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第6章 漆黒の召喚士

第155話 女の子の前では出来ない事

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「可愛いっ! ハー君。この可愛い女の子は誰なのー? 髪の毛もサラサラだしー」

 エリーがルミの向ける視線に気付かないまま、褒めちぎると、

「可愛い……ま、まぁね。ルミは可愛いからねっ! で、お姉さんは誰なの?」

 あっさりとルミがデレた。
 早っ! ルミ……エリーに少し可愛いと言われただけでその変化は、流石にチョロ過ぎないか?

「ルミ。この子はエリーと言って、俺の同級生だ」
「なるほど。お兄ちゃんが学生だった頃のお友達さんなんだね」
「学生だった頃……って、一応俺は今も学生なんだが」
「えっ!? でも、お兄ちゃんは宮廷魔術士さんなんだよね?」
「王宮に仕えてはいるが、まだ学生なんだ。だから、第三王女直属特別隊の隊長兼魔法学校の学生だ」

 宮廷魔術士じゃなくて、第三王女直属特別隊だとルミには何度も言ったのだけど……まぁ仕方が無いか。

「えぇぇっ!? どういう事!? 学生なのに王宮で隊長って……えぇぇぇっ!?」
「言ってなかったか? というか、一緒にフィオンの洞窟で聖銀探しをした時も、朝になったら一人で帰って学校へ行っていたじゃないか」
「あ! あれ学校へ行ってたんだ」
「何だと思ってたんだよ」
「え? それはその……お兄ちゃんが可愛い女の子たちに囲まれていたから、女の子の前では出来ないような事をするために……」

 この幼女エルフは何を言っているのだろうか。
 まぁ開き直らず顔を赤く染めている辺り、まだ可愛げはあるのだが、そもそもどこからこんな知識を得るのやら。

「ねぇねぇ、ハー君。女の子の前で出来ない事ってなんなのー?」
「エリーは知らなくても良い事だよ」
「えー! この子は知っているのに、エリーが知らないのは不公平だよー。ねぇ、ハー君。教えてよー」

 おぉぅ。こういう事に関しては、エリーの知識はルミ以下だったのか。
 いや、知らなくて良い事だし、むしろ知らない方がポイントが高い気がするけどさ。
 流石は初対面の俺の前で、いきなり胸を見せてくれたエリーだ。
 うむ。このまま真っ直ぐに育って欲しい。
 そんな事を考えながら、抱きついてくるエリーの頭を撫でていると、

「ルミや。何を騒いでいるのだ?」

 奥からエルフの長老サロモンさんが現れた。

「お久しぶりです。突然、お邪魔してしまいすみません」
「おぉ、これはヘンリーさん。久しぶりですな。立ち話も何ですし、どうぞ奥へ。ルミ、お客様をご案内しなさい」
「お兄ちゃん。行こっ!」

 ルミが俺の手を引き、グイグイと引っ張ってくる。
 そのまま応接室みたいな所へ案内され、三人掛けのソファーで右にエリー、左にルミが座った。
 ちなみにユーリヤは俺の膝の上で、ルミが何故かちょっと悔しそうにしているのだが……流石にユーリヤ相手に対抗心を抱くのはどうなのだろうか。

 そんな事を考えつつ、サロモンさんを交えて少し雑談をした後、本題を切りだす。

「サロモンさん。ここ最近で、エルフの村におかしな事は起こっていませんか?」
「おかしな事……ですか? いえ、特には。魔王にも変化はありませんし」
「そうですか。では率直に申し上げますが、これから近いうちに、魔族がこの村を襲う可能性があります」

 王都で魔族が現れ、エルフの魔力を欲しているという事を説明しようとした所で、

「いえ、それは無いでしょう。仮にもここは封印された魔王の観測地。近くに魔族が現れる事を先祖のリンネア=リーカネンも懸念しており、村を魔族から完璧に守る大がかりなマジックアイテムが設置されておりますし」

 ノータイムで否定されてしまった。

「魔族から村を守るマジックアイテム?」
「えぇ。魔族による魔法を完全に遮る装置です。魔族に特化して作成されているので、他の種族には効果が無いのですが、対魔族としては完璧です。この村は、魔族の探知魔法ですら無効化しますし」
「探知魔法を無効化……という事は、この村は魔族から絶対に見つけられないという事ですか?」
「その通りです。事実として、魔王城のすぐ傍にありながら、この村は一度たりとも魔族の襲撃を受けた事がありませんからね」

 そうなのか。
 じゃあ、エリーのお母さんをさらったと思われるロリコン魔族が来る事は無いって事か。

「というか、魔族の魔法を無効化するって凄くないですか!? それ、王都にも欲しいくらいなんですけど」
「残念ながら、エルフの魔力でしか動かないため、エルフの居ない人間の都市には使えないかと。それに精霊魔法をベースとしているため、自然が多く、規模も小さいこの村だから守れているのです。人工物が多く、広い街には使えないでしょう」

 なるほど。
 それは本気で残念だな。
 魔族の魔法を無効化する装置で王宮を守っておけば、あとは騎士が物理的に守れば鉄壁の防御となったのに。

「しかし、魔族がこの村へ来ないとなると……じゃあ、どうするんだろう。別の魔力が高い種族を狙うのか?」
「失礼ながら、どういったお話でしょうか?」

 サロモンさんが尋ねてきたので、先程言いかけた、エルフの魔力を欲する魔族が居る事を伝えると、

「ふむ。この辺りでは、エルフの村はここにしか無いはずですが……確か、南西の国に別のエルフの村があると、昔聞いたような気がします」
「別のエルフの村!? そこには、先程言っていた装置はあるのですか?」
「おそらく無いでしょう。あの装置は、リンネア=リーカネンの指揮の下で作られたはず。オリジナルの一点物だと思われるので、他には存在しないかと」
「じゃあ、その村が襲われる可能性があるって事ですね!? 正確な場所はわかりますか?」
「残念ながら、千年近く交流も無いので、正確な場所はわかりませんな」

 うーん。
 あの魔族がこの村に来ない以上は、別のエルフの村で倒しておきたいのだが、どうした物だろうか。
 エルフの村って事で、アオイが魔力を探知して何とかなると良いのだが。

『エルフの中でも同じ種族でしたら大丈夫かと。ただ同じエルフとは言っても、使用する魔法が全く異なる種族ですと難しいですが』
(アオイの言う異なる種族って、まさか……いわゆるダークエルフの事?)
『えぇ、そうです。私もダークエルフとは接した事がありませんし、噂では闇魔法を使うとか使わないとか』
(流石に、ダークエルフじゃない……よな?)

「あの、サロモンさん。その、南西の国にあるエルフの村って、まさかダークエルフとかじゃないですよね?」
「おや、ご存知でしたか。流石は宮廷魔術士様ですな。博識でいらっしゃる」

 念のため……くらいの軽い気持ちで聞いたら、そのままずばりダークエルフだった。
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