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第8章 ヴァロン王国遠征

第248話 ねっとりじっとり

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「さて、しっかり休憩もとったし、行くか。ニーナ、起きてくれ。ニーナ」
「うぅ……隊長さん、あと五分……」
「あの、ヘンリー隊長。ニーナさんを起こす振りをしながら、太ももを触るのはダメなのです」

 くっ……まさか、俺の完璧な作戦が見破られるとはっ!
 プリシラ……出来るっ!

『あの、あからさま過ぎるというか、寝ぼけているニーナさんとユーリヤさんを除けば、全員気付いていますからね?』
(え!? マジで!?)

 アオイに指摘されて周囲を見てみると、クレアが何か言いたげな目で、ヴィクトリーヌは怯えたような目で俺を見ている。
 唯一ドロシーだけが、いつもと変わらぬ感じで……いや、何かに悶えている?

「今、暑いからと言って服を脱げば、ねっとりじっとりと見てもらえるッス。でも服を脱ぐと、あの暑さ攻めが少し弱まってしまう……あぁ、どうすれば良いッス!?」

 よく分からない事を言っているので、とりあえず放っておこう。
 あと、目を覚ましたニーナのお願いにより、ヴィクトリーヌに見えないように、こっそり空間収納から一番短いスカートを取り出す。
 すると、ニーナが更にギリギリまで短くしてスカートを履いてしまった。
 ……下着姿で良かったのに。
 まぁでも、あの格好でドワーフたちの前に出て、ニーナの下着姿が見られるのは嫌な気がするから、これで良しとするか。

「よし。じゃあ、今度こそ出発だ!」

 具現化魔法で作りだしていた家を土に戻し、再び溶岩の階層へ向かう。
 徐々に暑くなってきたので、そろそろクレアをおんぶしようかと思い、しゃがみ込むと、

「クレア。じゃあ、俺の背中に……」
「コンフォータブル・フィールド」

 同じタイミングで、プリシラが聞き慣れない魔法を使う。

「お? 何だか、少し涼しくなったか?」
「はい。先程は疲労で集中力と魔力を欠いていましたが、休憩をいただいたので、私を中心に一定範囲の暑さを和らげる魔法を使えるようになったのです」
「なるほど。これなら全員普通に進めるな。ありがとう、プリシラ」

 プリシラのおかげでニーナとヴィクトリーヌの表情が穏やかになったし、これならクレアも自分で歩けるだろう。

「良かったな、クレア。これなら耐熱魔法も使わなくて済むんじゃないか?」
「……そうですねー」

 暑さとか関係無しに、おんぶをねだるユーリヤを背中に背負い、俺も歩き始め……って、若干クレアが不機嫌になっていないか?
 何か変な事したっけ?
 不思議に思いながらも、左右の溶岩に気を付けながら先へと進む。
 だが、

「えぇー。ここまで来て行き止まりだと!?」

 左右だけでなく、前方も溶岩に囲まれて先に進む事が出来ない。

「そ、そうだ。ヘンリー殿は先程土の魔法で家を作ったではないか。あの魔法で橋を作ってみては?」
「なるほど。よし、ヴィクトリーヌの案で行ってみよう」

 具現化魔法を使ってアーチ状に足場を作り、かなり離れた対岸? に橋を架けた。
 ……この魔法を使えば、一悶着あった国境も楽勝で超えられるのでは?
 いや、それをすると大問題になりかねないし、そもそも俺が一人で空を飛んで行き、ワープドアを使う方が目立たないし、遥かに早いな。
 一瞬、何かに使えるのでは!? と思ったけれど、一旦忘れて再び歩みを進めて行くと、プリシラの魔法で暑さが和らいでいるはずなのに、ニーナとヴィクトリーヌがぐったりし始めた。

(アオイ。さっきのプリシラの魔法って、使えるか?)
『使えますけど、それよりもっと適した魔法をしっていますけど』
(え? そうなのか? だったら、もっと早く教えてくれよ)
『だって、聞かれなかったですし』
(いや、この状況を見れば分かるだろ。というか、分かってくれよ)

「ホワイト・ブレス」

 アオイに教えてもらった魔法を使うと、暑さが和らぎ、涼しく……というか、むしろ寒くなってしまった。

「おぉ! ヘンリー殿は凄いな。この溶岩地帯で、こんなに快適な温度で過ごせるとは」
「隊長さーん。暑くないのは嬉しいけど、ちょーっと温度を下げ過ぎだよー!」
「か、身体の芯まで冷える様な寒さッス。ハッ! こ、これはこれで、先程までとはまた違った攻めッス! 今なら、脱げば見てもらえて、おまけに寒さがキツくなって、一石二鳥ッス!」

 喜ばれたり、不満が出たり、何故か一人服を脱ごうとしたりと、快適な温度がバラバラなので、かなり困る。
 とりあえず、プリシラに怒られ、服を脱ぐのを止めてしまったドロシーが先頭を進み、

「師匠! 何か居るッス! しかも大量に」

 何かを見つけたらしく、大きな声を上げる。

「あれは……赤いトカゲか? 何だか凄い数だけど」
「にーに。あれ、さらまんだー」
「サラマンダー? サラマンダーって、火の精霊の?」
「うん。ここ、ひのちからがつよいから、いごこちがよくて、あつまっているのかもー」
「でも、サラマンダー……というか、精霊って赤い光じゃないの? あんなにハッキリと形が見えるの?」
「ひのちからがつよいから、それだけつよく、ぐげんかしてるんじゃないかなー?」

 ユーリヤの言葉がいまいちピンと来ないのだが、ユーリヤの言う事だし、きっと正しいのだろう。
 流石は火山と言うべきか、トカゲの形をした大量のサラマンダーが、少し先の溶岩の池のような場所に、ウジャウジャ居た。
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