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第6章 漆黒の召喚士
第162話 エァル公国
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国境を越え、再びルミを抱っこして走ると、エァル公国の街が見えてきた。
一旦ルミを降ろし、目立つ魔法学校の制服のローブを脱ぐ。
これで普通の少年と、ちょっと幼い妹に見える……と思いたい。
「ルミ、ここからは普通に歩いて行くぞ……って、何をしているんだ?」
「ま、待ってよぉ。ルミ、腰が……」
「腰が?」
「な、なんでもないのっ!」
何故か地面にへたり込んでいるルミの手を引き、ゆっくりと歩きだす。
徐々に近づいてくる街の門は……門の傍に兵士が立っているものの、特に街に出入りする人を調べたりはしていないようだ。
何食わぬ顔でルミと共に通ろうとすると、
「おい、そこの少年」
何故か兵士に止められてしまった。
「何でしょうか?」
「手を繋いでいるのは妹さんか? 顔が真っ赤だが、熱でもあるんじゃないのか?」
「……え、えぇ。ちょっと今朝から体調を崩していまして」
「だったら、あまり無理させるんじゃねぇぞ。早く家に帰って休ませてやりな」
「そうですね。そういたします」
「あぁ、それが良い。隣のブライタニア王国では魔族が出たって噂だし、あまり街から出ないようにな」
どうやら、何故か顔を赤く染めているルミを心配してくれただけらしく、礼を言って門を通り抜けた。
「というか、ルミ。さっきからどうしたんだ? 本当に熱があるのか?」
「ち、違うもんっ!」
ルミの額に手を当てようとすると、ブンブンと大きく首を振られてしまった。
しかし、もう一方の俺の手は離そうとせず、ギュッと握り続けてくる。
うーん、良く分からん。
「とりあえず、予定通り街で黒い森について聞き込みをするつもりだが、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「そうか……じゃあ、行くぞ?」
本当に体調が悪いのなら、ルミをエリーの家へ送り、俺一人で聞き込みをしても良いのだが、エルフの文化だとか風習だとかが分からないから、些細な情報だと思って聞き流していたら、実は重要な情報だった……というのをやらかしそうなんだよな。
……まぁ今思えば、俺一人でこの街へ来てから、ルミを迎えに行けば良かったのだが。
街の中で走る訳でもないので、大丈夫だと言い張るルミをおんぶして、聞き込みを開始する。
「黒い森? いや、聞いた事が無いな」
「森なら、街の東側じゃないかしら? けど、普通の森よ?」
「黒い森ねぇ。森の街って意味の、フォレスト・タウンっていう街なら南西にあるが……単に木材を扱う職人が多いだけの普通の街だけどな」
老若男女を問わず、暫く大通りを歩く人達に話を聞いてみたが、誰も黒い森というのを知らなかった。
エルフの長老サロモンさんが千年近く交流が無いと言っていたし、もしかしたら黒い森なんてものは既に無くて、ダークエルフは既に居なくなっているのではないだろうか。
そうなると、ロリコン魔族をおびき寄せるために再びルミをエサにしなければならないかもしれない。
……今日、半日ルミを泳がしたにも関わらず、成果は全く無かったが。
「ルミ。この辺りでエルフの気配というか、魔力みたいなものは感じるのか?」
「え? ううん。この辺りには居ないみたい」
ルミがどれくらい近くまで行けばダークエルフの存在を感知出来るのかは分からないが、少なくともこの街では情報を得られそうにない。
(アオイはどうだ? エルフっぽい魔力は分かるか?)
『うーん。南西の方角にエルフらしき魔力は感じますが、本当にエルフかどうかは分かりかねますね』
アオイは最初から、エルフとダークエルフでは魔力の特徴が全く同じではないから分からないと言っていたが、エルフの可能性があるのなら行ってみるか。
「よし、ルミ。南西にあるというフォレスト・タウンに行ってみよう。木材を扱う職人が多いと言っていたし、黒い森の事を知っているかもしれない」
「う、うん。……あ、あの、お兄ちゃん。また走るの?」
「あぁ、そのつもりだが……もう国境は越えたし、乗合馬車か何かを探しても良いが、いずれにせよ今日は日が落ち始めたから明日だな」
「そ、そっか。わかったー」
「じゃあ、一旦エリーの家に戻るぞ。夜はエリーの家に泊まるって約束だったからな」
人目に付かない場所を探し、ワープ・ドアの魔法を使ってエリーの家へ。
家の前で待って居たアタランテも一緒に家へ入り、それぞれの今日の成果――といっても、俺とルミがエァル公国に入った事と、アタランテとソフィアが訪れた山にドワーフが居なかった事、エリーとユーリヤが楽しく遊んだという話だが――を共有して就寝する。
翌朝、視線を感じて目覚めると、両隣にエリーとアタランテが居て、俺の上にユーリヤという、ある意味いつも通りの場所なのだが、床に敷いた布団から上半身を起こしたルミが寂しそうにこっちを見ていた。
まさか混ざりたかったのか?
いや、それは無いか。
一先ず朝食を済ませてルミと共にエァル公国へ瞬間移動すると、
「お、お兄ちゃん。き、今日も走って行こうよ」
何故かルミから抱っこを要求してきた。
まぁ俺としては早く目的地に着くから良いのだが……
「ひゃあぁぁぁっ」
ルミの叫び声と共に街道を走り抜け、フォレスト・タウンへと到着した。
一旦ルミを降ろし、目立つ魔法学校の制服のローブを脱ぐ。
これで普通の少年と、ちょっと幼い妹に見える……と思いたい。
「ルミ、ここからは普通に歩いて行くぞ……って、何をしているんだ?」
「ま、待ってよぉ。ルミ、腰が……」
「腰が?」
「な、なんでもないのっ!」
何故か地面にへたり込んでいるルミの手を引き、ゆっくりと歩きだす。
徐々に近づいてくる街の門は……門の傍に兵士が立っているものの、特に街に出入りする人を調べたりはしていないようだ。
何食わぬ顔でルミと共に通ろうとすると、
「おい、そこの少年」
何故か兵士に止められてしまった。
「何でしょうか?」
「手を繋いでいるのは妹さんか? 顔が真っ赤だが、熱でもあるんじゃないのか?」
「……え、えぇ。ちょっと今朝から体調を崩していまして」
「だったら、あまり無理させるんじゃねぇぞ。早く家に帰って休ませてやりな」
「そうですね。そういたします」
「あぁ、それが良い。隣のブライタニア王国では魔族が出たって噂だし、あまり街から出ないようにな」
どうやら、何故か顔を赤く染めているルミを心配してくれただけらしく、礼を言って門を通り抜けた。
「というか、ルミ。さっきからどうしたんだ? 本当に熱があるのか?」
「ち、違うもんっ!」
ルミの額に手を当てようとすると、ブンブンと大きく首を振られてしまった。
しかし、もう一方の俺の手は離そうとせず、ギュッと握り続けてくる。
うーん、良く分からん。
「とりあえず、予定通り街で黒い森について聞き込みをするつもりだが、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「そうか……じゃあ、行くぞ?」
本当に体調が悪いのなら、ルミをエリーの家へ送り、俺一人で聞き込みをしても良いのだが、エルフの文化だとか風習だとかが分からないから、些細な情報だと思って聞き流していたら、実は重要な情報だった……というのをやらかしそうなんだよな。
……まぁ今思えば、俺一人でこの街へ来てから、ルミを迎えに行けば良かったのだが。
街の中で走る訳でもないので、大丈夫だと言い張るルミをおんぶして、聞き込みを開始する。
「黒い森? いや、聞いた事が無いな」
「森なら、街の東側じゃないかしら? けど、普通の森よ?」
「黒い森ねぇ。森の街って意味の、フォレスト・タウンっていう街なら南西にあるが……単に木材を扱う職人が多いだけの普通の街だけどな」
老若男女を問わず、暫く大通りを歩く人達に話を聞いてみたが、誰も黒い森というのを知らなかった。
エルフの長老サロモンさんが千年近く交流が無いと言っていたし、もしかしたら黒い森なんてものは既に無くて、ダークエルフは既に居なくなっているのではないだろうか。
そうなると、ロリコン魔族をおびき寄せるために再びルミをエサにしなければならないかもしれない。
……今日、半日ルミを泳がしたにも関わらず、成果は全く無かったが。
「ルミ。この辺りでエルフの気配というか、魔力みたいなものは感じるのか?」
「え? ううん。この辺りには居ないみたい」
ルミがどれくらい近くまで行けばダークエルフの存在を感知出来るのかは分からないが、少なくともこの街では情報を得られそうにない。
(アオイはどうだ? エルフっぽい魔力は分かるか?)
『うーん。南西の方角にエルフらしき魔力は感じますが、本当にエルフかどうかは分かりかねますね』
アオイは最初から、エルフとダークエルフでは魔力の特徴が全く同じではないから分からないと言っていたが、エルフの可能性があるのなら行ってみるか。
「よし、ルミ。南西にあるというフォレスト・タウンに行ってみよう。木材を扱う職人が多いと言っていたし、黒い森の事を知っているかもしれない」
「う、うん。……あ、あの、お兄ちゃん。また走るの?」
「あぁ、そのつもりだが……もう国境は越えたし、乗合馬車か何かを探しても良いが、いずれにせよ今日は日が落ち始めたから明日だな」
「そ、そっか。わかったー」
「じゃあ、一旦エリーの家に戻るぞ。夜はエリーの家に泊まるって約束だったからな」
人目に付かない場所を探し、ワープ・ドアの魔法を使ってエリーの家へ。
家の前で待って居たアタランテも一緒に家へ入り、それぞれの今日の成果――といっても、俺とルミがエァル公国に入った事と、アタランテとソフィアが訪れた山にドワーフが居なかった事、エリーとユーリヤが楽しく遊んだという話だが――を共有して就寝する。
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まさか混ざりたかったのか?
いや、それは無いか。
一先ず朝食を済ませてルミと共にエァル公国へ瞬間移動すると、
「お、お兄ちゃん。き、今日も走って行こうよ」
何故かルミから抱っこを要求してきた。
まぁ俺としては早く目的地に着くから良いのだが……
「ひゃあぁぁぁっ」
ルミの叫び声と共に街道を走り抜け、フォレスト・タウンへと到着した。
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