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第3章 第三王女直属特別隊

第42話 勇者と魔王の戦い

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「勇者と魔王の戦いの話ですかな? 私共もリンネア=リーカネンの記録を読んだなのですが、それでも良ければ」
「はい。特に、勇者と魔王の戦いが始まった辺りからの事を知りたくて」
「ほうほう、分かりました。では、少し昔話をいたしましょう」

 アオイの望みにより、先ずは勇者と魔王が戦った時の話をサロモンさんから聞く事に。

「ご存知だとは思いますが、人間の勇者ツバサ=キムラを筆頭に、後の剣聖ノエル=レスピナス、弓聖リンネア=リーカネン、そして名もなき賢者の四人でパーティを組み、魔王と戦ったと記されています。それはそれは激しい戦いだったそうで……」

『って、ちょっと待ちなさいよっ! 名もなき賢者ってどういう事なの!? やりやがったわね! あの、バカエルフッ!』
(お、おい、アオイ。落ち着けよ。言葉使いとか、キャラが崩壊してるぞ?)
『だ、だって、記録を使命としているくせに、私の名前だけわざと後世に残さなかったんですよ? 酷くないですか!?』
(いや、わざととは限らないだろ? たまたま、アオイの名前をど忘れしたのかもしれないじゃないか)
『いいえ、絶対にわざとです。最初から、私とあのバカエルフは気が合わなかったんですよ!』

 ……神話レベルの勇者パーティなのに、仲が悪かったのか? というか、よくそんな状態のパーティで魔王に挑もうと思ったな。

『まぁ表向きは、私もリンネアも普通にしていましたからね。戦いとなれば、ちゃんと全力でしたし』
(じゃあ、どうしてさっきの話になるんだ? わざとだとか、気が合わないだとか)
『……ヘンリーさん。どうしてリンネアが弓聖って言われているか分かりますか?』
(弓の扱いが上手かったからじゃないのか?)
『そうですね。確かに上手かったです。前線で勇者と剣聖が接近戦をしている中、敵にだけ矢を命中させていましたし。ですが、彼女はエルフです。弓矢よりももっと代表的なスキルがあるでしょ?』
(魔法か。普通はエルフと言えば、人間とは比べ物にならない程の魔力があって、凄い魔法を使うよな)
『えぇ。実際、パーティに参加した当初の彼女は精霊魔法で戦っていたんです。ですが人間である私の方が魔法に秀でていて、彼女が自ら魔法を使うのを止めてしまって……』

 なるほどな。エルフの代名詞とも言える魔力が人間に負けたとなれば、プライドも傷つくか。
 アオイの名前を残さなかったのは、せめてもの小さな仕返しといった所だろう。

「……と、勇者が魔王の片腕を切り落とした時です。魔王が最期の切り札として、圧縮させた巨大な魔力を解き放った爆発により賢者が生き絶え、勇者を庇った剣聖も亡くなってしまったのです!」

 気付けば、いつの間にかサロモンさんの話が魔王と勇者の戦いにまで進んでいる。
 しかも随分と熱が籠った語り口なので、「ちゃんと聞いていなかったので、もう一度お願い出来ますか?」とは流石に言えない。

「魔王を追い詰めたものの、仲間を失い、余力も無い勇者はある決断をします。一か八かで魔王を倒そうと試みるのではなく、自らの命を賭して光明神の力を借り、確実に魔王の力を封じると」

 サロモンさん、物凄く熱く喋っているけど、大丈夫かな? 興奮し過ぎて突然倒れたりしないよね?
 魔王と勇者の話そっちのけで、お爺さんエルフの心配をしていると、

「勇者は宣言通り魔王を封じて生き絶え、唯一生き残ったリンネアが、その後の魔王の観察と記録を誓って魔王城を脱出。魔王封印を世に広めると共に、このエルフの村へ魔王観察の任を命じられたのです」

 あっという間に話が終わってしまった。

『なるほど。勇者は――ツバサは魔王退治を後世に託し、その命をもってあの時代の世界を守ったのね』
(そういう事みたいだな)
『だったら、その託されたヘンリーさんが、勇者の後を継いで魔王を倒さないとですね』
(いや、俺が勇者というのは少々おこがましいが、だけど勇者のおかげで今この世界があるのは確かだ。だったら、出来る事はしておきたいな)

「貴重なお話をありがとうございます。ちなみに、そのリンネア=リーカネンさんの命により、今も魔王観察をしているという話ですが、最近何か変化はありましたか?」
「最近ですか? いえ、何もなく平和なものですよ。十数年前にほんの少し魔力の変化があったりもしましたが、結局何も起きておりませんし」
「なるほど。そうですか……」
「どうかされたのですかな? っと、そう言えば、わざわざこんな村まで起こしになられたのですから、何かあったと言う事なのでしょうが」
「……お察しの通りです。実は……っと、こちらの方は、信頼出来る方々ですよね?」
「もちろんですじゃ」

 魔法学校内では誰もが知る事実だし、王宮内でも皆が知る話ではあるが、別の種族へ大っぴらにするか否かは俺たちが決める事では無いだろう。
 一先ず、この部屋に居る長老サロモンさんと、最初に村の入口で出会った女性しか居ない事を確認して、先日魔族が現れた事を話す。
 驚く二人のエルフを前に、現在王宮として対策を考えている所だと告げ、

「ふぅん。そんな事があったのかい。貴方も大変なのね」

 アタランテが俺を労い、ギュッと抱きついてくる。

「って、そうか。アタランテには簡単にしか話してなかったっけ」
「うん。詳しい内容は初耳だよ。だけど、魔族だろうと魔王だろうと、何が相手でも絶対に貴方を守るから安心して」
「ほっほっほ。若い方々は宜しいですな」

 エルフからすれば、人間は全員若いと思う……と、サロモンさんの言葉に心の中でだけツッコミつつ、

「一先ず、未だ魔王に変化は見られないという事は分かりました。ですが、水面下で何かが胎動しているような気もします。一旦王宮へ戻って今後の方針を考えます」
「そうですか。相手が魔王となれば、我らエルフの民も協力は惜しみませんぞ。何かありましたら、是非ご連絡くだされ」

 良い感じで纏める事が出来た。
 ちなみに、この村への遠征は、第三王女直属特別隊としては何の成果も見えないように思える。
 だが俺にはここで大きく得る物があったので、早くそれを試すために帰ろうとした所で、

「待ちなさいよっ! 話は全て聞かせてもらったわ! お爺ちゃんの目は誤魔化せても、このルミの目は誤魔化せないんだからねっ!」

 謎のチビッ子エルフに絡まれてしまった。
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