上 下
95 / 343
第5章 新たな試練

第95話 カミングアウト

しおりを挟む
「ん……あ、あれ? 私……どうして?」
「あ、シャロンさん。目が覚めました? お仕事が大変だったんじゃないですか? 疲れて眠ってしまうなんて」
「え? 私、寝てたんですか? ……確かに寝るのは好きですけど、お仕事中に寝ちゃった事なんて、ちょっとしか無いのに」

 いや、ちょっとでも仕事中に寝た事があるのかよ。
 少しすると、倒れたシャロンさんが不思議そうに小首を傾げ、慌てだす。

「そ、そうだっ! 壁っ! 壁がっ!」
「か、壁? 何の事ですか?」
「え? ヘンリーさんも一緒に見ましたよね? あの壁を」
「……な、何の事か分からないです。か、壁の穴なんて、知りませんけど? 夢でも見ていたんじゃないですか?」

 あ、あれ? どうしてだろう。
 完璧にシャロンさんが夢だと思うように仕向けたはずなのに、物凄いジト目で俺を見てくる。
 まるで俺の事を疑っているかのようだ。

『……語るに落ちるとは、こういう時の事を言うのでしょうか』
(どういう意味だよ。別に俺は変な事を言っていないだろ?)
『ヘンリーさんがそう思うのなら、それで良いんじゃないですかねー』

 良く分からないアオイはさて置き、シャロンさんは何とかしなければ。

「そ、そうだ。シャロンさん、その大変な事になっているという壁を実際に見てみましょうよ」
「……」

 現実逃避中なのか、何も言わず、動こうともしないシャロンさんの手を取り、ユーリヤが壊した壁の位置へ向かう。

「あ、あれ? 確かに、この壁が壊れていたはずなのに!」
「ね、穴なんて開いてないでしょ? やっぱり疲れていたんじゃないですか?」
「……私、穴が開いているなんて、一度も言ってないんだけどな……」

 シャロンさんの呟きに内心冷や汗を掻きながらも、壁に問題が無い事を確認してもらい、強引に話題を変えてみる。

「あ、そうだ。シャロンさんが持って来てくれた資料を読んでいると、聖剣などの伝説の武器は、大半がドワーフか巨人によって鍛えられたって書いてあったんですよ」
「そうでしょうね。ドワーフは全員が鍛冶師であり、戦士だと言われる程の種族ですし、巨人の中は神様から鍛冶のスキルを賜っている者が多いと聞いた事があります」
「で、ですね。人間の鍛冶師ではなく、ドワーフか巨人の鍛冶師に聖銀を鍛えてもらえば良いと思うんですよ。これ、良くないですか?」

 シャロンさんが壁を気にしつつも、俺の思惑通りに話に乗ってくれた。

「確か、鍛冶師ギルドで聖銀の加工を断られたんでしたっけ。ドワーフや巨人の鍛冶師であれば、聖銀の加工も出来そうな気がしますね」
「でしょ? うん、我ながら良いアイディアだ」
「ですが、巨人の国もドワーフの国も、現在どこにあるか分からないという状況です」
「えっ!? そ、そうなんですか?」
「えぇ。ヘンリーさん。今まで、巨人の話なんて聞いた事がありましたか?」
「……無いですね」

 言われてみれば、今まで生きて来た中で、巨人の存在自体を聞いた事が無い。
 だけど、伝説の存在と言われたドラゴン――ユーリヤだけど――を見た事もあるんだ。巨人だって探せば見つけられるのではないだろうか。

「しかし、目の付けどころは良いのではないでしょうか。巨人は伝説の中の存在で、現在は手掛かりすらありませんが、ドワーフはまだ可能性があります」
「そうなんですか?」
「はい。ドワーフは鉱山を採掘し、掘りつくしたら次の鉱山へ……という常に移動する種族です。ドワーフと同じレアな種族――エルフは気に入った場所に定住するので、そちらと比べると探すのは大変ですが、巨人に比べればまだ可能性はあるかと」
「そうなんですね。エルフの村は見つけるのに数日掛かったから、ドワーフだと一ヶ月くらい掛かるのかな?」
「……え? エルフの村を見つけたんですか!?」

 あれ? エルフの村の場所を知っているのって、結構凄い話なのか?
 フローレンス様は特に何も言っていなかったけど……誤魔化した方が良いのかもしれない。
 どうしようか。エルフがダメで、巨人やドラゴンなんてもっての外。ドワーフはこれから探す訳だし、他の種族って……あ、アタランテの猫耳はどうだろうか。

「え、エルフじゃなかったです。えっと、猫耳……そう、猫耳の村を見つけたんです。いやー、あの猫耳達は性欲が強いですよねー。あっはっは」

 エルフが勘違いだったと伝えるために、それらしい情報を付けて迫真の演技をすると、

『ヘンリーさん。今の棒読みの言葉は何ですか? というか、性欲が強いのはヘンリーさんもですよね?』
(いやいや、俺は普通だって。男はだいたいこういう生き物なんだって)
『どうでしょうねぇー』

 何故かアオイが呆れだす。
 そして俺の言葉を聞いたシャロンさんが、どういう訳か物凄く食いついてきた。

「あ、あのっ! 猫耳……つまり、獣人族の村を見つけたって本当ですか!?」
「え? えぇ、も、もちろんです! じ、獣人族の人たちは、皆大きな耳が付いてますよね」

 もちろん俺は獣人族の村なんて知らないし、唯一アタランテが猫耳というだけなのだが、どうしてこんなにシャロンさんが必死なのだろう。
 大きな胸が俺の腹にくっつく程に近寄り、じっと俺を見上げていたかと思うと、シャロンさんがずっと目深に被っていたフードを外し、

「あ、あの、実は私も獣人族なんです。牛耳族っていう種族なんですが、どうか私を獣人族の村へ連れて行ってはくれないでしょうか」

 唐突なカミングアウトをされてしまった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです

やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」  ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。  あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。  元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……  更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。  追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に! 「――わたし、あなたに運命を感じました!」  ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません ※他サイトでも投稿しています

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...