精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人

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第2章 精霊と学校へ通う元聖女

挿話5 魔物に襲われる令嬢

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「ハァッ!」

 静寂を取り戻した森の中で、金属同士をぶつけたかのような音が響き渡ると、大きな熊型の魔物がドサっと地面に倒れた。

「……お怪我はございませんか? お嬢さん」

 先程、鋭い剣で魔物を倒したとは思えない程、優しい目をした男性が倒れた私の手を取り、立ち上がらせてくれた。
 私の手が、男性の大きくて温かい手に触れていると気付き、胸がドキドキして、急激に顔が熱くなる。
 どうしましょう……じゃない! 私ったら、お礼もしていなければ、返事もしてない!

「あ、危ない所を助けていただいて……あ、ありがとうございました。わ、私は大丈夫で……っ」
「おっと。足を痛めたのかもしれませんね。少し、失礼致します」
「~~~~っ!」

 唐突に私の背中と脚に手が触れたかと思うと、ひょいっと身体が宙に浮く。
 初めは何が起こったのか分からなかったけど、抱きかかえられていると気付いてからは、もう心臓が口から出そうなくらいに激しく動いていて、まともに喋る事も出来ない。

「そちらの方は……大丈夫でしょうか」
「は、はいっ! わ、私は大丈夫です。あの、アーシェ様……申し訳ありません」

 突然目の前に現れた魔物から助けてくれた男性が、私よりも先に逃げたフィーナにまで優しい言葉をかける。
 こんな奴にまで優しくしなくても良いのに。私に――主人よりも先に逃げるメイドなんて。
 平民なんだから、囮になって貴族である私が逃げる時間を稼ぐくらいの事をしなさいよねっ!
 こんな私の心を読んだかのように、男性が口を開く。

「すみません。もっと早く助けてあげる事が出来れば、良かったのですが」
「い、いえいえいえ。あ、貴方様は魔物に襲われている私たちを助けてくださったじゃないですか。何を仰られているんですか」
「それはそうなんですが、我ら騎士団は国民を護るのが務め。定期的に巡回は行っているものの、最近は街に近づく魔物が増えてきているせいで、手が足りていないのですよ」
「あ……貴方は騎士様だったのですね。あ、あの、出来ればお名前を教えていただけないでしょうか」
「いえ、私は名乗る程の者ではありませんよ。……む、こちらがお嬢さんの馬車ですかね?」

 見れば、あっという間に我が家の馬車が停まっている馬車まで戻ってきていた。
 男性が私を馬車の座席に座らせてくれて、御者の爺やと何か話している。

「……最近は、森の中に魔物が現れる事が増えてきていますので、ご注意願います」

 どうやら、ただの注意喚起だけらしい。
 きれいな私がどこの家の者で、名前を知りたい……などという話ではなかったようだ。

「それでは、私はこれで。どうぞ、お気を付けて」
「ありがとうございました」

 男性が去った後、

「爺や。あの方は?」
「はぁ。どうやら騎士団の方のようですな」
「そんなの分かっているわよ! 名前とか、どこの隊に所属しているとか知らない?」
「はて……残念ながら、私には分かりませんなぁ」

 早速爺やに聞いてみたけど、ホンっと使えない。
 もうボケているんじゃないかしら。

 ……そんな事があった数日後、郊外の森での散策は危険なので止め、生命の樹の近くを散歩していると、

「アーシェ様。あちらに見える男性……以前に私たちを助けてくださった騎士さんではないでしょうか」

 フィーナがふざけた事を言う。
 あの方は騎士なんだから、こんな街の中心近くを警備なんてしていないはず。

「――ッ!? 私服……しかも、女と一緒!?」
「随分と可愛らしいお嬢さんですね。恋人でしょうか」

 ぐっ……フィーナめ。そんな事、わざわざ口に出さなくても良いのに!
 一緒に居る女は私と同い年くらいに見えるけど……絶対に私の方が綺麗だ! 着ている服だって、身に着けている物だって、私の方が良い物ばかりなのに。
 悔しいので、知らぬ振りをしながらさり気なく観察していると、

「えっと、もし良ければ、これを使ってみてください。昨日、クロードさんに似合うかもって作ったんです」
「これは……ブレスレットですか!?」
「はい。癒しの力を込めてありますので、是非」
「あ、ありがとうございます! 大切に使いますね」

 何かをプレゼントした!
 何よ、あの品の無いブレスレットは!
 私なら、もっとセンスの良い、高級なアクセサリーをプレゼントするのに。
 けど、あの女のおかげで名前は分かった。
 クロード様……今日は一旦引きますが、また必ずお会いいたしましょうね。
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