精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

第３章 精霊と新しい暮らしを始める元聖女

第４９話 旅立ちの馬車

　カタカタと馬車に揺られて街道を東へ進む。
　以前に王宮が用意してくれた豪華な馬車ではなく、普通の乗合馬車なので、シートは硬いし、激しく揺れるし、他のお客さんだって乗っている。
　だけど、

「……リディア様、大丈夫ですか？」

　車輪が石でも踏んだのか、馬車が大きく揺れると、すぐさまクロードさんが優しく支えてくれた。
　そう、今回は向かい合わせではなく、すぐ隣にクロードさんが並んで座っているから、シートの硬さなんて気にならないし、揺れる度にクロードさんが気に掛けてくれて、全然苦にならない。
　むしろ、ガタガタの道はウェルカムって感じ。
　しかもこれだけではなくて、

「……ダメですよ、クロードさん。今回は普通の人に紛れて入国するって決まったじゃないですか。私を様付けで呼ぶのはおかしく思われますので、ちゃんと呼び捨てで呼んでください」
「……は、はい。リディア……さん」
「さん付けもダメです。私は呼び捨てが良いのです」
「リ……ディア……」
「はい、よくできました」

　恥ずかしそうに照れながら、消えてしまいそうなほど小さな声で私の名を呼ぶクロードさんが見られる。
　ふふっ……楽しい。
　そんな事を考えていると、私の心が読まれてしまったのか、

「……では、リディア……も、私の事をさん付けで呼ぶのはやめましょう」
「えっ！？　ど、どうしてですか？　別にさん付けでもおかしい事は無いですよね？」
「リディア……が、私の事をさん付けで呼んでしまったら、結局同じではありませんか。どうぞ、私の事はクロードとお呼びください」

　クロードさんから思わぬ反撃が飛んできた。
　でも、クロードさんを呼び捨てだなんて。

「さぁ、どうぞ。私はリディア……の事を様付けではなく呼んでいますよ？」
「うぅぅ……クロードさんが苛める」
「えぇっ！？　そ、そこまで困る事なのですか？　でしたら、一先ず今日の所は……」
「ううん。クロードさんがちゃんと私の事を呼んでくれたし、私も頑張るね。……く、クロード」
「――っ！」
「ど、どうされたんですか！？」

　何故かクロードさんが、突然胸を押さえて俯く。
　一体何事かと思い、慌ててエミリーに治癒の効果を持つディーネちゃんを呼んでもらおうかと思っていると、

「いえ、リディアから名前で呼ばれた途端に、何かが身体を貫いたかのような衝撃が疾ったので」
「く、クロード……ったら、な、名前を呼んだだけなのに、大げさですよー」
「ですが、これまで受けた事の無い程の衝撃がありまして。こ、これが幸せという物なのでしょうか？」

　クロードが恥ずかしい事を口走る。

「も、もうっ！　クロードったら何を言っているのよー」

　いつもとは違い、鎧を身に付けていないクロードさんの背中をペシペシ叩いていると、

『リディア……はしゃぐ気持ちも分からないでもないけど、この旅の目的を忘れないでね？』

　何故か呆れた様子のエミリーから、ジト目を向けられてしまった。