精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人

文字の大きさ
上 下
3 / 79
第1章 精霊と共に追放された元聖女

第2話 精霊との旅の始まり

しおりを挟む
 十一歳の頃に聖女と呼ばれるようになり、約五年間過ごした家を出る。
 無駄に広くて、結局一部屋しか使わなかったけど、それでも少し寂しく思ってしまう。

『まぁまぁ。それより、どっちへ行くの? 東のイーサリム公国は、ここアメーニア王国よりも更に大きく栄えた国で、とにかく人が多いって聞くし、西のウラーイーツ連合国は商人の国だから、新しく商売を始める人に支援が手厚いらしいよ』
(凄いね、エミリー。よく、そんな事まで知っているんだね)
『まぁねー。伊達に千年も生きてないし、それに精霊からいろいろ聞けるからねー』

 人が多い東の国か、支援して貰える西の国か。
 少し迷った後、

『じゃあ、西に行こう』
(おっけー! じゃあ、早速出発だねー。風の精霊の力で空を飛んで行く?)
『んー、聖女のお仕事でも、それは最後の手段として殆ど使わなかったし、歩いて行こうよ。別に急ぎの旅でも無いしね』

 ゆっくり歩いて行く事にした。
 今までのお仕事では、街から街への移動は馬車だけど、街から精霊石のある場所までは徒歩だったから、歩くのには慣れている。
 それに、いつも目的地へ急いでいたから、こうしてゆっくり町並みを見て歩くのは初めてかもしれない。
 日が傾き、オレンジ色に染まる大通り。美味しそうなパンを売る露店や、美味しそうなスープを売る露店や、美味しそうな……

『……リディア。リディアってば。さっきから、目が食べ物にしか向いてないよ!?』
(だ、だって、お仕事が終わって、ご飯を食べる間も無く追い出されちゃったんだもん)
『何か買って食べればいーじゃない。お仕事でもらった給金って、今まで殆ど使ってないんでしょ?』
(だけど、これから何があるか分からないし、使わない方が良いと思うんだ)
『でも……じゃあ、いつものでいい?』
(ごめんね。じゃあ、いつものお願い出来るかな)

 エミリーからも食事を取るように言われたので、美味しそうな露店通りを通り抜け、街の外へと向かう。
 街の門では当然兵士さんが立っているんだけど、近場の洞窟なんかへ行く事もあって、私はしょっちゅう街を出入りするので顔パスで通る事が出来る。
 街を出て、街道沿いに少し歩いた所で、

『そろそろ良いんじゃない?』
(そうかな。じゃあ……あの川の近くにしよう)
『はーい。じゃあ、先ずは……ドリアードッ!』

 エミリーが樹の精霊のリーアちゃんを呼び出すと、そのリーアちゃんの力で、あっという間に私の背よりも少し高いくらいの樹が育つ。
 そこには赤い木の実が沢山生っていて、その実――リンゴを一つ取る。

(ごめんね。いつも、ありがとう。……いただきます)
『どういたしまして』

 リーアちゃんはいつも一言二言しか喋ってくれないけど、可愛い笑顔を浮かべて姿を消す。
 薄暗い夕暮れの中で、紅い宝石のようなリンゴを一口かじる。

「……おいしいっ!」
『今日は結構歩いたのに、飲まず食わずだったからね』
(それはそうなんだけど、それを差し引いてもリーアちゃんの果物はいつも美味しいよね)

 今回はリンゴだったけど、みかんや桃にバナナとか、その時々で、リーアちゃんはいろんなフルーツを生み出してくれる。
 その時のリーアちゃんの気分なのか、それとも季節や土地柄なのかは分からないけれど、いずれも瑞々しくてとにかく美味しい。
 ただ、樹が丸ごと一本生えるから、食べきれない程の実が出来てしまう事が、困り事と言えば困り事なんだけどね。

『じゃあ、リディアはそのままご飯を食べててね。次は……ノーム!』

 続いて土の精霊のムーちゃんが呼び出され、石と土を使ってあっという間に小さなレンガのお家が出来た。

(ムーちゃん! 今日もありがとう!)
『気にしないでー。じゃあ、またねー!』

 ムーちゃんのレンガのお家は、あんまりないけど予定していた目的地と違う場所に着いてしまったりとか、あんまりないけど思っていた場所に街が無かった時とかに使わせてもらう。

『要はリディアが道に迷った時だよね』
(ま、迷ってないもん。それに、こういうのはレアケースだし)
『最近は道を間違えていた時に、見かねてウチが指摘するもんね』
(むー。まぁ、その……エミリーにはお世話になってます)
『まぁ、お世話になっているのはお互い様だけどね。さてさて、次はウィル・オー・ウィスプ!』

 作ってもらった小屋に入ると、今度は光の精霊のオーちゃんが天井に淡い光を生み出してくれた。
 えっと、実は私が真っ暗だと寝られないタイプで、これは本当にオーちゃんのおかげで助かっている。

(オーちゃん。ありがとー!)
『……』

 無口なオーちゃんが、気にするな……とでも言いたげに手を振り、姿を消す。
 それからリンゴを食べ終えた私は、これからどうしようとか、アクセサリーの形だとかを考えたり、エミリーとお喋りしたりして、

『じゃあ、そろそろ寝よっか』
(だねー。エミリー、おやすみ)
『おやすみー』

 聖女を辞めた初日は特に何も無く、移動で終わった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?

如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。 留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。 政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。 家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。 「こんな国、もう知らない!」 そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。 アトリアは弱いながらも治癒の力がある。 子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。 それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。 「ぜひ我が国へ来てほしい」 男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。 「……ん!?」

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

処理中です...