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第8章 ヴァロン王国遠征

第237話 久々の野営

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「うわ……本当にアツアツのパスタを収納してしまったのです」
「うん。空間収納の中は時間も停止しているから、冷めないし、腐らないよ」
「その魔法は凄過ぎるのです。反則なのです。羨ましいのです」
「けど、教える事は出来ないからね?」

 プリシラが空間収納魔法を羨ましいと言い出したので、早めに釘を刺しておく。
 ルミみたいになったら、面倒だからね。

「それより、他に欲しい物は無いか? 買うなら今の内だけど」
「……あ、あの。師匠、そういう事なら、自分も良いッスか?」
「もちろん。ドロシーは何が食べたいんだ?」
「いえ、食べ物ではなくて、その……着替えを買いたいッス」
「ん? 忘れて来たのか?」
「違うッス。今回は他国への遠征で、しかも少人数で輸送部隊も無いという話だったので、極限まで荷物を減らしたッス。けど、余裕があるのであれば、やっぱり着替えは増やしたいッス」

 詳しく話を聞いてみると、通常騎士団が遠征する際は、荷物を運ぶ馬車が同行するそうだ。
 だが今回は基本的に急ぎの旅――とはいえ、近隣の村の為にモンスターの巣は潰したが――なので、速度の遅い馬車は居ない。
 そのため、ドロシーもプリシラも、服や下着類を最低限しか持って来ておらず、毎晩洗濯していたそうだ。
 で、生乾きとかだったら、諦めて捨て、新しいのを買って……などと、無駄な出費があるのと、荷物を増やしても良いなら、諦めていたけど本当は持って行きたい物が色々とあるらしい。

「じゃあ、とりあえず必要な物は購入しよう。費用は全て俺が持つから、欲しい物を見かけたら声を掛けてくれ」
「流石師匠ッス! 格好良いッス!」
「ちょっとドロシー! ……ヘンリー隊長。費用を全て持つって、大丈夫なのです? 妹さんを除いても四人も居ますし、自分たちで出すのです」

 喜ぶドロシーと対象的に、プリシラが心配そうに俺を見つめてくる。

「プリシラ。知らないかもしれないから言っておくけど、ヘンリー様は領主様なんだよ?」
「えぇっ!? ヘンリー様が領主って……貴族って事なのです!?」
「クレアの言う通り、とある村の領主ではあるけれど、俺は貴族ではないよ。しかし、村の事業も軌道に乗り始めているし、必要な物資を購入するくらいは問題無いから気にするな」

 村レベルで言うと、学校を作ろうとしているので、資金はあればある程良い。
 だけど、だからと言って、遠征費用をケチるのは違うと思う。
 自分の家から離れて長時間の移動を行い、ただでさえストレスが溜まる遠征だ。
 せめて必要物資くらいは十分に宛ててあげるべきだと思うし、個人レベルでの出費くらいなら、何の問題もないはずだ。
 ……ぶっちゃけ資金関係はエリザベスに任せているけれど、大丈夫だろう。……多分。

 それからドロシーとプリシラの衣類に予備の装備、それとユーリヤのお菓子を購入して村を発つ。
 ついでに、ドロシーとプリシラの馬に積まれていた大きな荷物も、空間収納に格納しておいた。
 若干、馬が走る速度が上がったものの、国境に到着するまでには至らず、陽が落ちてきて、いよいよ野営となる。

「ヘンリー隊長。そちらの平地がオススメなのです。視界を遮る物がないので見通しが良く、魔物の奇襲を受け難いと思うのです」
「プリシラのオススメなら問題ないだろう。じゃあ、今日はここで野営にしよう」
「了解なのです。では、手分けして野営の準備に入るのですが、まず火を灯す為の燃やす物を……」
「マテリアライズ!」

 久々の野営となるが、具現化魔法で早速小屋を作っていく。
 人数も多いので、少し広めのスペースを確保して土の壁を作り、床や屋根を生み出す。
 女性が多いので、もちろんお風呂も忘れずに作り……こんな所か。

「よし、完成だ。全員、中に入ってくれ。その後で、入口を閉じて魔物が入って来ないようにするから」
「……何て言うか、もう師匠は何でもありッスね」
「……隊長さんって、こんな事まで出来たんだねー。これはボクも知らなかったよー」

 ドロシーとニーナが呆れた様子で小屋の中へ入って行き、プリシラとクレアは口を開けたまま何も言わない。
 これは具現化魔法であって、時空魔法では無いのだから、そんなに驚く事でも無いと思うんだけど。
 とりあえず、固まって動かない二人を無理矢理小屋の中へ押し込み、入口を閉じる。
 それから、光の精霊魔法を照明にして、村で買っておいた夕食を空間収納から取り出し、作っておいた机に並べると、

「ヘンリー隊長は、非常識にも程があると思うのです。風避けどころか、完全な家なのです! 温かいご飯が出て来たのです! お風呂があるのです! ……野営じゃないのですっ!」
「召喚魔法、精霊魔法、時空魔法……この家も精霊魔法なのかしら。最低でも三種類の魔法が使えるなんて……流石ヘンリー様!」

 食事を終えたプリシラに、見張りが不要である事を伝えると、

「お、おぉぉぉ、お布団がぁぁぁっ! お布団があるのですーっ!」

 各自の部屋に置いた、空間収納から取り出した布団が、大変気に入ったようだ。
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