上 下
52 / 343
第4章 マルチタスク

第52話 現状整理

しおりを挟む
 フローレンス様からジェーンを王宮に連れて来て良いと言われたので、一先ずニーナに自主訓練を指示して、一旦城を出る事にした。
 王宮の外へと続く廊下を歩きながら、現状を整理してみる。

 先ず、本来の最優先事項は魔王や魔族に対抗するための聖剣――の材料である、聖銀の採取だ。
 これは、北西にあるフィオンの洞窟という場所で採れる事が分かっていて、エルフであるルミを連れて行く事が必須条件となる。
 だが困った事に、この洞窟は土系統の魔法しか使えないらしい。

 次に、俺個人としての最優先事項は、魔法学校を卒業する事だ。
 フローレンス様直々に王宮への内定を貰っているが、それも魔法学校を卒業する事が大前提となっている。
 残り半年程、俺は未だ魔法学校の授業に出て、定期試験も受けなければならない。

 後は……その内定しているフローレンス様の管轄、第三王女直属特別隊の隊長として、唯一の隊員ニーナの剣の腕前を向上させる事か。
 必須という訳ではないが、残念ながら今のままではニーナは使えない。仕官学校の生徒より劣る騎士とか、どうしろと。
 しかし普通の剣術であれば俺が教えても構わないのだが、ニーナの場合はその大き過ぎる胸が邪魔になって腕が鈍っている。
 これについては俺から何もアドバイスする事が出来ず、同じく大きな胸なのに、剣の腕が優れているジェーンに頼まなければならない。

『ヘンリーさん、大忙しですね』
(あぁ。魔法学校の再開は当然と言えば当然なんだけど、完全に失念していたしな)

 現在召喚している英霊は、この俺の中に居る賢者のアオイを含めて四人だ。
 女騎士であり、聖女とも呼ばれる巨乳のジェーン。
 狩人で弓矢の名手である猫耳少女アタランテ。
 退魔を得意とする聖女マーガレット。……まぁ、マーガレットについては、召喚したばかりで、何が出来るのかまだ良く分かっていないのだが。

 ちなみに召喚した英霊は、錬金術士でありクラスメイトでもあるエリーに協力してもらう事で、実体を得ることが出来る。
 さて、俺が魔法学校の授業に出なければならない訳だが、これから誰に何をしてもらうべきだろうか。

『とりあえず、フィオンの洞窟を攻略しないといけませんよね?』
(あぁ。だが、魔法があまり使えない場所だから、ジェーンかアタランテのどちらかに対応してもらおうと思うんだ)
『そのお二人は魔法ではなく、剣と弓矢が武器ですからね』
(しかし、ジェーンには王宮でニーナの指導に当たって欲しいんだよな。あのままではニーナが使えないし、逆にニーナを使えるようにしておけば、今後第三王女直属特別隊として出来る事が増えそうだしな)
『おぉ、何だか隊長っぽいですね。ヘンリーさん』
(一応、隊長に任命されているからな。……けど、そうなると洞窟の方をアタランテに担当してもらう事になるんだが、アタラントとルミの仲があまり良くなさそうなんだよなー)
『良くなさそうというか、思いっきり争ってますからね』
(そうなのか? しかし、争うって言っても、何を争っているんだ?)

 あ、あれ? 急にアオイが黙り込んでしまったけど、どうしたんだ?

『いえ、ヘンリーさんの自覚の無さに呆れていただけです。気にしないでください』
(アオイは何を言っているんだ?)
『いやいや、本当に気にしなくてよいですから。それよりフィオンの洞窟はどうされるんですか?』
(とりあえず、ニーナに剣を教えるのはジェーンしか出来ないから、一先ずはアタランテにお願いしよう。ルミとは喧嘩しないように、改めてお願いしてみようか)
『上手く行くと良いですね。あと、マーガレットさんはどうされます?』
(そうだ、マーガレットだ。マーガレットもフィオンの洞窟攻略メンバーに含めれば、アタランテとルミだけという状況にはならないだろ)
『まぁヘンリーさんがそうされると決めたらのなら、良いんじゃないですかね』

 何故か投げやりな感じになってしまったアオイとこれからの方針を決めた所で、城の外へと出た。

「ハー君! おかえりー!」
「主様。お疲れ様です」
「貴方、お仕事お疲れ様」
「お、出てきたね。美少女が四人もお兄さんを待っていたんだよ。これはお家に帰ってから、ご褒美を貰わないとね」

 エリーとジェーン、アタランテはいつも通りの言動と共に抱きついて来て、一方でマーガレットは変な事を……って、ある意味いつも通りか。

「先輩……あの人って、確かフローレンス様の……」
「なんか、取り巻きの女の子が増えてないか? しかも、そのうちの一人は猫耳に尻尾って、白昼堂々とマニアックなコスプレなんだが」
「二人とも、何も言うな。俺たちは何も見ていないし、何も知らない。いいな? そうでなければ、俺たちの首が……」

 前回と同様に、城の門の傍に居る兵士たちが小声で色んな事を話しているけれど、一先ず無視して人気の無い場所へ向かう。
 いつもの如くワープ・ドアで俺の部屋へ移動し、四人にこれからの事を話す。
 エリーは授業が再開される事を普通に知っていて、しかも明日から授業が始まると……もっと早く教えてくれよ。
 ジェーンは若手の育成も騎士の務めだと、ニーナへ剣術を教える事を快諾してくれた。
 それから、アタランテにルミと一緒にフィオンの洞窟攻略をして欲しいと伝えると、

「ふふふ。どうやら決着を……じゃなくて、格の違いを教えてあげなきゃいけないみたいね」

 随分とやる気に満ち溢れた答えが返ってきた。

「いやー。お兄さん、これは面白い事になるね。私もフィオンの洞窟に参加して、間近で楽しま――もとい、しっかり頑張って来るよ」

 マーガレットも快諾してくれたし、いろいろと心配していたけれど、どれもただの杞憂だったらしい。

『いえ、違いますからね? ヘンリーさんは勘違いしまくってますから!』

 何故かアオイが一人で騒いでいるけれど、皆にそれぞれのやるべき事を説明し、予定通りに事が進む事になった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...