上 下
75 / 343
第4章 マルチタスク

第75話 獣じゃなくてケダモノ

しおりを挟む
 轟音と共に俺の身長の二倍程の背丈で、全身が石で出来たストーンゴーレムが奥から三体やってくる。
 退魔スイッチの入ったマーガレットでも、流石にこの数の相手はキツイだろう。

「アタランテ! ルミ! 奥の一体を牽制してくれ!」

 二人の返事も待たずに飛び出し、マーガレットの横に並ぶと、一体のゴーレムと対峙する。

「はぁっ!」

 生成したクレイモアでゴーレムの右腕を切り落とし、続けざまに右足を薙ぎ払う。
 一先ず無力化したので、マーガレットと戦っているゴーレムの左足を断ち切ると、

「悪しき生命よ! くたばりなっ!」

 一撃必殺狙いのメイスが頭を粉砕した。

「次ぃっ!」

 マーガレットが叫びながら、俺が足を切って倒れていたゴーレムの頭をメイスで潰す。
 よ、容赦ないな。
 いや、相手はゴーレムだし、構わないんだけどさ。
 そんな事を考えている内に、アタランテの弓とルミの土魔法で怯んだゴーレムの頭をマーガレットが粉砕する。

「次ぃぃぃっ!」
「マーガレット! 一人で行くなっ! ……くそっ、アタランテ、ルミ。マーガレットの援護を頼む!」

 リビングアーマー程度なら放っておいても良かったが、流石にゴーレムを同じように殲滅出来るかというと、そうはならない。
 中身が空洞のリビングアーマーとは違い、ストーンゴーレムは身体が石そのものだ。
 細い――と言っても、俺の腰周りくらいの太さがある――手足なら一撃で斬り落とせるが、大きな身体を斬ろうとすれば、途中で剣が止まるだろう。
 だからこそマーガレットも頭部狙いなのだが、それでも脚を破壊して倒れさせ、それから頭部を破壊……と、最低でも二撃必要だ。
 なので、前を行くマーガレットを心配していると、

「あははは……あーっはっはっはーっ!」

 高笑いしながら、ゴーレムを次々と撃破していく。
 ……って、マーガレットは普通に強いな。
 ストーンゴーレムばかりだったのが、途中からアイアンゴーレムに変わり、更に強度が上がっているはずなのに、問題無く倒していく。
 五階層は大きなゴーレムばかりだったのだが、数がそこまで多く無かった事もあり、あっさりと六階層へ続く扉に到達してしまった。

「お兄ちゃん。何だか、今までと扉が少し違うよー。開ける?」
「どう違うんだ?」
「えっとねー、扉に込められている魔力が濃い感じがするー」
「なるほど。ゴールが近いって事かな? とにかく進む以外の選択肢は無いし、開けてくれ」
「はーい」

 ルミが六階層へとの扉を開くと、その奥にエルフの魔法の扉ではなく、大きな普通の扉が控えていた。

「この扉はなんだ? ゴールって事か?」
「何だろうねー? お兄さん、一先ず開けてみる?」

 そうだな……と答えようとして、相手がマーガレットだと気付く。
 退魔スイッチがオフになっているし、この扉の先にゴーレムなんかの類は居ないという事だろう。
 マーガレットに開けるように返事をすると、扉の先には大きな空間が広がって居て、その空間の高さ――ゴーレムの更に倍くらい――へ到達しそうな程の大きなピンクスライムが居た。
 つまり、ボスの部屋って事だ。

「撤収ぅぅぅっ!」

 即座に全員を扉の手前まで戻し、大きな扉をパタンと閉めた。

「貴方、どうして引き返したの? 相手はただのスライムでしょ?」
「……アタランテ。もしかして、覚えてないのか?」
「何を?」

 今のやり取りから察するに、アタランテはライオンになっている間の事は覚えていないのか。
 で、元の姿に戻って俺の顔を舐めていた事は覚えていると言った所なのだろう。
 しかし、特大ピンクスライムがボスなのかよ。
 普通のサイズのピンクスライムなら斬って終わりだけど、高さだけでも軽く俺の四倍くらいあるし、横幅なんて比較にもならない程だ。
 本来、スライムなんてせいぜい服を溶かしたりする程度だけど、あそこまででかいと、取り込まれれば窒息死なんて事も有り得るし、もしかしたら溶解液も強力かもしれない。
 さて、どうしたものか。
 ピンクスライムの毒で大変な事になってしまうアタランテは、先ず戦闘に出せない。
 毒が効かない俺とマーガレットを前衛に、おそらく効かないであろうルミが後方支援と言った感じか。
 ……まぁルミに効かないというのはクリムゾンオーキッドの幻覚の話であって、ピンクスライムの毒の事についてリリヤさんは何も言っていなかったけど、ある意味似たような物だから大丈夫だろう。たぶん。

「よし、決めた。マーガレットは俺と共に前衛としてピンクスライムを攻撃するぞ」
「えー。また服が溶けちゃうよー。お兄さんのえっち!」
「今回はそういうのじゃないって。というか、あの大きさなんだから、ふざけていると、足元を掬われるぞ」
「今回は……という事は、やっぱりこの前は私の裸が見たくて……もう、それなら夜に私を部屋に読んでくれたら良いのに」
「はいはい。じゃあ次、ルミだけど……」
「流されたっ!? お兄さん、私結構本気だよ!?」

 マーガレットはどうせ俺をからかいたいだけなので相手にせず、次はルミに作戦を伝える。

「ルミは弓矢か土魔法、どちらか好きな方で、遠距離から攻撃してくれ」
「はーい!」
「前衛の俺たちを巻きこまなければ、ルミの判断で臨機応変に戦ってくれ」
「わかったー」

 そして最後は、最も戦力として期待していたのだが、相性の悪さゆえに待機となってしまったアタランテだ。

「アタランテは、ここで待機な。以上」
「ちょ、ちょっと待ってよ。貴方、どうして私だけここで待機なのさ」
「まぁ何て言うか、俺がいろんな意味で食べられそうになるから……」
「……どういう意味なのさ」
「そういう意味だよっ! 最初はノーマルが良いんだっ!」
「いやいや、そんなの全く納得いかないって。ねぇ、どうして?」

 アタランテが食い下がって来るが、どうしたものか。
 せっかく欲求不満の話から復活したし、都合良く獣化の時の事を覚えて居ないし、出来れば真実を告げずにいたいのだが、

「……猫のお姉ちゃんがあのピンクスライムの毒を受けると、獣じゃなくて、ケダモノになるからじゃない?」
「どういう事?」
「だから、欲求不満が爆発して、戦闘中なのにお兄ちゃんを襲いだすからでしょ」

 言ったー! ルミがぶっちゃけたーっ!
 そして何か思い当たる節があったのか、アタランテがその場で膝を抱えて座り込み、いじけてしまった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...