上 下
13 / 343
第2章 おちこぼれコースの召喚士

第13話 召喚士と錬金術士

しおりを挟む
 授業は特に問題が無かったものの、エリーを除いて同じコースの女の子から微妙に距離を置かれているような気がした転科初日が終了した。
 アオイに何か俺に悪い所が有ったか聞いてみても、何故か歯切れの悪い言葉で濁されてしまう。
 一先ず、今日も一日様子を見てみようと登校して、

「ハー君。おっはよー!」

 校舎の前に立って居たエリーが、俺を見つけるなり抱きついて来た。
 今日も、おっぱいが柔らかい――じゃなくて、女の子の挨拶ってボディタッチが多いんだな。

「エリー、おはよう」
「ハー君、一緒に行こー」

 もしかして、わざわざ俺を待って居たのだろうか。
 錬金魔法を手伝った事に恩を感じているのかもしれないが、あまり気にし過ぎる必要は無いと言おうとした所で、エリーに先制される。

「ハー君。今日、お昼ご飯を一緒に食べよっ!」
「え? あぁ、構わないけど……どうしたんだ?」
「あのね、昨日のお礼にエリーがハー君にお弁当を作ってきたの。だから、ハー君に食べて欲しいんだけど……どう、かな?」
「良いの!? ありがとう。お昼を楽しみにしているよ」

 ……流石にこんな事を言われて要らないと言える訳が無く、当初考えていた言葉を伝えられなくなる。

『ヘンリーさん。言うべき事はちゃんと言っておかないと、後悔する事になりますよ?』
(そ、そうかな?)
『そうです。忠告はしましたからね? 気を付けてくださいよ』

 アオイに気をつけろと言われたけれど、一体何に気を付ければ良いのやら。
 相変わらず、エリーを除く女子たちからは一定の距離を取られているのだが、視線は感じる。
 悪意は感じなさそうなので、興味を持っているといった感じだ。
 ……俺以外に男が居ないコースだから、戸惑っているのだろうか。

「ハー君、一緒にご飯食べよー!」
「ん? もうそんな時間なのか。どこで食べる?」
「んー、校舎の屋上も温かいしー、中庭もお花に囲まれて良い感じだけどー……あ、ダーシーちゃん! 一緒にご飯食べよー!」

 あ、あれ? 女の子が増えた? というか、エリーに呼ばれたダーシーちゃんっていう娘も想定外だったのか、目を丸くしているんだが。

「え、えっと……私も? 二人の邪魔じゃないの?」
「い、いや。別に俺は大丈夫だけど……」
「ほら、ハー君もこう言ってくれているし、大丈夫。大丈夫。じゃあ天気も良いし、屋上にでも行く?」

 困惑した様子のダーシーがコクコクと頷くと、

「私もご一緒して良いかしら?」
「わ、私も!」
「私も行きたいけど、今日はお弁当じゃないから……急いでパン買って来る!」

 ほぼ全員がついて来ようとしている。
 魔法科の校舎って、女子に大人気なんだな。

 エリーに手を引かれて屋上へ到着すると、俺とエリーが座ったベンチの周囲に、どこからともなくベンチが運ばれ、囲まれる。

「ハー君。どうぞ」
「ありがとう……お、旨いな」

 他の女子たちとは明らかに大きさが違うバスケットの中に、沢山のパンやサラダが詰められていて、エリーが手渡してくれる。
 エリーのどうでも良い雑談をしながらパンを食べているのだが、皆で食事を共にしているというのに、周囲の女子たちが無言で聞き耳を立てているのはどういう事だろうか。

「あ、そうそう、ハー君。昨日初めて成功したでしょ? 家に帰ってから、その事をお母さんに話したんだー」
「えぇっ!? エリー……初体験の事を親に話したのっ!? その……ヘンリー君の事も?」
「うん。話したよ? ハー君が凄いんだよって話をしたら、お母さんも詳しく話を聞きたいから、今度家に連れてきてって」
「えぇぇぇっ!? エリーのお母さんまでっ!? ……ヘンリー君、エリーの家に行くの!?」

 今まで沈黙を貫いていたダーシーだったけど、エリーのホムンクルス製造成功の初体験の話に食いついてきた。
 お母さんも錬金術士だというから、錬金魔法の話をしてもおかしくはなさそうだけど、何か問題があるのだろうか。

「別に隠したりする必要も無いし、俺は全然構わないけど?」
「やったぁ。じゃあ、お母さんに都合の良い日を聞いておくから、是非来てね」
「ひぇぇ。もう親御さんに挨拶だなんて……負けたわ。完敗よ……」

 ダーシーが何と戦っているのかは知らないけれど、何かに負けたらしく、項垂れて……って、周囲の女の子も皆呆然としているけれど、マジで何と戦っていたの!?

『何て言うか……突っ込み要員不在なのが残念でならないです』
(どういう意味?)
『いえ、そのまんまの意味ですよ』

 アオイの呟きも意味が分からず、一先ずエリーにお弁当のお礼を言って午後の授業へ。
 自由研究時間に、エリーから魔法訓練室へ行こうと誘われた時には、教室中から生温かい目で「ごゆっくり」と送りだされてしまった。
 ダーシーに至っては、エリーが一緒に行こうと誘ったものの、

「ご、ごめん。興味はあるけど、いきなり複数人はレベルが高過ぎるよ。流石に初めてはノーマルが良いかな」

 と、意味不明な言葉と共に断られてしまった。
 今日の俺は自力での精霊魔法を使うための練習をして、エリーは昨日と同様に俺を介してアオイに錬金魔法を教えてもらう。
 俺の精霊魔法は成果が上げられなかったが、エリーは手応えがあったらしく、今日も俺の腕に抱きつきながら教室へ。
 エリーがご機嫌で浮かれているのを隠そうともしないからか、女子たちから興味や羨望に嫉妬と、様々な感情のこもった視線を感じる。
 どうしたものかと考えている内にホームルームが始まり、イザベル先生が口を開く。

「では今日は、以前より連絡していたコース対抗魔法大会の代表メンバーを決めたいと思います」
「……エリー。魔法大会って何だ?」
「えっとねー。魔法科の各コースで魔法の腕を競いあう大会で、半年に一度行われるの」

 なるほど。戦闘科でいうところの、武道会みたいなものか。
 あれは盛り上がるからなー。
 日頃の鍛錬の成果をぶつけあい、最強を決めるべく戦う。
 普段共に汗を流して切磋琢磨している友人たちと、互いの全力をもって戦うのだが、コース代表を決める内部の戦いだけでも、お互いの長所や短所を把握しているつもりはずなのに、仲間内にも教えていない切り札があったりして面白い。
 魔法科の魔法バトルか。先ずは、基礎魔法コース内の代表決定戦に勝たなければならないけど、エリー以外の能力を全く知らないからな。
 気持ちは熱く燃えるが、果たしてどんな戦いになるのだろうか。

 戦闘科コースの頃を思い出し、内心ワクワクしながら先生の説明を待って居ると、

「では、魔法大会の基礎魔法コースの代表に立候補する人は……居ないよねー。じゃあ、推薦する人が居れば挙手で教えてくださーい」

 耳を疑う言葉が聞こえて来た。
 代表選手が立候補制!? そして、誰も居なくて推薦制!? どういう事だ!? 俺が元居た戦闘科の総合コースでは、全員が出たくて、数日間かけてガチバトルを行っていたというのに。
 予想外の展開に呆然としてしまっていると、

「はーい! エリーはハー君が良いと思いまーす。ハー君って、凄いんですよー!」

 突然エリーが俺を推す。
 その直後、葬式のように静かだった教室内がざわめきだす。

「そっか。今回は男子が居るんだ。是非、お願いいたしましょう!」
「でも、魔法大会は三人のチーム戦だよ? ……あ、でも彼が出るって事は、エリーも当然出るよね」
「そうそう。きっと全力で守ってくれるもんね」

 どこからともなく俺とエリーをセットで考える意見が飛び交うのだが、先ず魔法大会がチーム戦だという事に驚かされる。
 魔法科に来たばっかりなんだから、ルールを説明して欲しい。
 そんな事を考えているうちに、

「うん。ハー君が出るならエリーも出るよー。ハー君は、絶対にエリーを守ってくれるもんね」

 魔法初心者で召喚士の俺と、錬金術士のエリーが代表メンバーになってしまった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...