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第6章 漆黒の召喚士

第175話 アリバイ工作

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「ふんふんふーん♪」

 イロナが胸元から、小さな袋を取り出し、そこから出した数種類の葉っぱや種を鼻歌交じりに調合し始めた。
 この状況で鼻歌を歌えるのは、なかなかに心が強い。
 あと小さな袋とはいえ、精霊使い特有の露出の高い服なのに、あんな場所に収納出来るものなのか。
 不安そうな表情で、今にも泣き出しそうなエリーを抱き寄せ、励ましていると、

「てってれー! イロナちゃん特性解毒剤ー!」

 待ちに待った解毒剤が完成した。

「これは、飲ませれば良いのか?」
「ううん。飲まそうと思ってもー、今の状態じゃ飲んでくれないからー、お香にしたんだー」
「じゃあ、エリーのお母さんの近くで焚けば良いんだな?」

 頷くイロナを見て、お香に火を点けると、作業を続けるエリーのお母さんの傍に置く。
 そのまま暫く様子を窺っていると、エリーのお母さんの身体がぐらりと揺れ、そのままパタンと倒れてしまった。

「お母さんっ!」
「大丈夫だよー。ちょっと眠っているだけだからー」

 走り寄るエリーにイロナが声を掛ける。
 どういう事かと話を聞くと、一瞬で治るような毒ではないため、先程のお香に解毒作用と睡眠作用を混ぜていたと。
 これで先ずは暴れないようにして、毎日解毒を行って少しずつ治していく必要があるらしい。
 なので、イロナの指示に従い、エリーのお母さんを連れて、ワープ・ドアでエリーの家へ。
 エリーのお母さんのベッドに寝かせると、イロナが再びお香を調合し始める。

「えっとー、今度のは眠り作用の代わりにー、精神鎮静作用を入れてあるのー。明日の朝からはー、暫くこっちのお香を焚いてねー」
「イロナちゃんっ! ありがとっ!」
「えっ!? ちょ、ちょっと、大袈裟だよーっ!」

 エリーがイロナに感謝しながら抱きつき、そのイロナが困惑している様子が伺える。
 ふむ……女の子同士で抱き合う様子を見ていると、少し尊いものの様に感じてしまうのは何だろうか。
 まぁ出来るのならば、その間に挟まれたいとも思うけど。

 そんな事があった後、翌日は学校へ行き、放課後はドワーフの国を探しつつ、エリーにお母さんの様子を聞く。
 ある意味、いつも通りの暮らしを数日を送っていたのだが、一度イロナが夜這いをしかけてきた事があった。
 どうやら、俺の夕食にこっそりダークエルフ製の精力剤を混ぜて居たらしく、夜中に俺の身体が大変な事になってしまった。
 だが俺に抱きついて眠るユーリヤを引き剥がせず、イロナが諦め、結果ユーリヤに抱きつかれた状態で、身体の一部がおかしな事になっていて、事情を知らない者からすれば変態以外の何者でもない……いや、もうこの話はやめておこう。
 そんな数日を過ごした後、ようやくフローレンス様から連絡というか、ニーナが学校へ来た。

「隊長さん。フローレンス様から、エァル公国への入国手続きが完了したって伝言ですよー」
「あー、うん。それなんだけどさ。実は……」

 空から国境を越えてエァル公国で魔族を倒し、更にダークエルフをエルフの村へ避難させ、おまけにエリーのお母さんまで保護した事を説明すると、

「た、隊長さん。それは流石にやり過ぎではないでしょうか」
「だよなー」

 ニーナが頭を抱えてしまった。
 だけど、俺だって困っているんだ。
 時間が掛かるとは思っていたけれど、こんなに日数が掛かるとは思っていなかったし、予想以上に色々と片付き過ぎだしさ。

「とりあえず、なるべく早く報告した方が良いんじゃないですかね?」
「そうだな。今から……は流石に早過ぎて怪し過ぎるから、明日にしよう」
「入国手続きが済んだ翌日に解決するのも十二分に早いですけどね」

 困った表情を浮かべてニーナが溜息を吐くが、事実としてエァル公国に入った翌日に解決しているからな。
 瞬間移動については黙っておくつもりだが、魔族が国境のすぐ傍に居た事にしておけば大丈夫……だと思いたい。
 一先ずニーナに礼を言って、放課後に瞬間移動で国境近くの街道へ。
 そこから国境まで歩いて行き、

「第三王女直属特別隊隊長ヘンリー=フォーサイスだ。フローレンス様より火急の任務を賜っており、入国させてもらう」

 何食わぬ顔で正規のルートでエァル公国へ入った。
 これで入国の記録も残るだろうし、後は明日の朝にでも同じように出国する振りをすれば、辻褄合わせは完了だ。
 万が一バレたら国レベルの問題になって、物凄く怒られる……というか、士官をなかった事にされる可能性はあるが、ここまでやっておけば大丈夫だろう。

 そして、翌日。
 昨日考えた通り瞬間移動魔法を用いて出国し、放課後にエルフの村へ行って、事情説明が必要だからとヨセフィーナさんを連れ出す。
 ヨセフィーナさんにも魔族を倒した日付の口裏合わせをお願いして、俺たちはフローレンス様の元へとやってきた。
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