上 下
140 / 343
第5章 新たな試練

第140話 爆発事件

しおりを挟む
 シャロンの家族は見つけられなかったものの、一先ず獣人族の村へ連れて行くという約束は果たす事が出来た。
 なので、今まで獣人族の村探しを担当してもらっていたジェーンとアタランテもドワーフの国探しに参加してもらい、第三王女直属特別隊で一丸となって本来の目的に全力を注ごう。
 そんな事を考えながら宮廷の正門に向かって歩いて居ると、突然風の魔法か何かで拡張された声が響き渡る。

「城下町にて爆発事件発生! 第一騎士隊及び魔法騎士隊はただちに出動! 冒険者ギルド並びに自警団と連携を取り、正確な現場の情報を入手せよ。繰り返す……」

 今いる場所が訓練場の近くだからだろうか。
 それとも、今まで俺が王宮に居た時にこのような事が起こらなかったからだろうか。
 いずれにせよ、周囲が慌ただしくなり、遠くから騎士たちと思われる怒号にも似た声が聞こえてくる。

「ん……にーに。どーかしたのー?」
「あ、ユーリヤ。今ので起きちゃったか。詳しい事は俺もわからないけど、街で事件があったんだって」
「ふーん。……じけんって、なーに? おいしいのー?」

 まぁユーリヤには分からないよね。
 というか、俺にも何が起きたのか全くわからないんだけどさ。
 しかし正式には仕官していないとはいえ、一応俺も第三王女直属特別隊という王宮に仕える者の一人だ。
 ドワーフの国を探すという任務に就いているものの、緊急事態っぽいし、しかも運が良いのか悪いのか、宮廷に居あわせているのだから、何かすべきだろうか。
 それとも、正規の騎士団の邪魔にならないように任せるべきか。

「……うん。こういう時のルールを聞いていないから、わからないな。という訳で、聞きに行こうか」

 まだ眠そうなユーリヤをおんぶしたまま、正門からいつもの小部屋へと進路を変える。
 暫し歩き、あと少ししたらいつもの場所へ着くという所で、顔見知りのメイドさんと遭遇した。

「ヘンリー様! お探し致しました。第三王女フローレンス様がお待ちですので、謁見の間へお急ぎください」
「謁見の間!? いつもの小部屋ではなくて?」
「はい。そちらのお子さんは私が見ておきますので、とにかく急いでください」

 いつもはもっと丁寧な女性なんだけど、先程の事件のせいか、いつもと様子が違う。
 ユーリヤが眠そうに、というか殆ど眠っている状態に近いので、メイドさんに預けて俺は謁見の間へと急ぐ。

「失礼します。第三王女直属特別隊隊長ヘンリー=フォーサイスです」

 魔族からフローレンス様を助けて勲章を貰った時以来となる謁見の間へ行くと、国王様とフローレンス様、そして以前俺をスカウトしてきた騎士団長の三人が居た。
 国王や第三王女が居る謁見の間に三人しか居ないという一目で異常事態だとわかる状況で、真っ先にフローレンス様が王女モードで口を開く。

「ヘンリー=フォーサイス隊長。急にお呼び立てしてしまい、申し訳ありません。ですが、時間も無いので率直に要件を伝えます。魔族が……街に魔族が現れました」
「えっ!? ま、魔族ですか!?」
「はい。より正確に言うと、魔族ではないかと疑う程、強力な者が現れ、街で暴れているという事です」

 魔族と聞いて、魔法学校に生徒として潜入していたオリバーの事を思い出す。
 目的は未だにハッキリとわかっていないが、フローレンス様を狙っていた事だけは確かだ。
 はっきり言って、人間に化けられると見た目では全く気付けないので、オリバー以外にも居るのではないかと思っていたが、やはり存在したらしい。
 だが仮に魔族だとしたら、今まで人間に紛れて過ごしていたのに、どうして街で暴れるという目立つ行動を取ったのだろうか。

「あの、魔族だと疑う根拠は何でしょうか? 正直言って、魔族が堂々と街で暴れるなどというのは考えにくいのですが」
「先程も申し上げた通り、魔族ではないかもしれません。ですが……その、異様な強さと申しますか……」

 フローレンス様が言い難そうにしていると、直立不動で立って居た騎士団長が口を開く。

「姫様。ここは私から説明させていただきます。ヘンリー殿。現在、我が騎士団の二隊が現地に居るのだが、最初に駆けつけた第一騎士隊は全滅。第二陣として向かった魔法騎士隊も半数が戦闘不能となり、残った半数が状況を知らせに戻って来たという状況となっている」
「騎士隊が全滅!? 正規の騎士たちが!?」
「あぁ。報告によると、暴れているのは二十代半ばの男が一人だけ。魔法は使わず、物理的な腕力だけで数十人の騎士隊を圧倒。一方で、魔法騎士隊による遠距離からの魔法攻撃は、着弾しているにも関わらず、効いていないそうだ。今は第二騎士隊と街の自警団などが街の人々を避難させている。誠に遺憾だが、我が騎士団では足止めをするのが精一杯なのだ。ヘンリー殿、力を貸していただけないだろうか」

 なるほど。
 たった一人で数十人をもろともしないとなると、確かに魔族だと疑わざるを得ないな。

「わかりました。一先ず向かいます。今、その男はどこに居るのでしょうか」
「最初に爆発があったのは、錬金ギルドだ。今は、そのすぐ近くの広場で何とか足止めをしているという状況だ」
「錬金ギルドですね。わかりました。今すぐ出ます」
「すまない。すまないが……頼む」

 緊急事態なので今すぐテレポートを使いたいという気持ちを抑えつつ、俺は急いで謁見の間を後にした。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです

やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」  ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。  あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。  元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……  更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。  追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に! 「――わたし、あなたに運命を感じました!」  ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません ※他サイトでも投稿しています

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...