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第7章 マックート村の新領主

第210話 夜の魔法使い

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「えっと、俺の評判は置いといて、この村の領主だっていう事は分かってもらえた?」
「うーん……この村の領主が変わったと言う話が、ギルドから通達されていないので何とも言えないですね。それに、貴方自身がヘンリー=フォーサイスの本人だという事も確認が取れませんし」

 ナタリーに名乗ったにも関わらず、相変わらず険しい表情が続く。
 領主が変わった事は確認してもらえば済む話だが、俺が俺である事の証明って、どうすりゃ良いんだ?
 領主になった事を母さんに話した時もなかなか信じて貰えなかったけど、俺が俺である事は分かってくれているのに、あれだけ面倒だったというのに。

「まぁでも、貴方がヘンリー=フォーサイス本人だというのは、その言動から何となく分かる気がします。初対面の私の胸を思いっきり揉みしだくなんて、普通の人は絶対にしませんし」
「それについては申し訳ない……って、そうだ。ナタリーはこの村に暫く住んで居るんだよな。だったら、あの大きな館に俺と一緒に行って、領主らしい扱いをされていたら、信じてくれるか?」
「なるほど。それで構いません。あの屋敷で働いていらっしゃる、ワンダさんは私も顔見知りですし、あの方なら信頼出来ます」
「よし、じゃあそれで決まりだな」
「えぇ。ですが、少しだけ待ってください。先ず、王都にある冒険者ギルドに、この村の領主が変わったのか確認します」
「わかった。ギルドが知らないというのなら、王宮に問い合わせてくれ。王様から直々に任命書を賜っているし、第三王女フローレンス様から、この村を任されて居るからさ」

 ナタリーに確認先を伝えると、小声で何かを呟きだす。
 おそらく、メッセージ魔法を使っているのだろう。
 しかし、勝手な俺のイメージだけど、獣人族って魔法が使えるんだな。

『種族によりますね。目の前に居られる彼女――兎耳族は、種族固有の独自魔法が使える、魔力の高い種族ですよ』
(そうなんだ。ちなみにその独自魔法って?)
『私も直接見た事はないのですが、月の力を用いる魔法だと聞いた事があります。ですから、おそらく夜に力を発揮するのではないかと』
(なるほどねー。ん、待てよ。確かウサギって、物凄く性欲が強い動物だって聞いた事があるんだけど……そのウサギの力を持つ兎耳族が夜の魔法を得意とするっ!? な、なんだってー!)
『どうして、何でもかんでもエッチな方向に考えるんですかっ! 私が言ったのは月の魔法で、夜の魔法だなんて言ってませんっ!』

 何故かアオイに怒られたけど、兎耳が生えていて、ピンクっぽい色の髪の毛で、胸が大きくて……改めて見てみると、ナタリーってエロい要素しか無いじゃないかっ!
 その上、夜の魔法使い。
 ……夜の魔法使いって良いな。凄くエロい響きがある。
 精力増強魔法とか体力増強魔法、魅了魔法に発情魔法とか、一体どんな魔法が使えるのだろうか。

「お待たせしました。一先ず、王都の冒険者ギルドへ連絡を取り、この村の領主がヘンリー=フォーサイスに変わった事を確認いたしました」
「言った通りだろ?」
「えぇ。ですが、先程提案いただいた方法で貴方がヘンリー=フォーサイス本人か否かの確認は取らせていただきますが」
「あぁ、それで構わない。じゃあ、ナタリー。屋敷へ行くから、俺に抱きついてくれ」
「……はい? 何を言っているんですか?」
「だから、俺の屋敷へ移動するから、ユーリヤみたいに抱きついてくれ」
「すみません。言っている意味が分からないのですが。とりあえず、あの大きな屋敷は歩いてすぐでしょう。ギルドは施錠いたしますので、一旦出てください」

 しまった。ワープ・ドアの存在を明かさず、テレポートの魔法を使って移動するから俺に抱きつけ……って意味だったんだけど、夜の魔法使いの事で頭が一杯で、そもそも瞬間移動の事を話してなかったよ。
 まぁ確かに、ギルドから屋敷まですぐそこだし、ギルドに瞬間移動魔法の事を知られるのも良くなさそうだから、歩いて行くか。
 ユーリヤを抱っこし、ジェーンとナタリーを伴って、田舎道をのんびりと歩いて行く。
 周囲を見渡すと、左手には自然たっぷりの山があり、右手には広大な畑が広がっている。
 最近は瞬間移動ばかりだったから、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。
 そんな事を思いながら、何気なく後ろを見ると、ナタリーが道の端で何かを拾っていた。

「ナタリー? 何をしているの?」
「あ、すみません。山菜が生えていたので、夜に食べようかと」
「……ナタリー。良かったら、うちで――あの屋敷で晩御飯でも食べて行くか?」
「え? 良いので……いえ、牛たちの世話がありますし、眠り薬とかを盛られたりしたら嫌なので、お断りします」
「ナタリーが夕食に加わるというのなら、今すぐ料理人と一緒に、美味しい人参を仕入れてくるぞ?」
「くっ……卑怯な。これが貴方の手口ですかっ!」
「手口っ!? いや、俺は純粋にナタリーへ美味しい物を食べてもらおうと思ってだな」
「仮に貴方が領主だったとしても、私は変態領主に屈したりはしませんからっ!」

 変態領主……酷ぇ。
 あれかな。ナタリーは獣人族だし、貴族から酷い目に遭った事があるとか、トラウマでもあるのかな?

『単純にヘンリーさんの事が信用出来ないだけではないでしょうか?』
(それを言うなぁぁぁっ!)

 ナタリーとアオイの言葉で悲しくなりながら、屋敷へと到着した。
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