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第1章 召喚魔法と大賢者

第2話 召喚魔法は不人気スキル

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 週末の休みを挟み、来週から魔法科へ通うように言われ、トボトボと帰路に就く。
 これからは使い慣れた剣ではなく、この小さな杖を握るのか。
 帰り際に教官から渡された初心者用の杖と入門用の魔導書を手に持つが、とにかく軽い。こんな小枝みたいな杖で一体何が出来るというのか。

「召喚魔法って何だよ。せめて、神聖魔法ならまだ良かったのに」

 軽く目を通した魔導書によると、神聖魔法は神に仕える司祭や神官が使う魔法で、身体の傷や疲労を癒したり、肉体を強化して攻撃力や防御力を高める事が出来るらしい。
 そのため、神聖魔法で自らを強化し、大きな武器を片手に戦場を駆け巡る神官戦士や修行僧が居る程なのだとか。
 その一方で召喚魔法はというと、

――比較的新しい魔法で、遠く離れた場所に居る幻獣や魔獣を召喚し、使役する。召喚する相手によっては非常に強力だが、呼び出すには各々の条件を満たす必要がある。それに加えて、召喚魔法を行使するための準備に手間が掛かるため、実戦で使う事が難しい使い勝手の悪い不人気スキル――

 って、入門書にまで不人気スキルとか書かれているじゃねーかっ!
 というか、俺だって好きでわざわざ不人気な召喚魔法を使いたい訳じゃないし、運命の悪戯で仕方なく使うんだ。
 それなのに、いきなりやる気を削がなくても良いのに。
 そんな事を考えていると、俺が寝泊まりしている学生用の第三宿舎に着いてしまった。
 宿舎には仲の良い奴からウマの合わない奴を含め、同い年で同学年の学生――つまり、今日俺がクラス判別の儀を行った事を知っている者が少なからず居る。

「……もう少し時間を潰すか」

 今宿舎に戻れば、クラス判別の結果がどうだったか絶対に聞かれる。
 俺だって仲が良ければ当然で、そうで無い奴の結果でさえ気になるので、聞き耳を立てたり、人づてに聞いたりするだろう。
 だが、言えない。ずっと成績上位に居て、騎士団入りが確実視されていた俺が、ハズレと呼ばれる召喚士を引いてしまっただなんて。
 言えば憐れみの目で見られ、影で嘲笑されるのは分かっている。
 行くあてが有る訳でもなく、フラフラと彷徨っていると、いつの間にか仕官学校の裏にある小さな山の頂きに着いていた。
 広さはそれなりにあるものの、これといって特別な何かが有る訳でも無い低い山で、何故か住居や農地にも活用されていない場所だ。

「ここなら、誰も来ない……か」

 こんな場所に来る者など誰も居ないだろうと、近くにあった手頃な大きさの石に腰かけると、改めて魔導書に目を通す。
 目当ては、神聖魔法の章だ。

「神聖魔法……これを使えれば、魔法系クラスになってしまった俺でも、国を守る力が得られるはずだ」

 騎士ではないが、騎士団と密接な繋がりのある教会に入れば、まだ俺の夢は破れない。
 そう考えて杖を右手に構えると、魔導書に書かれた呪文を読み上げ、

「ヒール」

 神聖魔法の代表的な魔法として紹介されていた、治癒魔法を使ってみた。
 だが、何も起こらない。魔導書によると、杖の先端に小さな淡い光が灯るはずなのだが、僅かな光すらも生まれない。
 集中力が足りなかったのだろうか。
 杖が折れるのではいかと思える程に右手に力を込め、自分の意識を杖に集中させて呪文を口にし、

「ヒールッ!」

 大声で叫んでみたものの、何の変化も無かった。
 初心者用とはいえ魔法の杖を持ち、魔導書に書かれている通りに行ったにも関わらず何も起こらないのは、魔法の使い方を学んでいないからなのか、俺に魔法の才能が無いからなのか、それともクラスが召喚士だからなのか。

「……とりあえず、原因の切り分けって事で」

 自分に言い聞かせるようにして、召喚魔法の章を開く。
 召喚魔法を使えるようになったところで、これは自分の力で戦う訳では無く、召喚した相手に戦って貰う訳で、はっきり言って気乗りしない。
 一先ず、魔法系クラスを引いたのだから、今まで学んでこなかっただけで、俺に魔法の才能が無いという事は無いだろう。
 なので、とりあえず召喚魔法を使ってみて、何も起こらなければ魔法の使い方を学んでいないから神聖魔法が使えなかったという事になるのだ。

「一番簡単な召喚魔法は……これか。比較的近くに居る者を呼び寄せ、使役する魔法か」

 今居る場所だと、ウサギやリスだろうか。
 ……戦闘中にウサギやリスが現れた所で、何の役にも立たねぇっ!
 同じ入門書に載っている魔法なのに、神聖魔法と召喚魔法で差が激し過ぎるのではないだろうか。
 溜息混じりに魔導書へ目を戻し、そこに書かれている通りに魔法陣? とやらを杖で地面に描いていく。
 治癒魔法は何の準備も無しに呪文を読み上げるだけで良かったのに、面倒臭い上に使えないだなんて、ハズレって言われる訳だ。
 召喚魔法が不人気な理由を十分に理解した後、魔導書に書かれた呪文を読み上げる。
 そして、

「サモン」

 とりあえず、やるだけやってみようと召喚魔法を使った。
 だが、魔法陣にも杖にも変化は無い。
 どうやら、ちゃんと魔法の使い方を学んでからでないと、魔法は使えないようだ。
 時間も潰せたし、そろそろ日も落ちてきたので宿舎へ帰ろうかと思った所で、

『あの、私は何をしたら良いのでしょうか』

 突然、聞き覚えの無い声で話しかけられた。
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