上 下
82 / 343
第4章 マルチタスク

第82話 パンつくれる?

しおりを挟む
「ちーさくなった。ごはん!」

 ドラゴンだった幼女が片言で話しかけてくる。
 察するに、身体を小さくしたから、少量でも構わないから食料をくれという事か。

「……とりあえず、今持っている分はこれが最後なんだ。戻れば、もう少し食料があるから、今はこれで我慢してくれ」
「わーい! ごはんー!」

 俺たちの分として残していた野菜や肉を挟んだパンを渡すと、小さな手で受け取り、美味しそうに食べ始める。
 アオイの推測通り、何らかの理由により空腹では死なないけど、お腹は空いていたんだな。

「お兄さん、きっとあれだよ! あの白く光輝く鉱物……あれが聖剣の材料となる聖銀に違いないよ!」

 ドラゴンの巨体が無くなったので、洞窟の奥が良く見えるようになったからか、マーガレットが洞窟の奥を指さして声を上げる。

「よし、行こう」

 全裸のまま嬉しそうにパンを食べているドラゴン幼女に適当な服を羽織らせると、一先ずそっとしておいて四人で奥へと向かう。
 そこは神々しく白い輝きを放つ岩に囲まれて居た。

「うん。聞いていた通りだよ。この岩から光の力を感じる……これを持ち帰れば、きっとお兄さんの望む武器が作れると思うよ」
「そうだな。よし、持って帰るか」
「貴方、良かったわね」

 マーガレットとアタランテと共に喜んで居ると、

「……お兄ちゃん。こんなに大きな岩を、どうやって持って帰るの?」
「え? そ、それは、魔法を使って……」
「ここ、使える魔法が制限されてるよ?」

 ルミの言葉で新たな悩みが生まれる。
 あぁ、その通りだ。こんなに大きな岩だなんて思っていなかったから、持ち帰る手段を何も考えていないさ。

『開き直った!? ……とりあえず、砕いて小さくしてみたらどうですか?』

 アオイのアドバイスにより、具現化魔法で大きなハンマーを作ってみた。

「いくぜっ!」

――ガィン!

「……見事に無傷だな」
「そ、そうだね。貴方、ハンマーよりもツルハシにしてみたら?」
「分かった」

 今度はアタランテのアドバイスでツルハシを作りだし、全力で振り下ろす。
 すると、大きな音を立てて、ツルハシが砕けた。

「具現化魔法で生成したツルハシだと、強度が足りないのか?」
『というより、聖銀が硬過ぎるんですよ』

 困った。小さく分割しなければ運び出す事も出来ないし……

「そうだ。これならどうだ? ……ブレッシング!」

 聖銀があるから使えるようになった神聖魔法で、身体を強化する。
 魔物を素手で殴り倒したり、魔族を倒す程の身体強化魔法だ。これならいけるはず!

「ハァッ!」

 身体強化状態でハンマーを使ったのに、ハンマーがひしゃげてしまった。
 こ、これは……かつて魔物を倒した時の様に、素手で殴るか? ハンマーが砕ける程の強度なので、流石にちょっと怖いが。

「お、お兄ちゃん? 何も持って居ないけど、まさか……」
「あぁ、そのまさかだ。大丈夫。ここなら回復魔法が使えるから、最悪それで治す」
「えぇっ!? お、お兄ちゃん、早まらないで……」
「タァッ!」

 ……痛い。
 物凄く、痛い。
 強化されているから手が折れたりはしていないが、聖銀の岩も傷一つついていない。

「これ、どうやったら持って帰れるんだ?」

 ルミが俺の手を取り、「痛いの痛いの飛んで行けー」と言っていると、

「ごはん……」

 幼女ドラゴンが悲しそうな表情を浮かべてやってきた。
 しかも、織らせた服が何か理解していないのか、また全裸になっている。

「ごめんな。さっきも言った通り、パンはもう無いんだ」
「パン……ない?」
「あぁ、すまない。今は持ってないんだ」
「パンつくれない?」
「ここでは無理だな。戻ればあるんだが……この岩が砕けなくてな」
「いわ、くだいたら、パンつくれる?」
「あぁ。作るというか、パンは沢山あるよ」
「わかった」

 どうやら理解してくれたらしく、ドラゴン幼女が大人しく待ってくれるようだ……

「って、何をする気だ?」
「パン、たべたい」

 そう言いながら、ドラゴン幼女が小さな腕で聖銀の岩を殴る。
 その直後、激しい轟音と共に、聖銀の岩が吹き飛んだ。

「いわ、くだいた。パンほしい」
「……マジかよ」

 俺が身体強化魔法を使って全力で殴ったのに、びくともしなかったのが、ドラゴン幼女の一撃で砕ける……ドラゴン怖ぇ!
 冗談抜きに、戦わなくて良かった!
 というか、魔族よりもドラゴンの方が強いんじゃないのか!?

『ですが、ドラゴンは圧倒的に数が少ないですからね。それに、人間と魔族との戦いに積極的な関与はしないでしょうし』
(そうか。ちょっと残念だな)

 一先ず、身体強化魔法を駆使して、砕けた聖銀の岩を幾つかを運び、五階層に作った小屋まで戻って来た。

「パン? パンつくるの?」
「作らなくても、沢山用意してあるから、食べて良いよ」
「わーい! ありがとう!」
「俺たちも食事にして、ちょっと休憩しよう。流石に疲れたよ」

 もしょもしょと、小さな手と小さな口で大量のパンを食べるドラゴン幼女を横目に、少しだけ食事を口にした俺たちは、そのまま床に突っ伏し、泥の様に眠ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...