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第2章 おちこぼれコースの召喚士

第27話 魔法大会のどさくさに紛れておっぱい触っちゃおう作戦

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 対戦相手チームに少し遅れて控室を出ると、数多くの生徒に囲まれ、注目される。
 あぁ、久しぶりの感覚だ。コースの皆の気持ちを背負い、頂点に立つための戦いの場へ出る。
 観覧席からは友人たちの熱のこもった声援が……って、随分と静かだな。ここは闘技場だよな?
 同じ場所に立って居るはずなのに、武道会の熱気とは大きく異なり、観覧席の生徒たちは誰一人として大声を上げる訳でもなく、お行儀よく自分の席に座っている。
 戦闘科と魔法科の空気の違い、男子中心の科と女子中心の科の違いだと言ってしまえば、そうなのかもしれないが、向けられている視線が少しだけ違うようにも思える。

「それでは、第一試合の選手の紹介をいたします。西側に立ち並ぶのが、総合コースA組。アビゲイル選手、精霊使い。グレタ選手、精霊使い。ヴェロニカ選手、精霊使い。流石は総合コースといったところでしょうか。全員精霊魔法の使い手で、今大会の優勝候補です」

 武道会では、周囲の声が五月蠅過ぎて選手の紹介なんて聞こえなかったけれど、こっちでは静かなので、アナウンスが良く聞こえる。
 そのおかげで、この視線の違和感の正体が分かった。同情だ。
 トーナメント戦だから一発勝負だというのに、いきなり優勝候補と当たるなんて……という、憐みの視線が投げられているのだろう。
 戦闘科だって、優秀な生徒は総合コースに集められていたし、彼女たちはきっと優秀なのだろう。精霊魔法だけは。
 だが、戦いにおいては違う。それをはっきりと教えてあげよう……と言いたい所なのだが、相手が全員女の子というのは、どうにも戦い難い。
 せめて戦闘科に居そうな、筋肉ムキムキで棍棒とかを片手で振り回す女の子だったら、まだマシだったのだが。
 ……三人とも普通に女の子らしく顔が整って居て、スタイルも良い。その上エロい格好――もとい、精霊使いの服を着ているし、どさくさに紛れてパンツを覗けないだろうか。

「続きまして、東側に並ぶのが、基礎魔法コース。ヘンリー選手、召喚士。エリー選手、錬金術士……」

 ずっと静かだった観覧席が、俺たちのチーム紹介で初めてざわつく。

「……召喚士? 召喚士って、あの召喚魔法を使う? 嘘でしょ?」
「……錬金術士も大概でしょ。錬金魔法に攻撃系の魔法なんて無いはずよ?」
「……可哀そうに。あの人たちって、基礎魔法コースでしょ? どうせ皆出るのを嫌がって、押し付けられたのよ」

 何故かは分からないが、選手紹介のアナウンスが止まった事もあり、周囲から俺たちに対する言葉がいろいろと聞こえてくる。
 まぁ一般的には召喚士ってハズレスキルだし、錬金術士が攻撃手段を持ってないのも事実だからな。
 実際、俺だって最初は召喚士って言われて、随分と落ち込んだ訳だし。
 しかし、どうしてアナウンスが止まったんだ?

「……えー、失礼いたしました。基礎魔法コース三人目ですが、ジェーン選手、騎士。彼女は、召喚士であるヘンリー選手が召喚魔法で召喚したそうです。ルール上は問題ありませんので、このまま試合を始めます」

 選手紹介が終わると共に、闘技場が更なるざわめきに包まれる。

「……召喚魔法って、ネタ魔法じゃなかったの!? 人間なんて召喚出来るの!?」
「……嘘でしょ!? 召喚魔法は犬や猫を呼び出すのが精一杯だって聞いたわよ!?」
「……けど、呼ばれた人の事を騎士って言ってなかった? 魔法が使えない人なんて、正直役に立たないでしょ」

 ジェーンの存在が気になるのか、最初とは違った視線が俺たちに注がれ、

「は、ハー君。が、頑張ろうねっ!」
「大丈夫だ。エリーは俺が守るから、安心してろ」
「う、うんっ! わ、わかった!」

 エリーが珍しく緊張していた。

「それでは……第一試合、始めっ!」

 開始の掛け声と共に、相手チームが三人とも精霊を呼び出す。
 以前にソフィアと戦った時に見た、大きな光だ。それぞれ赤、緑、水色なので、上位精霊と呼ばれるイフリート、ジン、クラーケンだろう。

『あら、正解です。流石ですね。ヘンリーさん、精霊の勉強をしたんですか?』
(まぁね。宮廷魔術士を目指すなら、精霊魔法の知識もあった方が良いかと思って)
『なるほど。で、三体の上位精霊を前にどうします? ヘンリーさんが本気を出せば、前と同じように魔法を使わせる前に倒せると思いますが』
(そこなんだよなー。相手は優勝候補だなんて言われているだろ? 男だったら、すぐさま殴って終わりなんだけど、女の子だから殴る訳にもいかないし、あっさり倒し過ぎて凹ませても可哀そうな気がするしさ)
『うーん。こちらも適当に魔法を使って戦っている演出をしますか?』
(だけどエリーのお母さんに、人前で無詠唱魔法を使うなって言われたしなー。適当に詠唱っぽい事をしている振りでもしようかー)

 一先ず俺の条件としては、勝利する事と、エリーを傷付けられない事。これが絶対で、出来ればおっぱいを触るか、パンツを覗けたら嬉しいのだが。

『変態王さん。とりあえず、二、三発相手の魔法を喰らっておきますか。それから、どうやって勝つか考えましょう』
(いや、この前アオイ自身が上位精霊の魔法は危険だって言っただろうが)
『えぇ。流石の変態王さんでも、そうすれば懲りるかなと』
(えー、女の子のおっぱいを触りたいとか、パンツを見たいっていうのは、ある意味健全な願望なんだから、いちいち怒らなくても良いじゃないか)
『ちゃんと恋愛をした上でなら、私は何も言いません。ですがこんな大観衆の前で、しかも初対面の男性に胸なんて揉まれたら、あっさり負ける事よりも、もっと落ち込みますよっ!』

 なるほど。そりゃそうか。まぁだからと言って、チャンスがあれば狙って行くつもりではあるが。
 暫しアオイとの話に夢中になり過ぎたのだろうか。
 気が付けば、何故かジェーンが相手チームに向かって走りだしていた。

「ジェーンちゃん! 頑張って! 痛くし過ぎないようにねっ!」
「エリー!? ……いや、それよりジェーン! 剣は使うなっ! 手刀だけで全員倒せる!」
「主様!? 畏まりました。ジェーン=ダーク、参るっ!」

 何とか剣を使うのは止める事が出来たが、その後は一瞬だった。
 俺が走り出すよりも早くジェーンが三人の傍に着いていて、それぞれ背後から手刀で一撃。
 あっという間に、相手チーム全員が倒れていた。

「……え? あ……しょ、勝負ありっ! 第一試合は、基礎魔法チームの勝利ですっ!」

 試合開始の掛け声から、ほんの数秒で試合終了の声が掛けられる。

「ハー君。やったね!」
「主様! 見事、敵を倒してまいりました」
「あ、うん。二人とも、良かったね」

 まさか、テンパったエリーがジェーンに突撃指示を出すというのは、予想出来なかった。
 そのため相手を思いやった演出や、おっぱい。良い感じに接戦を行ったり、おっぱい。僅差で勝利して感動を演出したり……おっぱい。俺のおっぱいぃぃぃ。
 俺が密かに考えていた、どさくさに紛れておっぱい触っちゃおう作戦が、二人の連携によって見事に破られてしまった。
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