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第6章 漆黒の召喚士

第177話 二人で一緒に汗を流す、激しくて気持ちの良い運動

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 翌日の放課後、籠っていたマーガレットが出てくる日なので、いつものようにユーリヤを連れて王宮へ。
 コートニーを捕まえて話を聞くと、まだ部屋から出てきていないというので、騎士団寮のマーガレットの部屋へ案内してもらった。

「ここですの。だけど、邪魔をしてはいけないので、マーガレットさんが出て来るまで待つんですの」
「今日が十日目だし、もう大丈夫だろ」
「ですから、ダメですのっ! マーガレットさんには完璧な状態で魔法を使って貰わないと、クレアが……」
「クレア? クレアって? 人の名前か?」
「あ……う、な、何でもありませんのっ!」

 コートニーがマーガレットの居る部屋に入ろうとする俺を止めたかと思うと、突然謎の人物の名を口にして、一人でオロオロし始める。
 面白そうなので、もう少しいじってみようかと思った所で、目の前の扉が開いた。

「お兄さんっ! お待たせっ! 遂に完成したよっ!」

 俺たちの声が聞こえていたのか、

「おー、マーガレット。久しぶりだな。十日間も引き籠って……大丈夫か?」
「まぁ、メイドさんたちが周りのお世話をしてくれたしね。あ! でも、やっぱり運動不足だから、お兄さん付き合ってよ」
「いいけど、何をするんだ?」
「二人で一緒に汗を流す、激しくて気持ちの良い運動だよー」
「そうか。じゃあ、今からするか? なんだったら、コートニーも一緒に」

 マーガレットがする運動とは何だろうか。
 模擬剣の打ち合いは激しくて、終わった後に爽快感もあるが、マーガレットは剣を扱えないだろうし……まさか、鈍器で打ち合うのか!?
 それだと、練習用の武器でも大ケガしそうだが。

「一体何をするんですの? マーガレットさんの頼みとあれば、私はいつでもどこでも一肌脱ぎますの」
「えーっと、脱ぐ必要はあるんだけど、出来れば最初は二人っきりから始めたいかなー。私も未経験だし。でも、知識はいっぱいあるから大丈夫だからねっ!」

 激しい運動を、未経験で知識だけを頼りに行うのはどうなのだろうかと思っていると、

「ユーリヤもー! ユーリヤもするー!」
「ゆ、ユーリヤちゃんには早過ぎるかなー」
「やだー! ユーリヤも、いっしょがいいのー! ユーリヤ、にーにとするー!」

 仲間外れにされたと思ったのか、眠たげだったユーリヤがぐずりだした。

「じゃあ、俺とユーリヤが一緒にやって、マーガレットとコートニーが一緒にすれば良いんじゃないか?」
「お、お兄さん。それは流石にハイレベル過ぎるよっ! 外道とか鬼畜って呼ばれるし、それに私はそっちの趣味が無いし……」

 マーガレットは一体何の話をしているのだろうか。
 外道は、時々アオイに呼ばれる事があるけれど、流石に鬼畜とは呼ばれた事はない。
 というか、ユーリヤとすると鬼畜って呼ばれるようになるって、一体何なんだ?
 もう少しマーガレットに話を聞こうと思ったのだが、ユーリヤがぐずったからか、大きく話題が変えられる。

「……こほん。では、コートニーさんから依頼されていた、解呪を行いましょう」
「解呪? それが、以前にコートニーが依頼していた内容なのか?」
「はい。コートニーさんも、もうヘンリーさんにお話しても良いですよね?」

 コートニーがマーガレットの言葉に頷くと、自ら事の次第を話し始めたのだが、俺が初めて魔族と戦った時の話だった。
 オリバー=カーソンと名乗り、生徒に化けて魔法学校へ侵入していた魔族と戦った結果、倒す事が出来たものの、一人の男子生徒とフローレンス様を護る騎士や宮廷魔術士たちが石になってしまったのだ。
 そして、

「その石になってしまった内の一人が、私の妹クレアなんですの……」

 目を伏せたコートニーが絞りだすようにして言葉を発する

「あ……つまり、コートニーがひたすら俺から隠そうとしていたのは、俺がフローレンス様の護衛の人たちを助けられなかったから、それに対して怒ってたって事か」
「お兄さん。そうじゃなくて、コートニーさんはお兄さんがお姫様しか助け出せなかった事を、気にしてしまうのを避けたかったんだって」
「そうですの。私たち騎士や宮廷魔術士であるクレアは、姫様を護る事が仕事。姫様を助けてくれたヘンリーさんには感謝する事はあっても、怒る事なんて有り得ませんの。ですから、余計な気遣いをさせたくなかったんですの」

 マーガレットとコートニーがフォローに入るけど、あれだけ露骨に避けられると、かえって気になるというか……まぁじゃあ何が正解なんだよって事になるんだけどさ。
 一先ず、以前マーガレットとコートニーだけが入った場所へ移動し、今回は俺も中に入る。
 その中には、盾を構える騎士や、杖を掲げる女性……魔族の攻撃からフローレンス様を護ろうとしている者たちが、あの時の表情のまま石像となっていた。
 十数体ある石像は巻き添えとなった学生を除いて、誰一人として諦めたり、絶望したような表情はしていない。
 誰もが、任務の為に――フローレンス様の為に何とかしようとしている様子が現れていた。
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