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第3章 第三王女直属特別隊

第37話 紳士的な看病

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 流石に弱っているアタランテの胸を触るのは人としてどうかと思ったので、結局俺は何もしない事に決めた。
 紳士だ。俺、非常に紳士的だ。

『あの、弱っているとか弱っていないとか関係なしに、それが普通だと思うのですが』

 アオイが何か言っているが、それはさておき、紳士な俺は弱っているアタランテの看病をしようと思う。
 一緒に旅をする事になった仲間なのだ。明日も移動はするし、元気になってもらわないと困るからね。

「という訳で、クリエイト・ウォーター」

 部屋にあった木桶に魔法で水を張り、同じく部屋にあったタオルを水に濡らすと、軽く絞って眠ってしまったアタランテの顔を拭いてあげる事にした。
 流石に女の子だし、身体は清潔にしたいだろう。だが、風呂へ行く体力も無いほど疲れているから、せめて身体くらい拭いてあげようという紳士的な行為だ。
 そう、あくまで紳士的に、そして善意で行っているのだ。
 小さな顔を優しく拭き、次は腕。大きな弓を使う狩人だけど、そこまで筋肉はついておらず、意外な事に手も小さい。
 ここで一度タオルを水に濡らし、再び絞ると、うつ伏せに寝ているアタランテのシャツをたくし上げ、背中を拭いていく。
 次はそのまま前へタオルを動かし、ベッドと身体の隙前へ手を入れるようにしてお腹へ。そのままタオルを上に移動させて――おっと、何やら弾力のある膨らみに触れてしまったが、これはなんだろうか。

「ん……」

 眠っているアタランテが小さく身じろぐが、あくまで紳士的に裸を見ない様に身体を拭いているだけなので、俺の手が――もといタオルが何に触れているかはサッパリだ。

『いや、どう考えても確信犯ですし、絵的に完全な黒ですからね?』
(何の事だ? 俺は明日アタランテが気持ち良く起きられるように尽力しているだけで、変な事は何もしていないが?)
『いやいやいや、そんな訳ないですよね? その証拠に、腕や背中は割と短時間で終わらせたのに、先程からその場所から手が動いてませんよね? 明らかに触ってますよね? というか、触りまくってますよね!?』
(何を言う。謎の膨らみがベッドに押し付けられているから、上手く拭けずに苦戦しているだけだよ。言いがかりはよしてくれたまえ。まったく)
『そんな事を言いながら、顔がニヤニヤしっぱなしなんですけどっ! もう既に気持ち悪い域に居ますよっ!?』
(何とでも言うが良い! 俺はあくまで、紳士的に看病しているだけなのだからな。はっはっは……あーっはっはっは)

 ……おっぱいって柔らかいなぁ。
 さてと。このまま一晩中触り続けて居たい所だけど、看病しようと思っているのは本当なので、名残惜しいが次だ。
 短いスカートから伸びるスラリとした細い脚を拭き、お尻へ。
 真っ白なパンツには切れ目が入れられており、そこから尻尾が伸びている。
 アタランテはライオンだと言っていたが、どう見てもこれは猫の尻尾で、時折ピクリと動く。
 ……流石に、こっちは怒られるな。正直、未知の領域なので、この機会に探究してみたい所ではあるが、おっぱいだけでも十二分に素晴らしい体験をさせてもらったので、またの機会にとっておこう。
 俺、紳士だからね。

『変態紳士さん。パンツの上からお尻を撫でるのもやめてあげてください。既にさっきの身体を拭くって設定すら無くなってますよ』

 アオイにも紳士的だと認められながら初日を終えた俺だが、二日目と三日目も同じように街道沿いを馬で走り、ぐったりしたアタランテを堪能――もとい看病した。
 そして四日目になると、ついにアオイの指示する方向が街道を外れ、森の中へ。それでも、何とか行き先に村があったものの、五日目は馬をその村に売り、俺とアタランテは山道を徒歩で進む事になる。
 最初はハイキング程度の獣道を進んでいたのだが、時折岩を乗り越えたり、川を渡ったりと、道なき道を進んで行く。
 街道沿いは騎士団や村の自警団が魔物の駆除を行っているものの、今俺たちが居る場所は人が絶対に来ないであろう場所なので、

「GYAOOOOO!」

 当然魔物たちが行く手を阻む。

「アタランテ、援護を頼む。中央の大型は俺が倒すから、周囲の中型を任せた」
「了解だよ」

 俺たちの倍ほどの背丈がある大きな猪を取り巻くように、中型――人間大の猪が数匹居るので、アタランテに弓矢で露払いしてもらい、俺は愛剣を手にする。

「ハァッ!」

 神聖魔法で身体強化を行った一撃は大型猪の太い前足を断ち切り、倒れた巨躯が周囲の木々を薙ぎ倒す。
 身体が大きい事もあり、三本の脚では起き上がれないだろうと、一旦大型の魔物から中型の猪に意識を移し、その中の一体を斬り倒す。

『ヘンリーさん! ダメです! 先に大型の止めを刺さないと!』
(ん? だが、もう奴は動けないだろ?)
『違います。動けない事に違いはありませんが、大型の魔物には眷族を呼ぶものも居ます』

 何の事かと思っているうちに、

「BUMOOOOO!」

 倒れた大型の魔物が先程とは違う叫び声を上げる。
 その直後、倒れた猪を取り囲むようにして、新たに中型の魔物が数体現れた。

「なにっ!? 召喚魔法か!?」
『召喚魔法とは少し違いますが、似たような類です。強力な魔物になると、眷族を呼び出し、自分を守らせるのです』
「こいつの息の根を完全に止めなきゃいけなかったのか」
『えぇ。それに、魔物の中には魔法を使うものも居るので、油断はいけません』

 アタランテに迫っていた中型の魔物を斬った後、一気に大型の魔物へ詰め寄ると、周囲の中型魔物を斬り捨てながら、最短距離で首へ。
 直径が俺の愛剣よりも長い首を一刀両断すると、今度こそ魔物が息絶え、そして中型魔物の姿が掻き消えた。

(魔物が消えた?)
『この中型の魔物は、この大型の魔物が生み出した眷族だったのでしょう。私――ヘンリーさんが用いる具現化魔法みたいなものです』
(なるほどな。これからは、魔物の集団が居たら、一番強そうな奴から倒す事にしよう)
『ですね。そういう意味では、全ての魔族を統べる王――魔王を倒せば、魔王から生み出された魔族が消滅する……あれ? でも、この前魔族が居た? という事は、勇者が倒した魔王とは別の、新たな魔王が出現した!?」
(え!? 魔王が出現って……魔王なんて、そんな簡単に出てくるものなのか!?)
『分かりません。分かりませんが、魔王は勇者が倒したはずなんです。その前に私は死んでしまったので、最後まで見届けられていませんが』
(……あのさ、時々アオイが魔王とか勇者だとか言っているけど、もしかしてアオイが魔王と戦ったとか、勇者パーティに居たって、本当の話なのか?)
『えぇっ!? 信じてなかったんですか!? 私、勇者と共に魔王と戦った大賢者なんですけどっ!』
(いやー、そうなんだ。悪い悪い。正直、魔王どころか魔族ですら、今の俺たちには伝説上の架空の存在みたいな物だったから)

 改めてアオイの存在に驚いていると、アタランテが近寄って来た。

「貴方、結構やるのね。あの巨大な猪を一撃だなんて。ただ、毎晩私の胸を触るだけの変態じゃなかったんだね」
「まぁね……って、ちょっと待った。バレてたの!?」
「……え? バレてないと思ってたの!?」

 ここ数日の紳士的活動が、実は全部バレていた事を知り、アオイの話よりも遥かに大きな衝撃を受けてしまった。
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