ。別の手段を考えた方が良いのではないか?」

 まさかのパメラと父さんにまでダメだと言われてしまった。
 まぁパメラは腐っても魔法学校の教師だけど、幼女にしか興味が無いと思われた父さんまで言うくらいだから、余程の事なのだろう。
 ……もしかしたら、酒屋の店主も言ってくれていたのかもしれないな。全く聞いていなかったけど。

「しかし、世界はもっと危険な魔族が沢山いる訳だし、早く武器を得たい。という訳で、危険だというのであれば、俺一人で行こう。それなら問題ないだろ」
「にーに。ユーリヤもー!」

 俺の宣言にすぐさまユーリヤが反応したかと思うと、

「貴方が行くなら私も行くに決まっているじゃない」
「し、師匠が行くのであれば、自分も行くッス!」
「ヘンリー殿が行くのならば、当然我も行こう」

 アタランテとドロシーも反応し、ヴィクトリーヌも……って、さっき危険だって言わなかったか?

「あの、ヘンリー隊長。残念ながら、そもそもハザーラー帝国と我が国は、軍事協定を結んで居ないはずなのです。行きたくても行けないと思うのです」
「あー、まぁそれはそれとして、何とでもなるというか何と言うか……」

 真面目なプリシラを連れて行くと怒られそうだが、ぶっちゃけ国境なんて有って無いようなものだからな。
 ……空から行けば。

「協定の話は一旦置いておくとして、パメラ……ハザーラー帝国へ一緒に行って、火酒の味を見て欲しいんだが」
「そんなの無理よっ! 一応、私は魔法学校から派遣されている身だから、他国へ行ったら怒られるわよっ!」
「そうか。しかし困ったな。酒の味が判る者の同行が必須なんだが」

 どうしたものかと考えていると、

「貴方。こういう時こそ私を頼りなさいよねっ! じ、実は私、今まで黙っていたけど、お酒の味が判るのよっ!」

 アタランテが何故か俺と目を合わせようとせずに、名乗り出た。
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