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第3章 第三王女直属特別隊

第38話 山の中のお風呂

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『ど、どうしましょう。ヘンリーさん、大変です』
(あぁ。そ、そうだな。どうしようか。……まさか俺が毎晩アタランテの胸を触っていた事がバレていたなんて)
『え? 何の話をしているんですか?』
(え? 俺の紳士的看病の話だが?)

 弱っていたアタランテの身体を紳士的に拭いてあげていたのに、それを毎晩胸を触っている変態だと言われ、リーダーの信頼に関わるパーティの危機だと思ったのだが、アオイは違う話をしているらしい。

『ヘンリーさんが変態なのは周知の事実です。今更そんな事を気にしなくても大丈夫ですよ』
(え? ちょ、それってどういう意味だよ)
『そのまんまの意味ですが、今はヘンリーさんが変態呼ばわりされる事なんてどうでも良いんです。それより魔王の事ですよ』
(いや、良く無いだろ。硬派で紳士なこの俺の真摯な行動が変態だなんて。それに、流石にパンツを脱がしたりはしていないのに)
『それはヘンリーさんがヘタレなだけでしょ……って、パンツの話はもう良いんです。真面目に聞いてくださいっ!』

 パンツの話をしたら、どういう訳か怒られてしまった。
 しかもヘタレって……つまり寝ている間に、アタランテのパンツを脱がすべきだったという事か!?

『……あくまで私の推測になりますが、勇者が魔王を倒したはずなので、それに伴って配下の魔族も消滅。だけど魔王の魔力に触れ、勝手に魔物化していた野獣までもは消滅していない……それがこれまでの世界の状態のはずです』
(まぁ、そうだな。俺たちからすれば、魔王や魔族なんて本当に居たのか? と疑う程の存在だったからな)
『ところが先日、消滅したはずの魔族が現れました。勇者が魔王を倒したにも関わらず魔族が現れたという事は、新たな魔王が出現したという事になります』
(そうかな? いや、まぁ良いや。一先ず最後まで聞くよ)
『はい。で、ですね。私が今、魔族の動向が分かるかもしれないと、向かおうとしている場所……それは、私たちが魔王討伐の旅をしていた頃に知り合った、魔王の活動を観察し、記録している種族が居るのです』
(凄い……そんな種族が居るんだ)
『えぇ。活動の記録のため、その種族の戦士も一人勇者パーティへ入っていました……が、その種族はあくまで私たちが倒した魔王について記録している訳で、別の魔王となれば何の情報も無い可能性があります』

 なるほど。つまり、数日かけて移動しているけれど、それの意味がなくなるかもしれないと、アオイが危惧している訳か。

(けどさ、そもそも勇者たちが魔王を倒した時点で観察と記録を止めている可能性があるんじゃない?)
『……そ、そうですね。じゃあ、今向かっている場所は、無意味!?』
(いや、何か情報があるかもしれないし、その魔王の活動を観察するのが趣味だっていう部族なら、新しい魔王の事についても、既に情報を得ているかもしれないじゃないか)
『趣味って……そこは使命とかって言って欲しいですが、とにかく、ヘンリーさんとしては当初の通りの目的地で構わないという事ですね?』
(あぁ。実際、俺にはアオイの示す行き先以外、何も行くアテすらないからね)

 アオイが大変だと騒いでいたが、大変も何も今は他に目指すべき物がないのだから、とにかく行ってみるしかない。
 そこへ行って、何も得られる物が無かった場合に、初めて大変だと次の手を考えれば良いんだ。
 街道とは大きく異なり、ある程度進んでは魔物と遭遇し、アタランテと共に倒す。
 倒したついでに魔物の素材を空間収納魔法へ貯め込んで居るから、街へ戻ったらエリーにプレゼントしよう。きっと錬金魔法の材料になるだろうし。
 しかし、歩き難い道なき道を進んでいる上に、魔物にも遭遇しているので、流石に日が暮れても街や村といった、宿がある場所に辿り付けない。

「今日の移動はここまでかな。どこかで野宿出来そうな場所を探さないと」
「そうだね。洞穴とかがあればベストだけど、無理ならせめて川や泉が近くにあると良いんだけどね」
「夜に魔物が襲って来るかもしれないから、周囲が見渡せる場所の方が良いかもね」
「あ、それは大丈夫だよ。今日は馬揺られてないからね。魔物の気配を感じたら、すぐさま飛び起きるよ。だから、とりあえず私が欲しいのはお風呂――が無理なのは分かっているから、水浴びが出来る所かな。今日は貴方に身体を拭いて貰わなくても良いしね」

 そう言って、アタランテがニヤニヤと笑みを浮かべながら俺を見てくる。
 アタランテのおっぱいを触れないのはちょっと……いや、結構残念だ。

「……って、待てよ。そうか、お風呂か」
「ん? どうしたんだい? まさか、一緒にお風呂へ入りたいとか言い出すのかい? 残念。お風呂があれば一緒に入れたんだけどねー。こんな山奥では水浴びがせいぜいで、お風呂なんて無いからねー」
「ふぅん。じゃあ、ここにお風呂があったら一緒に入っても良いと?」
「あぁ、良いよ。だけど、こんな場所でどうするんだい? 今から温泉でも掘るのかい?」
「ふっふっふ。今の約束、ちゃんと守って貰うからね……マテリアライズ!」

 具現化魔法で土の壁を生み出し、寮の部屋くらいの広さで四方を囲む。
 続いてその広さに合わせて床を作ると、空気穴を残しつつ、屋根を生み出し、光の精霊魔法で淡い光源を作りだす。

「え? えぇぇっ!? これって、小屋!?」
「その通り。まだまだ続くからね。マテリアライズ!」

 驚くアタランテを前に、自分の部屋に作った方法と同じ手順で簡易のお風呂を作りだした。

「はい、出来たよ。お風呂」
「う、そ……」
「ホント、ホント。さぁ、入ろうか」
「ほ、本気なのかな?」
「ちなみに、この部屋には出入り口が無いからね。一緒にお風呂へ入らないと出られない部屋だよ」
「え? え? えぇぇぇっ!?」

 戸惑うアタランテの前で服を一気に脱ぐと、一足先に少しぬるめのお湯の中へ。

「う、うぅ……や、約束だからね。は、入るよぉぉぉ」

『ヘンリーさん。二人っきりなのを良い事に、はっちゃけ過ぎです』

 俺は、少し小柄で猫耳と尻尾を備えた少し特殊な属性で、涙目になっている少女アタランテと、一緒に湯船に浸かるという新たな偉業を成し遂げた。
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