上 下
45 / 343
第3章 第三王女直属特別隊

第45話 勇者召喚?

しおりを挟む
「凄い。貴方は、こんな事まで出来るのね」

 テレポートの魔法で面倒臭――こほん。ロリっ子エルフから逃げるようにしてエリーの家の前へ移動すると、抱きかかえられたままのアタランテが俺から降りる事さえ忘れて、キョロキョロと周囲を見渡す。

「そっか。アタランテと居る時は使っていなかったね。一度行った事のある場所なら、こうして魔法で移動出来るんだよ」
「なるほど。それは良かったよ。またあの馬に乗って帰らないといけないのかと思っていたから」

 そんな事を話していると、突然エリーの家の扉が開く。

「あ、ハー君だ! アタランテちゃんも! ジェーンちゃんの言った通り、本当にハー君が居たよ!」
「はい。主様の気配を感じましたので」
「おかえり! ハー君っ! アタランテちゃん!」

 エリーがジェーンを従えて駆け寄って来て、突然抱きついてきた。
 うん。エリーのこの感触も久しぶりだ。

「ただいま。こっちは特に問題は無かったか?」
「うん。ジェーンちゃんと一緒に街をパトロールしていたんだけど、これと言って特に何も無かったかな」
「そうか。それなら良かった……って、どうしたんだ? その微妙な表情は?」

 一応ジェーンを残していったものの、まだ魔族が表立って何かをするとは思っていない――予想通りではあるものの、エリーの表情が少しだけ曇っている。

「あ、あのね……エリーも寂しかったから、アタランテちゃんみたいに抱っこして欲しいなー、なんて」
「あ。まだ抱っこしたままだった。けどな、エリー。これは魔法を使うためであってだな……」
「と、とりあえず私は降りておくね」

 いくら約一週間振りに会うとはいえ、用も無いのにお姫様抱っこするのは恥ずかしいので、エリーの頭を撫でる事で妥協してもらって、本題へ。

「さて、これからフローレンス様に魔族の動向を報告しに行くんだが、結論から言うと魔族の動向は分からなかった。しかし、伝説に出てくる魔王……こいつが実在して、今も生きているという事が分かったんだ」
「ふーん。そうなんだー」

 エリーは魔王に興味が無いのか、反応が薄い。だが俺も含めて、魔王を神話でしか知らないので、ある意味で当然の反応だとも言える。
 一方でジェーンはというと、魔王という言葉をどう思ったのかは分からないが、いつも通り畏まっていた。これは納得しているのか、それとも興味が無いのか、どっちだろう。

「で、その魔王の情報を得る過程で、俺はとても凄い事を思いついたんだ。そのために……エリーまた俺に協力して欲しい」
「エリーが? もちろん! エリーに出来る事なら何でもするよっ!」
「そう言ってくれると助かる。じゃあ皆、ついて来てくれ」

 そう言ってワープ・ドアの魔法を使うと、俺はまたもや学校の魔法訓練室へと移動した。

『ヘンリーさん。どうして、またここに?』
(ふっふっふ。さっきエルフの長老サロモンさんから、勇者と魔王の話を聞いただろ? 俺はそこで、凄い情報を得たんだ)
『凄い情報?』
(あぁ、勇者の名前だ。勇者ツバサ=キムラ――変わった名前だから、同姓同名なんて中々居ないはずだし、召喚魔法を使う時に名指しで指名すれば良いんだよ)
『なるほど。というか、私に聞いてくれたら勇者の名前くらいすぐに教えたのに』

 ……あ、本当だ。アオイは勇者と一緒に魔王討伐の戦いをしていたのだから、知っているに決まっているか。
 だけど、最初はアオイが魔王と戦った事を信じて居なかったから、その発想には至らなかったんだけどさ。

(そう言えば、勇者の名前もアオイの名前も珍しいけど、どこか外国から来たのか?)
『え? ……ま、まぁそんな所ですよ。そんな事より、私は召喚魔法に詳しく無いんですけど、名指しで呼ぶ相手を指名なんて出来るんですね』
(いや、やった事はないけど、出来るんじゃないか? ……たぶん)
『随分と適当ですね。まぁやってみれば分かる事ですが』
(そうそう、そういう事。というわけで、やってみるか)

「エリー。この数日でそこそこ魔物を倒してきたから、悪いけどまたホムンクルスを作ってくれないか?」
「ハー君との子供? うん、喜んでっ!」

 大量の素材の中からホムンクルスの製造に使える物を選びだして、以前と同じように精製し、

「クリエイト・ホムンクルス」
「グロウ・ホムンクルス」

 エリーが作ったホムンクルスの核を、俺の魔法で成長させた。
 これでホムンクルスの準備は整ったので、四度目となる魔法陣を描き、

「サモン!」

 強く「勇者ツバサ=キムラよ、来てくれ!」と念じながら召喚魔法を発動させる。
 すると、

「いっぇーい! 現世だ! ひっさしぶりの現世だー! おぉー、空気が美味しぃー!」

 随分とはっちゃけたゴーストが現れた。

(アオイ。これが勇者ツバサ=キムラなのか? 随分と俺のイメージと違うんだが)
『いいえ。全然ツバサと違いますね』
(なるほど。名指しで念じても、俺が思っている英雄が来てくれる訳ではないのか)

「やぁやぁ、今回は呼んでくれてありがとう。久しぶりの現世を堪能させてもらうよ。ホント、ウルトラハッピーだよー」
「……チェンジで」
「えぇぇぇっ! ちょっと、どうして!? これでも私はれっきとした聖女だよ? というか、来たからには帰らないからね?」
「聖女ねぇ。俺の知っている聖女と全く違うんだけど」
「や、ホント。ホントに聖女なの。信じて、お願い! 私、こう見えて退魔とか得意なの! ……今はゴースト状態だから、退魔スキルで自分自身が滅びちゃうけどねっ!」

(アオイ。こいつ、本当に大丈夫か?)
『私には何とも。とりあえず、退魔が得意って言っているので、今の状況には良いんじゃないですか?』
(まぁ確かに、これから魔族と戦ったりするんだろうし)

「じゃあ、とりあえず名前を教えてくれ。話はそれからだ」
「私? 私はマーガレット。退魔だけじゃなくて、妊娠や出産の加護もあるから、子供が欲しくなったら声を掛けてね」
「……まぁそれはさておき、俺たちは魔王や魔族と戦わなければならないんだが、退魔が得意だっていうマーガレットの意見を聞かせてくれないか?」
「気合で頑張る?」
「よし、チェンジ……」
「えっと、アレよ! 聖剣。魔王や魔族は聖剣に弱いでしょ? 聖剣を手に入れれば良いのよ」

 マーガレットが妊娠の加護を持つと言った時、何故かエリーがもっと詳しく話を聞きたそうだったのだが、それはさておき聖剣の話だ。
 言っている事はまともだし、的を得ているのだが、その案は一つ決定的な問題がある。

「うん。聖剣があれば話は早いよな。でも、その聖剣がどこにあるかなんて、誰も知らないだろ?」
「え? 私知ってるよ? というより、正しく言うと聖剣の材料がどこにあるか知ってる」
「何!? どういう事だ!?」
「……ふっふっふー。教えて欲しかったら、ゴーストじゃなくて私の姿を何とかしてよー。お兄さんは召喚士なんだから、何とか出来るんでしょー?」

 こ、こいつ。優位に立てたと分かった途端に、態度が戻りやがった。
 だが、仕方が無い。オリバーレベルの魔族なら、聖剣が無くても勝てるだろうが、それより強い魔族や魔王には有効な武器があった方が良いだろう。

「仕方が無い。エリー、マーガレットをホムンクルスとして呼び出してくれ」
「うん、わかったー。コール・ホムンクルス! 貴方の名は『マーガレット』」

 エリーの言葉に応じてホムンクルスとマーガレットの霊魂が混ざり合い、赤毛の綺麗なお姉さんが現れた。

「やったぁー! 身体だぁーっ! これで私は、何でも出来る! 何でもなれる!」

 何でもなれる……って、一体何をする気なのだろうか。というか、マーガレットは聖女なんだよな?

『調べてみましたが、一応聖女ですね。しかも、そこそこ位が高いです』

 マジかよ。生前は素の性格を隠していたのか? と考えていると、

「そのお姿は……あぁ、十二歳の時に私を導いてくださった聖女そのもの。まさか貴方様だったとは」

 ジェーンがマーガレットに畏まる。
 詳しく話を聞くと、生前のジェーンが聖女らしい振る舞いのマーガレットに導かれたのだとか。

「え? えぇ? えっと……コホン。まさかこの時代で信徒に会う事が出来るとは。私はこの奇跡を嬉しく思います」
「いや、今更手遅れだから! もう、どうやっても挽回出来ないから!」

 以前の自分を知るジェーンを前に、何とかマーガレットが取り繕うとしていたが、もうどうにもならないくらいに素が出ていたのだった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

処理中です...