255 / 343
第8章 ヴァロン王国遠征
第254話 脱出
しおりを挟む
「ただいま。待たせたな」
「ヘンリー隊長。何をしていらっしゃるのです? クレアは良いのです?」
「プリシラ、違うッス。きっと師匠は、クレアにも特訓をしてあげているッス。拘束され、身動きが取れない状況で精神的に責められ、溶岩の熱で……」
プリシラもドロシーも何を言っているのだろうか。
プリシラはともかくとして、ドロシーに至っては喋っている内容すら理解出来ないのだが。
「何か誤解しているみたいだけど、サラマンダーなら元の状態に戻してきたぞ」
「流石に、ヘンリー隊長の足が早いと言っても、その冗談は笑えないのです。ここからだと、まだかなりの距離が残っているのです」
「いや、本当なんだよ。だよな、ラウラ」
小脇に抱えたままのラウラに目をやると、
「……ん、確認した」
面倒臭そうにはしているが、一先ず同意してくれた。
「という訳だ。今すぐクレアの所へ戻るぞ」
小首を傾げるプリシラを促し、相変わらずユーリヤを背中におぶさり、ラウラを小脇に抱えたままで走りだす。
猛ダッシュでドワーフたちが居た場所へ戻ると、
「おいっ! 今すぐ七番炉の調整を頼むっ!」
「マズイぞっ! 五番炉に亀裂が入ったらしい!」
「待て待て! それより、固まりかけていた溶岩を何とかするのが先だっ! 排出が間にあわねぇぞっ!」
ドワーフたちが右へ左へと大慌てで走り回っている。
「これは……どういう状況なんだ?」
「……聞こえてくる話から推測すると、兄たんが火の精霊力を強くし過ぎた」
「え……それって、結構マズイのか?」
「……炉が壊れたら、とてつもなくマズイ。けど、壊れなかったら性能向上に繋がる」
「じゃあ、ちょっとだけ火の精霊を弱めに行って来ようか」
「……ううん。今更変な事しない方が良い。調整したのが、またやり直しになる」
「つまり、現状のまま何とか乗り切ってもらうしかないのか」
一先ず、慌ただしいドワーフたちの邪魔にならないようにしつつ、クレアが居そうな場所をラウラに教えてもらい、
「クレア!」
「ヘンリー様っ! ……もう解決してくださったんですか?」
「あぁ。全速力で行ってきたぞ」
「ありがとうございます。……もう少し、私の事を考える時間が長くても……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえ。何にも言ってませんよ?」
無事にクレアと再会した。
といっても、牢屋などに入れられている訳でもなく、鍵すらかかって居ない家に居た訳だが。
とりあえず、クレアを無事に救出した訳なのだが、今度はドワーフに聖銀を鍛えてもらわなければ。
「ラウラ。この騒動は、どれくらい待てば収まりそうか分かるか?」
「……んー、良くも悪くも、明日の朝には収まるはず」
「ん? 良くも悪くもっていうのは、どういう意味だ?」
「……明日の朝には、炉が持ちこたえて調整が済むか、炉が壊れているかの、どっちか」
「そ、そうか。じゃあ、一先ず明日に改めて来るか」
そう言うと、プリシラとヴィクトリーヌが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
まぁそうなるよな。
「ラウラ。確か、ドワーフ専用の地上へ一瞬に出られる装置があるんだよな」
「……? 兄たん、何言ってんの?」
「ほら、さっきサラマンダーが居た所で教えてくれたじゃないか。一瞬で、あっという間に遠くへテレポート出来る装置があるって」
「……あー、そういう話ね。うん、ある」
ラウラが俺の言いたい事を察してくれたようで、話を合わせてくれた。
というか、実際そういう出入り口とか、装置とかが必要だと思うんだよね。
でないと、不便過ぎる。
「じゃあ、一旦街へ戻って明日訪れようか。勝手に姿を消すのはマズイと思うんだけど、誰に話を通しておけば良い?」
「……誰でも良いと思うけど、誰も話を聞いてくれないと思う」
「あー、この状況だもんな。じゃあ、手紙を置いておくか」
小さな荷物袋から取り出す振りをしながら、空間収納魔法で便箋とペンを手にすると、火の精霊力を強めた事とクレアを連れて行く事。それから、明日の朝に再び訪れる事をしたためた。
「じゃあ、クレアが居た場所にこの手紙を置いておけば良いかな」
「……待って。ラウラちゃんからも一言添えておく」
「あぁ、そうだな。俺がラウラを振り切って逃げたと思われても困るし、ラウラからもメッセージを記しておいて貰えると助かる」
「……ん、書いた」
「ありがとう。じゃあ、皆一旦戻ろうか」
小脇に抱えたラウラに教えてもらい、適当な人気の無い場所へと案内してもらうと、
「……ワープ・ドア」
小声でこっそり魔法を使い、地上へ繋がる扉を作る。
全員で地上へ戻ると、既に陽が落ちかけて……って、かなりの時間を土の中で過ごしていたんだな。
「……凄い。あっと言う間に地上……これが、外の世界……」
初めて見る外の世界に感動しながらも、やっぱり歩こうとはしないラウラを連れて街へと戻ると、簡易の小屋では無く、ちゃんとした宿でぐっすり休む事にした。
「ヘンリー隊長。何をしていらっしゃるのです? クレアは良いのです?」
「プリシラ、違うッス。きっと師匠は、クレアにも特訓をしてあげているッス。拘束され、身動きが取れない状況で精神的に責められ、溶岩の熱で……」
プリシラもドロシーも何を言っているのだろうか。
プリシラはともかくとして、ドロシーに至っては喋っている内容すら理解出来ないのだが。
「何か誤解しているみたいだけど、サラマンダーなら元の状態に戻してきたぞ」
「流石に、ヘンリー隊長の足が早いと言っても、その冗談は笑えないのです。ここからだと、まだかなりの距離が残っているのです」
「いや、本当なんだよ。だよな、ラウラ」
小脇に抱えたままのラウラに目をやると、
「……ん、確認した」
面倒臭そうにはしているが、一先ず同意してくれた。
「という訳だ。今すぐクレアの所へ戻るぞ」
小首を傾げるプリシラを促し、相変わらずユーリヤを背中におぶさり、ラウラを小脇に抱えたままで走りだす。
猛ダッシュでドワーフたちが居た場所へ戻ると、
「おいっ! 今すぐ七番炉の調整を頼むっ!」
「マズイぞっ! 五番炉に亀裂が入ったらしい!」
「待て待て! それより、固まりかけていた溶岩を何とかするのが先だっ! 排出が間にあわねぇぞっ!」
ドワーフたちが右へ左へと大慌てで走り回っている。
「これは……どういう状況なんだ?」
「……聞こえてくる話から推測すると、兄たんが火の精霊力を強くし過ぎた」
「え……それって、結構マズイのか?」
「……炉が壊れたら、とてつもなくマズイ。けど、壊れなかったら性能向上に繋がる」
「じゃあ、ちょっとだけ火の精霊を弱めに行って来ようか」
「……ううん。今更変な事しない方が良い。調整したのが、またやり直しになる」
「つまり、現状のまま何とか乗り切ってもらうしかないのか」
一先ず、慌ただしいドワーフたちの邪魔にならないようにしつつ、クレアが居そうな場所をラウラに教えてもらい、
「クレア!」
「ヘンリー様っ! ……もう解決してくださったんですか?」
「あぁ。全速力で行ってきたぞ」
「ありがとうございます。……もう少し、私の事を考える時間が長くても……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえ。何にも言ってませんよ?」
無事にクレアと再会した。
といっても、牢屋などに入れられている訳でもなく、鍵すらかかって居ない家に居た訳だが。
とりあえず、クレアを無事に救出した訳なのだが、今度はドワーフに聖銀を鍛えてもらわなければ。
「ラウラ。この騒動は、どれくらい待てば収まりそうか分かるか?」
「……んー、良くも悪くも、明日の朝には収まるはず」
「ん? 良くも悪くもっていうのは、どういう意味だ?」
「……明日の朝には、炉が持ちこたえて調整が済むか、炉が壊れているかの、どっちか」
「そ、そうか。じゃあ、一先ず明日に改めて来るか」
そう言うと、プリシラとヴィクトリーヌが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
まぁそうなるよな。
「ラウラ。確か、ドワーフ専用の地上へ一瞬に出られる装置があるんだよな」
「……? 兄たん、何言ってんの?」
「ほら、さっきサラマンダーが居た所で教えてくれたじゃないか。一瞬で、あっという間に遠くへテレポート出来る装置があるって」
「……あー、そういう話ね。うん、ある」
ラウラが俺の言いたい事を察してくれたようで、話を合わせてくれた。
というか、実際そういう出入り口とか、装置とかが必要だと思うんだよね。
でないと、不便過ぎる。
「じゃあ、一旦街へ戻って明日訪れようか。勝手に姿を消すのはマズイと思うんだけど、誰に話を通しておけば良い?」
「……誰でも良いと思うけど、誰も話を聞いてくれないと思う」
「あー、この状況だもんな。じゃあ、手紙を置いておくか」
小さな荷物袋から取り出す振りをしながら、空間収納魔法で便箋とペンを手にすると、火の精霊力を強めた事とクレアを連れて行く事。それから、明日の朝に再び訪れる事をしたためた。
「じゃあ、クレアが居た場所にこの手紙を置いておけば良いかな」
「……待って。ラウラちゃんからも一言添えておく」
「あぁ、そうだな。俺がラウラを振り切って逃げたと思われても困るし、ラウラからもメッセージを記しておいて貰えると助かる」
「……ん、書いた」
「ありがとう。じゃあ、皆一旦戻ろうか」
小脇に抱えたラウラに教えてもらい、適当な人気の無い場所へと案内してもらうと、
「……ワープ・ドア」
小声でこっそり魔法を使い、地上へ繋がる扉を作る。
全員で地上へ戻ると、既に陽が落ちかけて……って、かなりの時間を土の中で過ごしていたんだな。
「……凄い。あっと言う間に地上……これが、外の世界……」
初めて見る外の世界に感動しながらも、やっぱり歩こうとはしないラウラを連れて街へと戻ると、簡易の小屋では無く、ちゃんとした宿でぐっすり休む事にした。
0
お気に入りに追加
1,338
あなたにおすすめの小説
無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです
やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」
ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。
あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。
元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……
更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。
追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に!
「――わたし、あなたに運命を感じました!」
ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません
※他サイトでも投稿しています
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる