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第6章 漆黒の召喚士

第165話 人間とエルフの共存

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「えぇーっ! そうなんですかぁー!? お兄さんって凄ーい!」
「はっはっは。いや、まぁそれ程でも……あるんだけどねー」
「他には、どんな凄い事をしたんですかぁー? メルヴィちゃん、もっとお兄さんの事を知りたいー!」

 メルヴィちゃんが瞳をキラキラと輝かせ、俺が士官学校時代に武道会で優勝した話を聞いてくる。
 俺の話が面白いらしく、夢中になって聞いて居て、柔らかい胸がずっと俺の腕に当たっている事に気付いていないようだ。
 よし。じゃあ次は取っておきの、魔族を倒した話をしてあげようか。

『……さん! ヘンリーさんってば!』
(なんだよ、アオイ。今、俺はメルヴィちゃんと楽しくお話しているんだから邪魔しないでくれよっ!)
『いや、というか、本気で魔族を倒した話をしようとしてましたけど、ダメですよっ!』
(何故?)
『何故……って、ヘンリーさんはここへ何をしに来たんですか? 目的を忘れていませんか?』

 ここへ来た目的は、メルヴィちゃんと楽しくお喋りする事……じゃなくて、ダークエルフの村に来ると思われるロリコン魔族を倒す事か。
 けど、メルヴィちゃんともっと喋りたいんだけどなー。

「……ちゃん、お兄ちゃんっ!」
「ん、どうしたんだ? ルミ」
「さっきから関係のない話ばっかりしてるけど、そんなお話をするために来たんじゃないでしょー」

 ルミにまでアオイと同じような事を言われてしまった。
 仕方が無い。先ずは目的を果たそうか。

「お兄さん。次はどんなお話なんですかぁー?」
「……あー、悪いんだけど、ダークエルフの中で一番偉い人を呼んで来て欲しいんだけど」
「えっ!? メルヴィちゃん、お客様に何か悪い事をしちゃいました!?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。メルヴィちゃんとお話するのが楽しくて、つい忘れてしまっていたけど、俺たちは別の用事があって来たんだ」
「……ちょ、ちょっと待っててくださいね」

 おっぱい――もとい、メルヴィちゃんが俺の傍から離れ、黒服の男性エルフに何か耳打ちをしている。
 そして、そのまま店の奥へと姿を消してしまった。
 あぁぁ……メルヴィちゃんがぁぁぁっ!
 そうだ。もう一人の綺麗なお姉さん、トゥーリアさんは……と思って反対側を見ると、トラブルを予感したのか、既にルミの隣から居なかった。

「お兄ちゃん。どうしたの?」

 ルミがメルヴィちゃんのように、俺の腕にくっついて来たのだが……無い!
 大きくて温かい、ムニムニふにふにした柔らかいおっぱいが無い!
 ルミの胸の周りの肉を寄せて集めたら、少しはおっぱいらしくなるだろうか。
 ……って、待て待て。ルミの胸を触った時点で、ロリコンの烙印が押されてしまう。
 メルヴィちゃんのおっぱいが無い事――ロストおっぱいのせいで、とんでもない行動を取ってしまう所だった。
 俺の中で起こっていた戦いを知る由もないルミが小首を傾げた所で、

「兄さん。アタイがこの店の店長、ヴィルヘルミーナよ。アタイに用って何だい?」

 胸元が大きく開いた、黒革のドレスに身を包んだ背の高い女性が俺の隣に腰掛ける。
 おそらく俺より背が高く、先程の二人よりも胸が大きい。
 これは……ニーナと良い勝負ではないだろうか。

「貴方が一番偉い方ですか。先ず質問なのですが、隣の国ブライタニア王国に魔族が現れた話は知っていますか?」
「知らないねぇ」
「なるほど。見た所、まだここには来ていないようですが、その魔族はエルフの魔力を欲しています」
「へぇ……どうして、兄さんがそんな事を知っているんだい?」
「実際に戦ったからですよ。逃げられてしまいましたが、奴は必ずここへ来ると思われます」

 事実は戦った訳ではなく、俺がルミの髪の毛をエリーのお母さんに渡したからなのだが、その辺りの話をするとややこしいので適当に伏せておいた。

「ふぅん。それで、こっちのエルフのお嬢ちゃんと一緒に、アタイたちの所へ来たっていうのかい?」
「あ、ルミがエルフだって分かってたんですね」
「当然。そんなの店に入る前から気付いてるよ。で、兄さんたちはどうしたいんだい?」
「ここを狙う魔族を倒したいんです。暫く、この近辺で待機させてもらえないかと。おそらく、この近くにダークエルフが住む黒い森があるんですよね?」
「黒い森? そんなの数百年前に無くなっているよ。今はここがアタイたちダークエルフの住処なのさ」
「え? どういう事ですか? 黒い森が無くなっている!?」

 思わずルミと顔を見合わせる。
 黒い森が無くなっていて、でもここがダークエルフの住処とはどういう意味なのだろうか。

「そこに居るエルフの嬢ちゃんなら知って……いや、知らないか。どうみても、まだ百歳くらいの子供だしね。兄さん、この国の領土問題は知ってるかい?」
「えっと、ブライタニア王国と昔から主張がぶつかり合っているとかって」
「その通りさ。この国は、西と南が海に囲まれて居て、北と東がブライタニア王国だ。元より小さい国だけど、人間はアタイらエルフと違って繁殖力が旺盛だからね。新しい街を作る場所が必要になったのさ」
「それで黒の森を潰して、開拓した……? この辺りとか、街道沿いに平原があるのに?」
「この辺りは街を作っても、海からの潮風ですぐにダメになってしまうんだってさ。人間の街造りには使えないそうだ。で、兄さんの想像通り、数百年前に人間たちの手でアタイたちは故郷を失った。最初は復讐も考えたんだけどね、街に来た木材職人たちが黒の森から切った樹の分だけ、ちゃんと別の場所に樹を植えていたからねー。それを見て、人間との共存を考えたんだ」

 なるほど。
 木材職人のおかげで、人間とダークエルフが争いにならなくて済んだのか。
 話が長くなるからか、いつの間にかヴィルヘルミーナさんの分の飲み物がテーブルに置かれ、その隣にはフルーツの盛り合わせが並べられていた。
 ヴィルヘルミーナさんの話を聞きつつ、ルミがフルーツをパクパク食べている。

「幸い、アタイらダークエルフは薬や毒を扱うのに長けているからね。エルフの魔力を使えば――エルフがそこに住む必要があるけど、潮風から家を護る事も出来る。だからアタイらは、この海辺に住む事にしたんだ。海だって、自然といえば自然だからね」
「へぇー、なるほど。そういう事があったんですね」
「あぁ、そういう事さ。お兄さんの言う、魔族云々の話は知らないが、滞在したいなら好きにすれば良いさ」
「わかりました。じゃあ、俺たちは俺たちで、この辺りで魔族を張らせてもらいます」

 そう言って席を立とうとすると、ヴィルヘルミーナが俺の腰に腕を回してきた。

「兄さん。お帰りよりも、お会計が先だよ」
「あ、そうか。おいくらですか?」

 大きなおっぱいが背中に当たりまくっていて、その心地良さを堪能していると、

「お客様。こちらが本日のお会計となります」

 黒服の男性エルフが、二つくらい桁を間違えた伝票を持ってきた。
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