174 / 343
第6章 漆黒の召喚士
第174話 暗闇の中で手探り
しおりを挟む
「にーに。おそと、まっくらー!」
「あぁ。時間はないから、早く行こう。ユーリヤ、エリーのお母さんは、ここからだと、どっちに居る?」
「んーと、あっちー」
フォレスト・タウンへ移動し、早速エリーのお母さんの位置を聞くと、おんぶされて俺の背中に乗っているユーリヤが小さな指で東を示す。
良かった。ここから更に南西だと言われたらお手上げだったが、方角的にブライタニア王国かエァル公国内らしい。
フォレスト・タウンの東門へ進み、そのまま街の外へ。
ユーリヤの示す方角に従い、北東へと伸びる街道を無視して、真っ直ぐ森の中へ入って行く。
街には街灯があり、街道も月明かりで辛うじて先が見えたが、その僅かな明かりすら届かない森の中は、暗過ぎて自分足元さえよく見えない。
「エリー、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。エリー、頑張る……けど、ハー君はどこに居るのー?」
「全然、ダメじゃないか。エリー、こっちだ」
後ろに居るエリーに手を伸ばし、柔らかい手を握ると、
「ひゃうっ! へ、ヘンリー! イロナちゃんは、夜のサービスは未経験なんだよっ!?」
「あ、あれ? イロナだったのか。悪い。実は俺も見えてなくて……こっちか?」
「貴方っ! そ、そこは……というか、こういう事は家の中でする方が嬉しいかな」
イロナとアタランテがそれぞれ、うわずった声を上げる。
残念ながら、どちらも握った感じが手では無かったのだが、俺は何を触ってしまったのだろうか。
「あっれれー? アタランテさんは、どうして自分からお兄さんの手に近づいて行ったのかなー? もしかして、痴女なのかなー?」
「ち、違うわよっ! そもそも、貴方だって微妙な場所に移動したじゃない」
「違うもん。イロナちゃんは、最初からここに居たんだもん」
いや、真っ暗な森の中で夜目が効く二人がケンカしないでくれよ。
その上、エリーは未だに迷子みたいだし。
『ヘンリーさんが魔法で明るくすれば良いじゃないですか』
(……あ、そうだな)
アオイのツッコミでようやく気付き、明かりを生み出す魔法を使うと、
「ふぇぇ……ハー君っ! 怖かったーっ!」
半泣きのエリーが駆け寄り、俺の胸に飛び込んできた。
真っ暗な夜の森の中で迷子……相当怖い思いをさせてしまったなと、反省しながら背中を撫でていると、
「くっ……これが天然ものの威力なのねっ」
「悔しいけど、これは……仕方が無いわね」
イロナとアタランテの二人が良く分からない事を呟いている。
一先ずユーリヤをおんぶしたまま、エリーと手を繋いで歩いていると、
「ねぇ、ヘンリー。このまま森の中を歩いて移動するのー?」
「あぁ。流石に、この状態で走って移動するのは厳しいし」
「そうじゃなくてー、森の中を移動するのなら、もっと楽に移動出来るんだよー」
イロナが不意に何かの魔法を詠唱し始めた。
『フォレスト・アドヴァンス』
聞いた事の無いイロナの魔法が発動すると、前方にある森の木々が左右に分かれ、道を作る。
その上、足を動かしていないのに、俺たち全員がかなりの速度で前に進んで行く。
「凄いな! これも精霊魔法なのか?」
「そうだよー。森の中でしか使えないけどねー。でも、便利でしょー?」
「あぁ。凄く助かるよ」
暗く深い森の中で、魔物に遭遇する事もなく、ユーリヤの指し示す方向へ高速移動していると、分かれた木々の先に、小さな家が現れた。
「にーに! あそこー」
「分かった。イロナ、少し速度を落としてくれ。あと、皆十分に警戒してくれよ」
近づいてみて分かったが、家というより大きな木箱と表現した方が正しいように思える程、雑な作りの家だ。
一応ドアらしき物があるが、窓一つなく、中の様子は伺えない。
だが中から人の気配があるし、ユーリヤはエリーのお母さんの魔力だけを感じると言う。
魔族は近くに居ないと判断し、家の中へと突入すると、俺が灯している光に、女性の姿が映る。
「お母さんっ!」
エリーが飛び出して声を掛けるが、その女性は全く反応しない。
何も聞こえて居ないかのように、ただただ何かの動作を繰り返している。
『あれは……錬金魔法で用いる素材ですね。おそらくホムンクルスの製造に使用するのでしょう。ですが……』
(あぁ、言いたい事は分かる。明らかに様子がおかしいな。エリーの呼び掛けが届いていない。魔族の魔法か何かか?)
『わかりません。そうなのかもしれませんし、違うかもしれません。いずれにせよ、私には判断出来ない状態ですね』
娘の呼び掛けにも応じず、一心不乱に特定の作業だけを行う。
操られているとか、洗脳とかって状態だろうか。
だとしたら、これでいけるのでは?
「ディスペル」
今まで数々の魔法を打ち破って来た解除魔法を使ってみたが、何の反応もない。
魔法ではないのか、それとも魔族が使った特殊な魔法なのか。
神聖魔法を得意とするマーガレットが居れば、また違う解決手段があったのかもしれないが。
「仕方が無い。一先ず、瞬間移動でエリーの家に連れ帰ろう」
エリーのお母さんの前で、ワープ・ドアの魔法を使おうとした所で、イロナから待ったが掛かる。
「ヘンリー、待ってー。この人、毒を盛られてるよー。このまま、この作業を止めさせたら、幻覚で大変な事になるよー」
「毒で幻覚を見せられているのか!?」
「うん。どんな幻覚を見ているかまでは分からないけどー、おそらくこの作業を止めると、大事な人が死ぬとか、そういう幻覚を見せられていてー、止めると狂ったように暴れると思うー」
軽い口調でメチャクチャ重い事を言ってきたのだが、
「大丈夫ー。この毒なら、イロナちゃんが治せるからー!」
「マジで!? 頼む!」
「うん、任せてー!」
同じくらい軽い口調で、頼もしい事を言ってくれた。
「あぁ。時間はないから、早く行こう。ユーリヤ、エリーのお母さんは、ここからだと、どっちに居る?」
「んーと、あっちー」
フォレスト・タウンへ移動し、早速エリーのお母さんの位置を聞くと、おんぶされて俺の背中に乗っているユーリヤが小さな指で東を示す。
良かった。ここから更に南西だと言われたらお手上げだったが、方角的にブライタニア王国かエァル公国内らしい。
フォレスト・タウンの東門へ進み、そのまま街の外へ。
ユーリヤの示す方角に従い、北東へと伸びる街道を無視して、真っ直ぐ森の中へ入って行く。
街には街灯があり、街道も月明かりで辛うじて先が見えたが、その僅かな明かりすら届かない森の中は、暗過ぎて自分足元さえよく見えない。
「エリー、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。エリー、頑張る……けど、ハー君はどこに居るのー?」
「全然、ダメじゃないか。エリー、こっちだ」
後ろに居るエリーに手を伸ばし、柔らかい手を握ると、
「ひゃうっ! へ、ヘンリー! イロナちゃんは、夜のサービスは未経験なんだよっ!?」
「あ、あれ? イロナだったのか。悪い。実は俺も見えてなくて……こっちか?」
「貴方っ! そ、そこは……というか、こういう事は家の中でする方が嬉しいかな」
イロナとアタランテがそれぞれ、うわずった声を上げる。
残念ながら、どちらも握った感じが手では無かったのだが、俺は何を触ってしまったのだろうか。
「あっれれー? アタランテさんは、どうして自分からお兄さんの手に近づいて行ったのかなー? もしかして、痴女なのかなー?」
「ち、違うわよっ! そもそも、貴方だって微妙な場所に移動したじゃない」
「違うもん。イロナちゃんは、最初からここに居たんだもん」
いや、真っ暗な森の中で夜目が効く二人がケンカしないでくれよ。
その上、エリーは未だに迷子みたいだし。
『ヘンリーさんが魔法で明るくすれば良いじゃないですか』
(……あ、そうだな)
アオイのツッコミでようやく気付き、明かりを生み出す魔法を使うと、
「ふぇぇ……ハー君っ! 怖かったーっ!」
半泣きのエリーが駆け寄り、俺の胸に飛び込んできた。
真っ暗な夜の森の中で迷子……相当怖い思いをさせてしまったなと、反省しながら背中を撫でていると、
「くっ……これが天然ものの威力なのねっ」
「悔しいけど、これは……仕方が無いわね」
イロナとアタランテの二人が良く分からない事を呟いている。
一先ずユーリヤをおんぶしたまま、エリーと手を繋いで歩いていると、
「ねぇ、ヘンリー。このまま森の中を歩いて移動するのー?」
「あぁ。流石に、この状態で走って移動するのは厳しいし」
「そうじゃなくてー、森の中を移動するのなら、もっと楽に移動出来るんだよー」
イロナが不意に何かの魔法を詠唱し始めた。
『フォレスト・アドヴァンス』
聞いた事の無いイロナの魔法が発動すると、前方にある森の木々が左右に分かれ、道を作る。
その上、足を動かしていないのに、俺たち全員がかなりの速度で前に進んで行く。
「凄いな! これも精霊魔法なのか?」
「そうだよー。森の中でしか使えないけどねー。でも、便利でしょー?」
「あぁ。凄く助かるよ」
暗く深い森の中で、魔物に遭遇する事もなく、ユーリヤの指し示す方向へ高速移動していると、分かれた木々の先に、小さな家が現れた。
「にーに! あそこー」
「分かった。イロナ、少し速度を落としてくれ。あと、皆十分に警戒してくれよ」
近づいてみて分かったが、家というより大きな木箱と表現した方が正しいように思える程、雑な作りの家だ。
一応ドアらしき物があるが、窓一つなく、中の様子は伺えない。
だが中から人の気配があるし、ユーリヤはエリーのお母さんの魔力だけを感じると言う。
魔族は近くに居ないと判断し、家の中へと突入すると、俺が灯している光に、女性の姿が映る。
「お母さんっ!」
エリーが飛び出して声を掛けるが、その女性は全く反応しない。
何も聞こえて居ないかのように、ただただ何かの動作を繰り返している。
『あれは……錬金魔法で用いる素材ですね。おそらくホムンクルスの製造に使用するのでしょう。ですが……』
(あぁ、言いたい事は分かる。明らかに様子がおかしいな。エリーの呼び掛けが届いていない。魔族の魔法か何かか?)
『わかりません。そうなのかもしれませんし、違うかもしれません。いずれにせよ、私には判断出来ない状態ですね』
娘の呼び掛けにも応じず、一心不乱に特定の作業だけを行う。
操られているとか、洗脳とかって状態だろうか。
だとしたら、これでいけるのでは?
「ディスペル」
今まで数々の魔法を打ち破って来た解除魔法を使ってみたが、何の反応もない。
魔法ではないのか、それとも魔族が使った特殊な魔法なのか。
神聖魔法を得意とするマーガレットが居れば、また違う解決手段があったのかもしれないが。
「仕方が無い。一先ず、瞬間移動でエリーの家に連れ帰ろう」
エリーのお母さんの前で、ワープ・ドアの魔法を使おうとした所で、イロナから待ったが掛かる。
「ヘンリー、待ってー。この人、毒を盛られてるよー。このまま、この作業を止めさせたら、幻覚で大変な事になるよー」
「毒で幻覚を見せられているのか!?」
「うん。どんな幻覚を見ているかまでは分からないけどー、おそらくこの作業を止めると、大事な人が死ぬとか、そういう幻覚を見せられていてー、止めると狂ったように暴れると思うー」
軽い口調でメチャクチャ重い事を言ってきたのだが、
「大丈夫ー。この毒なら、イロナちゃんが治せるからー!」
「マジで!? 頼む!」
「うん、任せてー!」
同じくらい軽い口調で、頼もしい事を言ってくれた。
0
お気に入りに追加
1,338
あなたにおすすめの小説
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる